オープニングイベント -第三ラウンド-
(おい、マジかよ!!)
望んでいた展開のはずなのに俺は思わず悪態を付く。氷の針が五本俺に向かって飛んできていた。
「バハムート!!」
俺はバハムートに命令し、それらを防ぐ。だがバハムートの肌に針は刺さり少なくないダメージを与えているようだった。
(とっさのことで回避が間に合わなかった…。それにしてもいきなりか!?まさかカードを使い始めるなんて…さっきまであれだけ強かったのにクソどう対応すればいい!!)
もう少し弱らせてからカードを使わせるようにしたかった。正直に言おう。いきなり将棋の世界チャンプにあってさあ楽しく将棋を指しましょうなんて言えるか?言えないというか普通に完封される。圧倒的な差があるゲームでは面白味が減少してしまうのだ。相手に追い付くことに必死になって楽しめなかったり、強すぎて楽しめなかったりする。今の状況がその例だ。
確かに勝負は俺の優勢で進めていただがそれはあくまでユーリが使わない人だったからだ余力を残した今の状態でカードを使い始めれば立場は逆転する。完全に相手の優勢になる。こちらが追いつけるかわからない。
(最後の切り札を切りべきか?いやあれはまだ…だが先にバハムートがやられれば…!!)
俺が思考を続けている間にもユーリはこちらに近づいてくる。氷の足場を空中に作りながらその上を歩いて来ていた。
(空中闊歩氷層の陣!!機動力を手に入れてきたか!!)
「はあああ!!」
「くおおおお!!」
槍と剣がぶつかり合う。俺はバハムートから飛び降り距離を取った。
(このままじゃバハムートの巨体は邪魔になる…開けた場所で立て直す!!)
場を離れる俺そしてそれをユーリは追いかけてくる。彼女の口から言葉が漏れ始めた。
『蒼天よ氷よ。相手を凍らせる絶対的な力を私に貸せ!!来い私の魔道!!』
(くそ魔法をドローしやがった!!)
彼女の周りを三枚の光の板が回る。だが彼女はそこから枚数を増やそうとはしなかった。
(くそなめプか?こちとら繁栄期からやっているベテランなんだ負けてたまるかよ!!)
俺は改めて手持ちのカードを確認する。
<C-ゴブリン…ファンタジー基本のやられ役。棍棒を振り回せばもしかしたら敵を倒せるかも?>
<M-ファイアーアーツ…手に持った武器。召喚したモンスターに炎属性を付与する魔法。これさえあれば電子レンジいらずだ!!>
<M-ファイアーボール…炎の弾を三発打ち出す魔法。基本中の基本の魔法。とりあえずファンタジー小説はこれを出しておけば大丈夫>
<C-ウルフ…群れで敵を狩る草原の支配者。かっこいいこと書いてあるけど基本冒険序盤のかませ役>
<T-落とし穴…相手を落とす穴を作る。落とし穴は危険よい子はマネしないでね!!>
(ランクの低いカードが多い。さっきまでの戦いで優秀なカードをかなり使ってしまった。工夫しなければ勝てない!)
「アイスボール!!」
ユーリのその言葉に俺は振り返りファイアーボールを放つことで相殺させる。二つの魔法がぶつかったことによりできた水蒸気があたりの視界を奪う。
「私はカードを使ったこれで条件は同じ…だからこそ負けない!!」
「それはこっちの台詞だ!!今までカード触れ合った年季が違うんだよ!!」
飛び出してきた槍を剣で流し反撃に切り付けた剣を槍で防がれる。見えない視界での攻防の中、俺は落とし穴を仕掛ける。
だがそれはユーリに見極められていた。彼女の放った魔法アイスウィップによって足をからめ捕られた俺は自分の仕掛けた罠にはまってしまう。
「自分の仕掛けた罠に掛かるこれも醍醐味!!」
「悔しいがその通りだよ!!」
ゴブリンのカードをダメージにより失った俺は落とし穴から脱出する。そしてウルフを召喚しそれに乗った。
「離れろウルフ!!」
『氷によって作られしその命、今私に使役され、その力を示せ。来い私のモンスター!!』
「召喚…アイスバード!!」
全身氷でできた氷細工の取りにユーリは立ち乗りこちらに向かってくる。
ドローしては召喚、ドローしては発動の拙いカード使いに翻弄されている自分が悲しくなってくる。
「てか一発でバードとかリアルラック高すぎだろうが!!」
俺は叫びながら逃げる。このままじゃまじでやられる。四の五の言わず最後の切り札を使うしかない…そう考えバハムートの元へと向かっていた。
「ここで終わらせる!!」
『凍てつく情熱によって作られた力。その涼やかな姿を晒せ。来い私のアイテム!!』
「アイスアロー!!」
「それ引くか~!!」
(やばいベテランが初心者のリアルラックに負ける。いやまあよくあることと言えばよくあることだがベテランな以上負けたくね~!!)
