イベント -言葉の重み-
チェイスデュエル後、次のデュエルのためにセナが会場に向かった後、しばらくミユを待っていたが一向にミユはやってこなかった。それを不審に思ったミストが疑問を露わにする。
「ミユさんどうしたんでしょう…もう仕合は終わったのに…」
「う~ん。一回負けたくらいで俺に付きまとったりとあれでなかなかプライドが高いからな。リーダーとして勝つ気で行ったのに負けたのが恥ずかしくて顔を出せないとか…あるいは折角チャンス貰ったのにそれを活かし切れなかったのが悔しいのか…どっちかじゃないか?」
俺はそう言い、よっこらしょっと立ち上がる。俺の言葉を聞いたミストが慌て始めた。
「そんな落ち込んでるんですか?大変です励ましに行かないと!!」
そう言って駆け出そうとしたミストの腕を俺は引っ張って止めた。
「っと!?師匠何するんですか!危ないじゃないですか!!」
「お前が言った所で邪魔になるだけだ」
「邪魔!?なんでですか!?」
人助けをするつもりだったのに邪魔者扱いされたミストが少し怒りを露わにする。俺はミストを掴んだ手を離し、そして理由を説明しようとする。
「なんでって…単純に言えば薄っぺらいからだな」
「薄っぺらい?」
俺の一言にユーリが首を傾ける。俺は二人に解説するように説明を始める。
「…ミスト、お前何かに本気になって負けたことはあるか?誰かに何かを託されて負けたことはあるか?」
「…そ、それはないですけど…もともと運動部でもないですし…」
「だろうな。だからこそ薄っぺらくなっちまうんだよ。言葉がな」
「言葉が?」
「そうだ言葉だ。…言葉には重みってものがある。それは経験から来るものだ。単純に言えば敗北を知らない奴に敗北は語れない」
「敗北ぐらい!私だってしたことがありますよ!モンスターに倒されたことだってありますし!薄っぺらくないです!私は!」
まるで負けを知らない御坊ちゃんのような扱いを受けたミストが憤慨する。
「その敗北と今回のような敗北は違うさ。重みに重さの違いが存在するように経験にも違いは存在する。…人が一人で何かに挑むことによって起る敗北は軽い。単純に言えば自分が納得すればそれで終わるからだ。例えどれだけ難しい挑戦であろうとも一人で完結できるのならどんな問題でも自己満足で終わらせられる…だけど仲間と共に何かに挑んで負けたり、誰かに託されて負ける敗北はそれとは違ってくる。重いんだよ、夢とか希望とか目標とか、誰だってそういうのを持って何かに挑むんだ。だけどな誰もが勝てるわけじゃない。スポーツに限った話じゃないこの世は弱肉強食なんだよ。勝つ奴がいれば必ず負ける奴が出る。負けた奴ってのは勝った奴に思いを託すんだよ。身勝手かも知れないがそういう物なんだ。勝った奴はそれを理解して受け取る。試合に負けて涙流してる相手を見たらそいつらの分まで頑張ろうと思うだろう。…ようはそういうことだよ。その時から勝った奴は負けた奴の思いを、重みを背負うんだ。だからこそ負けられない勝たなきゃならない…そんな状況で負ける負けは一人で勝手にやめられる負けとは別物だ、託された思いが重いほどそれは現実となって突き刺さる」
「それって負けなきゃ経験にならないってこと?」
ユーリがムッとした顔で言った。負けず嫌いなユーリには負けることを前提とした理論は嫌いなのだろう。そもそも他のVRMMOで覇者として道場破りのようなことをし続けてきたユーリは敗北と言う言葉を意識したことが少ないのかもしれない。
「必ず負けろってわけじゃないさ。例え勝ち続けたとしても敗者の思いを理解できればそれは経験となって人に蓄積する。大切なのは自分だけじゃないって理解することだな。何に対してでも人が人である限り同じように目指すものは居る。自分はそういう人たちを犠牲にしてその居場所を勝ち得たのだと、勝ち得たからこそそれを活かせるように努力しようとする…それが何より大切だ」
何かを知るということは何もそれを体験しなければならないわけではない。それを見て理解した時点でそれは経験となる。大切なのは理解しようとする気持ちだ。
「…そんなこと考えたこともありませんでした」
「私も」
ミストとユーリが言う。まあ、子供の頃からここまで考える奴は少ないだろう。大抵後になってから気づくものだ。そして…後悔するのだ。
「ここで気づいて理解できたのならそれで大丈夫だ。一度理解すれば次からは意識しないでも理解できる。まあ、それが成長するってことなのかもしれないが…。厄介なのは何も気づかずにそのまま過ごすことだからな、あるいは思いが重すぎて受け入れられなくなって逃げることか…。理解しなくても人は生きていける。責任とか、負けた奴の気持ちとか何も気にしなくても生きてはいけるんだ。だから気付かない。それがどんな事態を起こすかな。響かないんだよ…薄っぺらい人生じゃ思いを叫ぶことすらままならない。何もできないんだ。後から気づいてどれだけ声をあげても、それをすべきだと思って動き出しても重みの無い言葉じゃ、経験の無い言葉じゃ誰の耳にも届かないんだ」
一息ついてさらに続ける。
「誰にも言葉が届かないってことはそこに居ないのと同じことなのかもな。人は自然とそれだけは理解しているのかもしれない。だから人は何か一つだけでも縋りたいんだよ。これだけは誰にも負けない。これだけは声をあげて叫びたいって物を作りたいんだ」
もしかしたら…水精があちらに付いている理由は…。
俺はそこまで考えたところでその考えを止めた。人の行動理由なんて本当のところでは相手自身が打ち明けなければ理解できないものだ。深く考えたところでどうしようもない。俺は会話を続ける。
「ま、なんだかんだ言ったが結局のところ、そうなりたくないなら経験を積めってことだな。大人が良く子供に色々やりなさいっていうのはそういう意味なんだぞ?皆が皆、しっかりと論理で理解できているわけじゃないからそう言った曖昧な言い回しになるが…別に敗北やスポーツのことだけじゃない。他の経験も積めばそれに関連する言葉も人に響くようになる。漫画とかアニメとか…小説の台詞もそうだな。そういった所にも影響がでるから特にミストはしっかりと意識して色々な経験をしたほうが良いぜ?俺は結構アプリ制作の時に苦戦したからな。いや~ゆったりと生きていると後々がキツイくなるって後になってから気づくんだからな~本当に困ったもんだよ。今になって思えば、大学勉強真面目にしとけばよかったわって思うわ。…こんな大人になっちゃだめだからな?」
そして俺は指を一本立てた。
「それと、人間だれにも役割ってもんがある。届かない声があるなら届くやつに任せればいい。ミユのことはもう大丈夫だから心配するな。俺達はセナの応援に移動するぞ」
俺は視線を画面に映す。そこに映るのは自分のフレンドチャットに短く「任せろ」っと書いたアーサーからのチャットだった。




