イベント -変わり続ける世界-
「風賢…いやジン…!!」
「やれやれ、そんな敵意を向けられても困ります」
炎皇を逃がした私はアクアとお互いにらみ合いのままこう着状態となっていた。これ幸いと私は聞きたかったことをアクアに聞く。
「しかし、アクア。あなたがまさかフィルに付くとは思いませんでした。プライドの高いあなたが。トウドウが面白半分で乗ってしまうこと自体は予想していたんですがね~。まったく、あなたがせめて中立でいてくれればもっと楽に終わったものを」
「さえずるなジン。世の中全て思い通りに動くわけじゃないぞ」
「これは手厳しい」
思わずと言った形で手を顔に当てる。アクアはそれをうさん臭い顔で見ている。
「だが…そちらの事情を知っているのにこちらの事情を話さないはフェアじゃないか、少なくともあんたには話してもいい事柄だ」
「ほう、相変わらず変なところで律儀ですね」
「…」
「あ、続けてください?」
「…俺は攻略サイトのアフェリエイトで稼ぐ人生の負け組だ。VRを作って偉人に名を連ねる。この世界の創造主でもあるあんたとは天と地ほどの差のある人生だな」
「…」
実際はそんな栄光の溢れるものではない。だがそれを訴えたところで伝わないだろう。成功者の本当の事実何てだれも望んでないのだ。だれもが成功者の夢を見たい。ありもしない虚栄にさらされ妬み、恨み、嫉妬されることのなんと悲しいことか。結局私に残ったのは後悔と懺悔の気持ちだけだ。
「だがな、世間から負け犬と評されようとも。陰口を叩かれようとも。暗い部屋で日がな一日中過ごしても後悔はしていない。それは俺が選んだ道だからだ。俺は現実世界のすべてを捨ててこのVRの世界にやってきた。そうこの世界は俺の世界なんだ。誰が作ったとか他に誰が居るかとか関係ない。俺の全てを注ぎ込んだ俺だけの世界だ。俺は現実の表舞台を捨ててこの世界の表舞台に立った。この世界でこそ俺は輝ける…だからこそ俺の知らないところで俺の関与しないところでこの世界の行く末が決まることが許せなかった。外の世界と同じようにモブとして何にも関われずに変わっていく世界を見るのが嫌だったんだ。だからこそどんな形であれ、この世界の行く末を決める戦いに参加したかった。そう例えそれが間違ったことでもな…」
アクアは淡々と話す。
「なるほど。それがあなたの理由ですか」
「そうだ。リア充どもには理解されない理由だろうがな。もとより理解されるつもりもない。それはジン、お前に対してもそうだ。俺はただ話しておくべきだから話た。それだけだ」
「群れて共有するのではない。自分だけの理由ってことですね。カッコよくていいと思いますよ?私の理由は共有されてはいますが偽りのものですから」
「?」
アクアが疑問の顔を浮かべる。そうだろう。はたから聞いていれば意味の分からない言葉だ。だがこれ以上ここで話すことでもない。
「話も終わったことですし、始めますか?あまりノンビリしていると他の方々が来てしまうかもしれないので」
「ん、ああそうだな」
アクアは一対のチャクラムを。私は通常サイズの剣を出す。
「じゃあ公平にこの木の枝を投げて地面に付いた瞬間から始めるとしよう。…行くぞ」
そして、投げられた枝が地面に落ちた。先に動き出したのはアクアだ。
「アンチノミースプラッシュ!!」
アンチノミー…二律背反と言う意味だ。アンチノミーカード群はその名の通り二つの真逆の効果を持つ。そしてそれを使い分けることで戦うデッキだ。
(しかし、一つの世界を夢見たものが二律背反を使うとは…いや一つの世界を夢見たからこそといったところですか。人は何か一つしか勝ち得ないと言いたいのですかねぇ)
「アンチノミースプラッシュは」
「効果説明は不要。しっていますよ」
私はアクアの親切な解説を一蹴し、アンチノミースプラッシュの効果圏外に移動する。この世界は私が作った世界だ。どんな魔法がどんな効果を持ち、どれだけの範囲でどんな動きを見せるかそのすべてを私は知っている。そして私はこのシステムの性能を最大限に発揮することでVRチルドレンをも超える機動を生み出すことができる。それを利用して風の魔法で飛び回りながらあらゆる攻撃を避け続けたのが風賢と言う名前の由来だ。…彼は飛び回っている時に私が意味もなく高笑いしてたから、なんか悟ってんじゃねとなり風賢という異名になったと言っていたがそんなことはないだろう。彼は頼りになるが細かいところで適当になるのは欠点であるな。
そんなことを考えながら攻撃をギリギリで躱す。だがその瞬間私は異変に気付いた。
「…なぜ…」
気づいた時、私の手札は一枚割られていた。ばかな攻撃は完全に躱したはず…
「くくく!!」
すると目の前でアクアが笑い始めた。
「あはははは!!どうしたジン!!思い通りの結末にならなくて驚いているのか!!だから説明しようとしただろう?人の親切は無下にするものじゃないな!!」
「…どういうことですかアンチノミースプラッシュの攻撃範囲はこのあたりまでだったはず。攻撃が当たるのはあり得ない。一定の法則で物事は動くんですよ?」
「ははは…」
笑っていたアクアがそれを止め私を指さす。
「それだ!そのなんでも分かってますって態度が気に食わないんだ!!あんたは確かにこの世界の創造主なんだろう!この世界のことを全て知っているのかもしれない。だがこの世界に生きているのは俺達だ!!あんたがこの世界を離れ!現実でよろしくやっている間に!俺達は地を蹴り宙を舞いフィールド内を駆け巡った!NPCと交流してカードの性能を何度も何度も試して調べた。この世界はもうあんたのものじゃないんだよ。断言してやる。俺はあんたよりこの世界のことを知っている!!アンチノミースプラッシュは確かに円周攻撃技と直線攻撃技の二つしか存在しない。そしてもともとの攻撃範囲もそこだったんだろう。だけどなジン。完璧に作られる世界なんて無いんだ。作った人間の知らぬところで物語は紡がれていく。アンチノミースプラッシュは攻撃範囲の設定ミスがされているんだ」
「…!!バグ技…!!」
私はその言葉で理解した。バグ技…作り手の意図しない技。効果を組み合わせることで想定外の効果が生まれたり、攻撃力などの設定を入力ミスすることで想定より上げたりしてしまう。あるいはプログラムエラーによるものかもしれない。
元来、カードゲームにはバグ技と呼べるようなものが多い。それはカードゲームが組み合わせを作るゲームだからだ。作り手の意図しない効果をバグ技と呼ぶなら、それは日夜プレイヤーによって生み出される。禁止カードなどが存在するのはそう言ったバグ技をなくすためだ。カードゲームではむしろバグ技が環境を支配し、勝者になることの方が多い。いわばカードゲーマはバグ技のプロフェッショナル。日夜カードゲーマは運営たる作り手と知恵比べを化かし合いを行っているともいえる。
(だからこそアクアがバグ技を駆使することもおかしなことではありませんか)
「ジン。俺はお前がこの戦いに出てくることは予測していた。そして俺の前に立ちふさがることも。だからこそ今回の俺のデッキ[アクア・パラドックス]にはアンチノミー以外にも多くのバグ技が入っている。すべてはあらゆるカードを知り尽くしているお前に勝つための戦略だ!」
(これは一筋縄ではいきませんね)
「さあ、続きを始めよう。変わり続ける世界をお前に見せてやるぞ!ジン!!」