(ならやるしかないかこの状況をひっくり返すには俺も運にかける)
結局そうなのだ。どこまでいっても最後は自分の運で全てが決まる。それはありとあらゆるゲームについて回ることだ。
『不確かな力!!我が名に置いて解き放て!!俺のターンドロー!!』
いま俺が使ったのは無指定演唱と言われるものだ。普通演唱はドローする対象の種類の指定を行うだがそれを意図的に省くことで本当に何を引くかわからないが短時間で演唱を終わらせる方法がある。ただしリスクも大きく、演唱のリキャスト時間は他の演唱より長くなってしまう。
俺は恐る恐る自身の引いたカードを確認するそれは…
<I-紅蓮のマント…紅蓮を纏ったマント、氷属性耐性を装備者に付与する。これぞザ・マント!!>
(来た~!!これで勝てる!!)
「纏え紅蓮のマント!!」
俺がそう叫ぶのと同時に氷の矢が俺に突き刺さるだがそれは紅蓮のマントが溶かし防いだ。
「な!!」
驚きのあまりまた口をポカンと開け固まるユーリ。俺は彼女に効果を解説する。
「例え強力なカードであろうとメタ(対策カード)は存在する!紅蓮のマントは氷属性耐性!!!俺に氷属性攻撃はもう聞かない!!」
正確にはアイテムが使える間の話だがそこまで言う必要はないだろう。それを聞いたユーリはにやりと笑った。
「ならその耐性ごと乗り越えて倒す。私は最強だ」
それを聞いた俺もにやりと笑い言葉を返す。
「やれるもんならやってみろ」
そう言葉を交わす俺たちはまたあのバハムートのいる場所へと戻ってきた。
☆☆☆
先にバハムートの元にたどり着いた俺はバハムートを俺とユーリの間の場所へ移動させる。
「ここまでよく頑張ったもんだ。初心者でここまでやれば大したもんだよ」
「何をいまさら」
「正直、ただカードを使われただけでここまで追いつめられるとは思わなかった。だがそれも終わりだ」
「なに?」
怪訝な顔でユーリは俺を見つめる。
「今度出すのはエースじゃない。出したら全てを決するほっどの最強モンスターだエースもこれにいたる過程に過ぎない」
「…」
「ただ戦うだけでは此奴には適わない。しっかりとカードを組み合わせなければ勝てない。ドローしろよ今一枚しか手札ないんだろう?」
「情けをかける気?」
「違うさ敬意を払ってるんだよ。だからこそ五枚全ての手札が揃った状態でアイツと戦えっていってるのさ」
少し頭を俯かせ考えたユーリは頭を縦に振った。
「…わかった」
そしてユーリの元に五枚の手札が揃う。
「じゃあ始めるとするか!!古今東西あらゆるカードアニメの世界では主人公のエースモンスターは進化する。今見せてやるよ俺の…バハムートの本当の力を!!」
「ファイアーアーツ発動!!炎の力は深淵なる龍をさらなる世界へと推し進める。閉ざされた闇の世界の創造の炎!!すべて包み作り変えよ!!顕現せよフレアバハムートぉおおおお!!!」
その言葉と共にバハムートが炎に包まれるそして現れた時闇のような黒色の肉体には赤い脈動するようなラインが入っていた。
「さあ、こんどこそ本当の終わり終焉の最終ラウンドだ!!」
咆哮が世界に轟く…。