イベント -完全空間支配-
「次の仕合は…確かレイさんが出る試合でしたっけ?」
僕は近くに座っていたライムさんにそう質問した。お兄さんが仕合会場へ向かったあと、僕たちはフラッグデュエルの最終試合を見るためにまだここに留まっている。
「レイサンダーね、うちのリーダー、ナイーブだからちゃんと言わないとだめだよ」
「す、すみませんライムさん」
ちなみに今、この場にいるのはライムたちレギオン一、二、サンダ―の面々と僕だけだ。ユーリはミユを引き攣れてどこかに修行に行っちゃったし、ミストはどこかにふらっと消えてしまった。…何か面白いモノでも見つけたのだろうか?
まあ、そんな感じで僕だけが残された形だ。でも誰かしらは敵情視察はしないといけないのでこうやって残っている。僕は隣にいるライムさんに色々話を聞きながらフィールドを見ていた。
「それで…レイサンダーって強いんですか?ライムさんは色々有名みたいですけど」
僕はふとした疑問を口にした。ライムさんは前回のレギオン戦の時に戦いその強さを知っている。担い手の一人としても有名だ。それに比べてレイサンダーは名こそ有名だが強いという印象は受けない。
レギオンリーダーがレギオン最強でなければいけない理由はないが少し気になった。
「おお、セナ君は結構聞きづらいことを聞くね~」
「あ、す、すみません」
「いや、別に気にしてないからいいよ。レイサンダーも多分そうだろうし…でどっちが強いかって話だけど実は俺よりもレイサンダーの方が強いんだよ」
「え!?」
「意外かい?」
「え、はい…」
「まあ、そうだろうね。レイサンダーの強さはパッと見で理解できない強さだからな~何より俺が弱いってのがあるしね」
僕はその言葉に少し不満を覚えた、ライムさんは前回レギオン戦の際、僕とユーリの二人を相手にして僕を倒してユーリをあと一歩まで追いつめたのだ、そんな人が弱いだなんて嫌味にしか聞こえない。
「おっと。不満って顔だね。ちょっと言い方が悪かったか…そもそも俺のスタイルの強さは皆が言う強さとは別の強さなんだよな」
「別の強さ?」
「そう、俺の基本戦術はメタ戦術だ、だから知っている相手なら対策を立てて戦える…だけど知らない相手はどうしようもないんだ。メタに戦術を割いている以上、俺のデッキには全ての敵に対応できるような柔軟性がない…相手に合わせる形になってしまうんだ、でも逆にそっちのリーダーである炎皇やこっちのリーダーのレイサンダーは自身の誰が相手でも通用する確固たる戦い方…デッキ構成になっている。突出した強さはないがバランスがいい…」
そこで一旦言葉を切って指を立て、解説するようにさらに言葉を続ける。
「バランスよく誰にでも勝てるということなら俺の強さは強さじゃない、むしろ弱い。まあ単純に言えばそういうこと、こういう大会では誰と戦うかわからないから普遍的な強さが大切になってくる…だけど誰もがそのスタイルとは限らない、俺のデッキがメタで力を発揮するようにアーサーのデッキは魔法戦には弱いが近接戦では強い…。多くの人がそんな風に誰もが自分だけのデッキを自分だけの特色を強さを出してくる」
そして締めくくるように言った。
「もし戦いに勝ちたいなら、大切なのは相手のデッキの特色を見極めることだね。一枚のカードは流れを変えることはできても戦略を変えることはできない、戦略を変えられなければ勝つことはできない…どのデッキもまず何をしたいかがあって作られる以上必ず特色が存在する…一見つながりの無いカードであってもね。特色を理解して防ぐように動けば戦いやすくなる。まあメタ戦術的な考え方だけど」
「なるほど…」
大会に参加する人数が多い以上、様々な考えのデッキがある、単純な強さだけじゃなくその特性を、それぞれの強さをしっかりと判断しなければいけないということ、そしてどんな強力なカードもその特色を作るためのピースの一つに過ぎないということですか…
