イベント -目指した世界-
観客席にやってきた俺は無事ユーリ達と合流していた。
「いやーこんだけ居るとどこにいるかわからないよな~フレンド機能の位置探索使っておいて良かったわ」
「位置探索ぅ~!?」
「へぇ~そんな機能があるんですか~」
ミユが素っ頓狂な声をあげる。そしてミストは感心したような表情だ。対してセナとユーリは冷静な表情している。セナが口を開き解説を始めた。
「知らなかったんですか?通りで…さっき居場所がわからないと思いましたよ。てっきり自分の意思で切っているのかと思ったんですが…とりあえずユーリが機能を使っていてくれて助かりました」
セナが呆れたような表情をする。ユーリが機能を知っていたから良かったもののいなかったらこの中から探すしかなかったということを思ったが故の表情のようだ。
…確かにこの人数の中から探すのは気が折れる、…と言うかミストとミユは他のメンバーを自力で探したのか、良くやるなと俺は思った。
「二人とも大会じゃ、機能ONにしたほうが良いぞ?探すの面倒だからな。大会終わったらまたOFFにすればいいだけだし、同じフレンドリストに登録してあるメンバーだからそこまで困った事態にはならないだろ?」
MMOにおいてこのような居場所表示システムは多い。それは広大な世界で連絡を取るために必要だからだろう。似たアバターも沢山いるだろうし、チャットだけでは発見が困難になるが故の機能だ。だがこれには賛否両論がある。それは自身の位置がばれることにより行動が監視されてしまう点だ。このデメリットは対象をフレンドリスト相手に絞ることやいざと言うときは機能を切ることで対応できる。とはいえ、大会で居場所がわからないのは面倒だ、ミユは最後まで渋ったが結局折れ、全員が位置情報を共有した。
「通常、デュエル中ではこの機能を使って居場所を判別することはできないけど、今回の大会ではバトルロワイアルと脱出デュエル、陣取りデュエルで一定時間に一度、戦いを促すためやマップ情報を知らせるためにこれを使って参加者全員の位置を知らせることがあるから見方は覚えておいたほうが良いぜ…と始まったみたいだな仕合が」
その言葉にそこにいた全員が画面に視線を向けた。そしてあることに気付いたユーリが言葉を放つ。
「あれ…引き分けたっていう」
「そう、前回大会でバトルロワイアルで俺が相打ちになった相手…エイトだな」
彼女の視線の先には大柄な機人と戦うエイトの姿が映し出されていた。あのロボみたいなやつは確か未来結社のワンダーリングだったか…。既にトップレギオン同士による戦いが始まっているようだ。
ワンダーリングの武器である巨大な手が放つ攻撃をワンダーリングの真横に飛び退いて回避するエイト。そしてエイトが腕を振るった。すると何も当たっていないはずのワンダーリングが大きく吹き飛ばされる。
「なんだ!?」
ミユの驚きの声、対してセナは冷静に可能性を述べた。
「僕と同じ風属性の攻撃でしょうか、遠くから見たら判別しにくいですし…」
そう意見を交わしている間にもエイトの連撃は続く。彼は手を前に向け呟いた。
「クリア・カノン!」
吹き飛ばされたワンダーリングにさらなる一撃、不可視の攻撃はそのままワンダーリングをなすすべもなく脱落させる。
そしてその瞬間を狙っていたのだろう他の選手がワンダーリングを吹き飛ばし、油断していると思われるエイトに切りかかった。
「…甘いね!」
だが、その斬撃すら見えない何かにぶつかり、止められ防がれる。驚きの余り、無防備になった彼の腹を、エイトは思いっきり蹴り飛ばし二人目の脱落者を作り上げた。
「風属性じゃない。風属性ならあそこまでしっかりと受け止められないはず」
ユーリが語る。彼女は防がれた武器が微動だにしなかったことにより、風属性ではないと判断したようだ。確かに風属性なら風圧を受けて武器が振動するはず…。
俺はユーリの答えに満足し、回答を話すことにした。そう確かにあれは風属性ではない、もっと厄介でもっと恐ろしいカード群だ。
「目の付け所がいいなユーリ。正解だ。あれは、エイトのデッキの名は[見えざる者]…アイツの持つカードの効果は全て実体はあるが見えない…言わば透明な何かを作り出すカード群だ」
「…透明な何か…つまり、先ほどのは透明な武器を出してワンダーリングを吹き飛ばし、そして透明な何かで追撃を仕掛けたということですか…」
