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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第八章 句由比華澄
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第百三話 『決戦準備』

「おい、金太郎を助けに行くぞ」


 喫茶店を出て、帰りのバス停に向かっていたら、後ろから声を掛けられた。

 聞き覚えのある声。そう、待ち望んでいた声だ。


「nullさん!」


 つい、喜び勇んで振り返りその名を呼んだ。


「まったく非道い奴だな、お前は。私の名を公衆の面前で叫ぶな。偽装の意味が無いではないか、まったく」


 nullさんは、アメリカ海兵隊の様な格好をしていた。アーミーブーツに迷彩柄のカーゴパンツ、ミリタリージャケットという出で立ちだ。流石に銃火器などの装備はしていない様だけどね。そして背が小さいので、(おおよそであるが150センチあるかどうかなので、)周りからは海兵隊だと思われずただのファッションと認識されているだろうと想像する。まあ、背の小さい海兵隊も居るかも知れないが。


「その格好で偽装なんですか? 返って目立つと思いますけどね。そういえば前に一度、そんな格好していましたね。ええっと、一回目の化物退治のときでしたっけ?」


「そういう事だ。また闘いになる。今度は人間相手だがな。それでお前に盾になって貰おうと思ってな。こうして危険を犯して会いに来てやったんだ」


 久しぶりの再会。待ち望んだ再会だったはずだが、盾って。なんかやばそうだな。


「人間相手の闘いに、ただの高校生を巻き込まないで下さい。それに盾ってひどいじゃないですか。それに、なんですか。会いに来てやったって。まるでこちらの為みたいに云わないでください」


「もちろんお前が盾以外の役に立てるならそれに越したことはない。それにこれはお前の為だと思うがな。金太郎はお前の友人なのだろう? 友人の危機をお前に教えてやろうと思ってな。私が知りつつ教えなかったらお前に嫌われると思ってな。こうしてわざわざ伝えに来てやったんだ。感謝しろよ」


 nullさんは、そう芝居がかった台詞を吐いて嫌らしく笑った。

 だめだ。この人に何を云ってもはぐらかされるだけだ。がっくりと肩を落とす。

 具体的な話を訊こうとしたら、「時間が無いので詳しい話は車の中でだ」と遮られた。

 NULLさんが手を上げて合図すると、黒いリムジンが側まで来て停まった。窓がすべて真っ黒で中が見えなくなっている。

 車の後部座席の扉が自動で開いた。


「さあ、早く乗れ。ああ、その子をどうするかはお前に任せる。連れて行くのもよし、置いていくのもよしだ」


 NULLさんが顎で示した相手はニーナだ。

 詳しい話を訊いていなくても危ない事をする気なのはわかる。そこにニーナを連れて行くのは躊躇われた。

 その躊躇いを察したニーナは、こちらをきつく睨んだ。それは自分も付いて行くという強い意志の現れだ。


「来るなと云っても来るんだろ?」


 そうニーナに伝えて、nullさんの後に車に乗り込んだ。

 ニーナも嬉しそうに後に続いた。

 

「よし。出してくれ」


 nullさんがそう告げると、リムジンは静かに動き出した。

 詳しい話を訊こうとnullさんの方を視ると、「そう熱い視線を向けるな。照れるじゃないか」とはぐらかされた。

 まだ話す気は無いらしい。もしかしたら、運転手に聴かせたくないのだろうか。


 完全にこちらの視線を拒絶したnullさんを諦めて、ニーナの方を視る。ニーナはこちらをじっと見詰めていた。その視線は、不安でも疑問でもなく、信頼の様だった。

 ただ、自分には信頼される様なものは何も持ち合わせていない。今まで、ただ状況に流されていただけだ。今回も何も解っていない。NULLさんに云われるがまま車に乗り込んだだけだ。

 麗美香を助ける。NULLさんはそう云った。麗美香がどういう状況に居るのか、自分は知らない。確かに自分は盾にしか使い道はないのかも知れない。


 車は山の中を走っている様で、何度も急なカーブを通り、その度に身体が左右に揺さぶられた。

 外側からは真っ黒で中が視えない窓であったが、中からは外が視える。木々が一杯の森の奥に、どんどん登って行く。

 いったい何処へ向かっているのだろうか?かれこれ一時間近く走ったのでは無いだろうか?


「着いたぞ。降りろ」


 車がゆっくりと停まると、ずっと黙っていたNULLさんが開口一番そう云った。


 車から降りると其処は少し小さな広場になっていた。山の中腹位か。まだまだ上の方に登る道がある。


 運転手だけになったリムジンは、Uターンして元来た道を引き返して行った。


「NULLさん、何してるんですか?」


 リムジンを見送った後、NULLさんを視ると真剣な表情でスマホをじっと見詰めている。


「いやぁ、なーに、最近はどういう訳か私の敵が急増していてな。用心は怠れないんだよ。あのリムジンがちゃんと帰っているか確認をしているんだ。ほら」


 そう云ってnullさんはスマホを此方に向けた。

 その画面には地図の中に1つの光点が動いているのが視えた。


「よし、では先を急ぐぞ。もうすぐ真っ暗になるからな」


 陽はもう沈み、辺りはすでに薄暗くなっていた。あっという間に真っ暗になるだろう。

 自分とニーナはnullさんの後に続き、道路を外れて山道を進んだ。


 すっかり真っ暗になり、nullさんが点けた懐中電灯を頼りに目的地へ向かった。

 いや、そもそもどこに向かっているのだろう? nullさんに訊いても、今にわかるとしか返って来なかった。


 ニーナも一生懸命付いてくる。足の早い彼女であったが、さすがに山道は堪えるとみえて辛そうだった。はぐれては面倒なので、手を繋ぐと、彼女は少しホッとしたように顔を綻ばせた。自分で付いて行くというような姿勢を見せた手前、弱音を吐く訳にはいかなかったのだろう。

 手を繋ぐ行為は照れはするものの、ニーナのこの様子を視た時、自分の判断は正しかったのだとホッとした。


「よし、此処だ。時間まで一息入れるぞ」


 着いた場所にはテントがあった。割りと大きめのテントで、大人が六人ぐらいは寝れそうな広さだった。なんとなく軍隊仕様のテントの様な感じがした。まあ自分はそんなに詳しく無いのでただのイメージでそう感じただけなんだが。


 テントの中に入る様に促されて中に入ると外見以上に広く感じた。この中で暮らせそうな気がしたぐらいだ。テントには予め明かりが灯っていたので予想してなかった訳ではないが、小柄な先客が居た。その先客もnullさんと同じ様に迷彩柄のコーディネートだった。


「遅くなって済まない。こいつを捕まえるのに手間取ってな。首尾はどうだ?」


 nullさんに声をかけられた先客が振り向く。


 とっさに声が出なかった。


「首尾は上場でごぜーますだよnull様。準備万端ですにゃ。後はオヤビンの到着を待つのみですにゃー」


 この顔には見覚えがある。間違いない。


「お前はっ!……音戸……いや、タマ!」


 何故タマが此処にいる?

 頭が混乱して目眩がした。

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