イベント -気付けた瞬間-
「く…」
俺は握った拳を壁に叩きつける。
負けた…託されたのに負けた。強引な渡され方だったかもしれない。人によってはあんなの渡した内に入らないと言うかもしれない。だが確かに俺は受け取ったんだ。それだけじゃない俺は…
「たかがゲームだろう?」
そうまで考えたところで後ろから声を掛けられた。この声は知っている。今一番会いたくない相手だ。そして俺はこの相手の試すような言葉の意味も分かっていた。
「わかって言ってんだろう?たかがゲームでも誰もが真剣に挑んでいる真剣勝負だった。ならそこにある思いは本物じゃないか。カードゲームとスポーツと何が違うってんだよ」
俺がそう言うとその人物、アーサーはニコリと笑った。
「ふっ、分かってるじゃないか。ここで頷いていたら一発殴って目を覚まさせてやるところだったぞ」
「っち、体罰は今の時代でも禁止だよババァ。…で何の用だよ」
「見てわかるだろう?落ち込んでる弟子を励ましに来たのさ」
大きく手を広げて言うアーサー。
「さあ、この筋肉に飛び込んで泣いてもいいんだぞ?」
「誰がんなことするかボケ!…それに泣くほどのことじゃねーよ」
「ほう?」
面白そうにこちらの言葉を待つアーサーに俺は語っていく。
「確かに負けたことは悔しかった。折角チャンスを貰ったのにそれを活かせなかったことも堪えた…だけどそれは勝負の世界ではよくあることだ。これをバネにしていけばいい。いつまでも悩んでも仕方ない。それは託した相手にも迷惑だからな。それくらい分かってる…ただ、俺が気にしてるのは」
「気にしているのは?」
「…それは…仲間のことをまるで考えていなかったことだ。最後のあのRE-LITの言葉で気づかされたんだ。俺は自分のことだけ考えて、いやもっと悪い。自分のためになることが、自分の戦闘欲を満たして戦うことが、チームのためになるんだって言い訳して戦っていたんだってことに」
「…」
「どうしようもない奴だよ俺は。友達が欲しいってレギオンを作って仲良くなってレギオンリーダーまでになって。それなのにより強い敵と戦える種目を他のメンバーのことなんか気にせず選んで、いざ戦いが始まったら仲間のことなんて忘れてがむしゃらに敵に向かっていくだけだった」
「戦いが始まったら仲間のことを考えないのは仕方ないことだ、タッグデュエルと言うわけではないデュエルは一対一で戦う。誰もがフィールドでは孤独だ。…だが戦いを通じて魅せることがある、そのデュエル自体に意味を見出すことはできる。フォア・ザ・チーム。メンバーのために何か残せたのじゃないかと、チームのために貢献する方法があったんじゃないかとそう言いたいんだな?」
俺は拳を握りしめる。
「そうだ、粘ってRE-LITの手札を明かすこともできた。結果的に勝ったから良かったが無茶な突撃で負けていた可能性もあった。もっと慎重に動くこともできたはずだ」
「だが、それは可能性でしかない。もう過ぎ去ったことだ。それに意味があったかどうかはわからないぞ」
「それでも!!例え意味がなかったとしても!!その考えを持たなかった自分自身を恥じているんだ!!」
俺がそう叫んだ時、アーサーはふっと笑った。
「成長したな。美雪」
「成長?これが!?自分のダメなところばかり見えて何も変わった気がしない!」
「見えないものが見えるようになったんだ。それを成長と言わないでなんという」
ハハハと高笑いするアーサーが癇に障る。
「何かに気付ければいいのさ、そう気付ければいい、人は気づいていく生き物だ。任せろっと言ったがどうやら必要なかったみたいだな」
「はあ?何の話だよ」
「もう立ち直っているという話だ。頭を冷やしたら直ぐに会場に向かうんだな。セナ君が待っているぞ」
そう言ってアーサーは去っていった。
「っち。わけわかんね~」
俺はそう言って近くにあった石を蹴とばした。そしてその足で会場に向かった。




