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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第八章 句由比華澄
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第百十五話 『敵対心』

 麗美香を救ける、そう宣言して階下へ向かったものの、結局元居た屋上へ戻って来た。それは、nullさんの譲歩と提案があったからである。

 nullさんの提案は、今すぐ屋上へ戻るのならばnullさんも麗美香の救出に協力する事、そして、屍魔を退治するのにこちらが協力する事だ。

 麗美香の救出にnullさんの手が貸りれるのは凄く有り難い。願ってもない事だ。それに屍魔は倒せるなら倒したい。自分たちだけならとても太刀打ち出来るビジョンが視えない。メイも非協力的だしな。

 まあ、そういう事で屋上に戻って来た訳だが、nullさんの目的はメイドさんへの尋問だったようだ。まあ、一旦安全なエリアに退避する意味が大きかっただろうけど。

 そしてそのメイドさんは疲れ果てて突っ伏している。nullさんの尋問がかなり精神に堪えたようだ。


「言い掛かりはよしてもらいたいんだが。わたしは優しく質問していただけじゃないか。きっと彼女は疲れていたんだろう。無理もない。突然怪物たちに襲われたんだからなあ」


 nullさんは、しれっとそんな事を云う。


「随分と脅していらした様に視えましたけどね。お前の返答如何でお前やわたしたちの行く末が決まるとか、怪物に捕まると、時間をかけてゆっくりと咀嚼されて痛みが永遠と続くとか」


 そう、nullさんはメイドさんからこの屋敷と麗美香の爺さんの情報を引き出そうとして尋問していたのだ。メイドさんは、メイドとしての秘匿義務がありますからと最初は答える事を渋っていたのだが、nullさんの言葉巧みな脅しに屈したのだった。


「いやいや、あれもわたしなりの優しさだよ。メイドとして簡単に雇い主の秘密をバラすわけにはいかない。当然の事だ。なので、あいつが話しやすくする為にした事だ。状況的にやむを得なくってやつだ。どうだ? わたしは優しいだろう?」


 そう云ってnullさんは、いやらしく笑った。


「お陰でいろいろと解っただろう?」


 そう、いろいろと解った。メイドさんによれば、雇われたのは今年の4月からで、今までこの屋敷で爺さんと直接会った事はなく、いつもテレビモニター越しでのやり取りだった事。他の人間にも会った事はなく、たまの来客はあるものの、その時も爺さんはモニター越しだったそうだ。メイドさんが立ち入りを許可されているのは屋敷の本館だけで、それ以外の場所は行ったことがない事。そして、ときどき大量のトラックと多数の会社のスタッフが作業にやって来た事などである。後は、別館の方に一度好奇心で覗きに行ったとき、小学生ぐらいのツインテールの女の子を見た事。


「さて、ここもそうそう持つまい。今は音戸がなんとか凌いでいるが、いずれ此処にも奴らはやって来るだろう。それまでに動くぞ」


 タマがこの屋敷のシステムに侵入して屍魔の侵入を防いでいるらしい。何をどうしているのか解らないが、この屋敷は普通の屋敷では無いようだ。至るところに防火シャッターのような物があるらしい。監視カメラで屍魔を追いつつ、それら降ろしたり、誘導したりしているようだ。


「それでは、わたくしたちはこれにて引き上げます、とのことです」


「そうか。では神鏡の爺さんの始末は、任せたぞ。お前らの事だ、地の果までも追い詰めて殺すのだろう? プライドの高い連中だからなぁ、お前ら魔術師という連中は」


 nullさんの辛辣な言葉にメイがどう返すのかと期待したが、ニーナが首を振り、返事が無い事を伝えてきた。


 しかしここでメイたちは引き上げるのか。確かにメイたちの目的が爺さんの処罰だとして、それが無駄足だからって屍魔を放置して去るとか人情がない。nullさんの話では、神鏡の爺さんは、ここには居ないとの事だ。だとしたら麗美香も騙されていたって事かな。じゃあ麗美香は今何をしてるんだって話になるんだが。

 ここでメイに手伝ってくれって云ったとしても、また自分たちの仕事じゃないってはねられるのは目に見えてる。惜しい戦力だけど、致し方無し。


 とりあえずのお礼をメイに伝える。まあ、一応護ってくれてたみたいだからな。


 メイの召喚獣である大猫は軽く頷き返すと、すうっとその姿を消した。


 さて、では麗美香救出作戦の開始だ! 気分を入れ替えて、気合を入れる。


「nullさん、どうします?」


「ん? それをわたしに訊くのか? わたしはお前に協力する立場だぞ。お前の指示に従うよ。この命はお前に預けた。もう身も心もお前のモノだよ」


 nullさんはとんでもない事を云う。ここで自分が指示をするとか有り得ないだろう。確かにnullさんの静止を振り切ってやろうとした事に違いないけど、自分より遥かに頭がよく経験も豊富な人を差し置いて、自分がとか。


「もしかして、これもnullさんなりの優しさとかですか?」


「ふふふ。気に入ってもらえたかな? まあ、助言はさせてもらうよ」


 そう云ったnullさんは、この上なく愉しそうに笑った。


 しょうがない。もうこうなったらやるしかない。

 麗美香を救ける。まずは、麗美香が何処に居るかだが。


「金太郎の位置は、音戸が掴んでいる。今、データを受け取ったところだ。それと、あの怪物たちに会わないルートも策定してある。案内は任せろ」


 もうすべて準備出来てたんだなあ。敵わない。そう強く思った。


 そしてそれはやがてnullさんに対する敵対心に変わっていった。

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