「それってずるじゃん。見えない攻撃なんて卑怯だろ」
ミユが声を荒げる。正々堂々の武術を習っている彼女には相手に手を見せず、正面から戦おうとしないその戦い方は余り良い物には映らないのかもしれない。
「確かにこういう見えない系ってよくチートに使われますもんね~」
呑気にミストが呟く、…確かにこのポイントではなくダメージによって手札が割られていくゲームにおいて見えない攻撃や防御と言うのは絶対の優位性を持つものかもしれない…だが…
「いや、ズルでもチートでもないぞ?なんせあれは自分にも見えていないからな」
「はあ?」
「ん?」
「へ?」
「ふむ?」
ユーリ達の情けない疑問の声が響く。そんな中でミユが俺に対してわけがわからないといった形で質問をしてくる。
「どういうことだよ?それじゃ何の意味もないだろう!だって誰にも使えないじゃねーか!」
「それが使えるんだよ。アイツ…エイトならな。そもそもクリアランスと言うカード群は手に入れること自体が難しい。あのカードが手に入るモンスターはどのダンジョンにも出現するが出現率が極端に低い、それに加えてたとえ出現したとしてもモンスター自体が透明で倒さなければ手に入らないといった廃人使用だ」
単純に言えば見えないはぐれメ○ルと言った所か、正直そんなモンスターを追いカードを集めるなんて正気の沙汰ではない。
「このことからもわかる通りエイトは廃人だ、それも他の及ぶものもいないほど重度のな。…エイトは見えない武器である。クリアランスを使い続けることで、何度も武器を出し振り続けることで感覚だけでその武器の攻撃範囲、状態を把握し。扱うことに成功したのさ。…クリア・バーテックス…それぞれを極めたものが集う特定の分野の廃人たちの集団のトップ。レギオンリーダーにふさわしい男ってわけだな」
「良くやりますよね。透明の武器を感覚だけで使えるようになるまで一体どれだけの時間が掛かるか…とてもまねできません」
セナが飽きられたように言葉を呟いた。
「そうだな。俺も良くやるよって思うよ。だけど気持ちはわかる」
「なんで?」
ユーリが俺がふと漏らした一言に疑問を持ち聞いてきた。
「前にも言っただろう?…思いを掛けた分だけ強くなれる…ここ(VR)はそういう世界なんだ。そしてこれは(カードゲーム)そういう物なんだ。だからこそ目指せる。熱くなれる。」
何処までも上を目指せる。カードを集めれば強くなれるし、戦い続ければ経験としてプレイングを鍛えることができる。理不尽な才能や運動能力だけじゃない。それぞれの努力が明確に表れてくれる。明日は今よりも強くなれる。目指せるからこそ、目指しているのがわかるからこそ人は熱くなれるのだ。
「…所詮は遊びだ、ただの自己満だ。だけどそういう物だからこそ一番になりたいのさ。誰でもない自分自身の意思でな。」
あくまでゲームがデータであるようにこの世界も運営が終われば終了して今まで蓄積した物が全て消えてしまう世界かもしれない。だがそれまでの自分の気持ちは築き上げてきたものは本物だ。それは思い出となり、例え目に見えるものがなくなったとしても自身が信じる限り残り続ける。…人はそれを自己満足というのだろう。無駄なことをしているというだろう。だがそれでいいじゃないか結局は世の中は自分の目でしか測れないのだ。自身が価値があると思えばそれは川に流れる小石でも宝物になるのだ。だからこそ自身の価値観で一番を目指したい。誇れるもので一番になりたい…そう考えるのは自然な流れだろう。
そう思うからこそ。
「ここはそんな俺たちの世界なんだ。遊び場なんだ。そう俺も思っているからこそ気持ちがわかるのさ。この世界に打ち込む気持ちがな」
気持ちがわかる。世界とはそこに生きようとする意志によって形を成す。ならばこの俺たちの大切な遊び場も世界じゃないのか。皆が思い楽しみ合うゲームも世界ではないか。人々がそれぞれの価値を誇れるものを持って世界を作り合う。それの価値が色となって人々に様々なものを見せる。そう思うからこそこの世界で人々はプレイヤーとして繋がっていくのだろう。
恐らくこれこそが
「店長の目指してたものなんだろうな。現実に浸食し、色を失うのではなく。遊びとして様々な色を見せる世界…それを実現したくて…頑張りすぎたんだろうな」
「そう…ですか」
それを聞いたセナは何ともいえない表情で呟いた…