そう僕は理解する、そして始まったレイサンダーの戦いに目をやった。彼は未来結社の青年のような半機人、プライスだ。彼はレイピアを掲げ、後方にモンスターを召喚しながらレイサンダーへと向かっていく。対してレイサンダーは剣玉のような武器を手に取り、後ろへ逃げながらモンスターを召喚した。
「機動兵マスル、装備しろ!!アタッカーユニットv2!!」
「囁く妖精ティファ―召喚、さらに同じく囁く妖精ミフルを召喚する!!」
ロボットのような機械の人形がプライスが召喚したアイテムを手に取る、その間にレイサンダーは二匹目のモンスターの召喚に成功していた。二体を召喚してもレイサンダーの手札は4枚…どうやら既にレイサンダーはフラッグを手にし、それをプライスが追っているという状況のようだ。
「レイ…!!そのフラッグは俺が頂いていく!!」
「レイサンダー!!ホント、皆なんで呼んでくれないんだよ!?」
「その名前がダサいのよ。きっと」
「お前な…!!俺の憧れの名前を侮辱するのは許さないぞ!」
「はいはい分かったから、ホラ前!」
「っち!?」
レイサンダーは自身が召喚した妖精ティファ―と話しながらプライスの攻撃を躱す。…囁く妖精…確か自立思考AIを搭載した、自分で考え、動けるモンスターだ。だけどその代償に基本的な攻撃力は存在しないと聞く。このような戦いの場では用いず、レギオンルームなどでの話し相手としての役割が多いと聞くけど…。
「始まるよ。良く見ておきな。あれがレイサンダーの強さだ」
隣で腕を組みながらライムがそう言う。僕は再び戦いに目を戻した。
「っち、ちょこまかと煩いハエだ!」
「ちょ、ハエってなによ~妖精!フェアリーなんだからね!!」
「足りない火力を補う!換装しろ!!マスル!!装着進化!!」
その言葉と共に機動兵が自身が装備していたユニットを取り込み変化する。そして現れたのは様々な武器ユニットを搭載した新たなモンスターだった。
「機動兵マスルAS!!」
その言葉と共にマスルから発射された弾丸がレイサンダーを狙う。レイサンダーは通路を盾にしてそこに逃げ込んだ。
「やっば!」
「ひぇぇええ!」
「ちょっとお姉ちゃん!!」
それまで無駄話をせずに戦いを観察していたミフルまで言葉を荒げながら逃げ回る。
「あれは…プライスのデッキ[魔工変機]の特徴の一つだな。魔工変機は基本となる機動兵に状況に応じて様々な装着進化用のアイテムユニットを使いモンスターを変更しながら戦うデッキだ。ロボット物の換装系ロボットってイメージかな。きっとレイサンダーのデッキに火力がないと判断して攻撃重視にしたんだと思う…だけど…」
そこでライムはにやりと笑った。
「それは間違えだね。この勝負うちがもらった!レイサンダーのデュエルは柳だ。攻めれば攻めるほど墓穴を撃つ」
確信した様に言い放つライムを横目にしながら僕は半信半疑の気持ちで戦いを見る。
レイサンダーが盾とした通路が破壊され、レイサンダーはその場から飛び出すこととなっていた。レイサンダーと二体の妖精は直接プライスとマスルと対峙することになる。マスルが放ったレーザーをレイサンダーは躱す、だがそれは敵の狙い通りだった、レイサンダーの死角からプライスが飛び出しレイピアを突き刺す。
「後ろ!!」
ティファ―のその言葉を聞いたレイサンダーは振り返ることもせず剣玉の球を動かし、プライスのレイピアを防いだ。
「く!だが…!!」
攻撃を防がれたプライスは深追いせずに一度下がる。そこへ多数のミサイルが飛んできた。マスルの攻撃だ。横方向から多数飛来するミサイルをまたレイサンダーは目を移すことなく躱す、その目はプライスを見つめたままだ。ミサイルの合間を把握し、レイサンダーはプライスに一気に襲い掛かる。
「これも躱すのか!!ならレーザーソード!!」
プライスはレイサンダーを迎え撃つためにアイテムの剣を召喚する。だがレイサンダーは戦うことなくプライスの居る場所を通り過ぎた。
「な!?」
「悪いけど…もう俺の範囲だよ…!!発動!三角の陣!!」
その言葉と共にレイサンダー、ティファ―、ミフルを結んだ線が発生する。それはプライスを中心に三角形を形成していた。そしてその線の中に存在する空間が光り出す。
「ぐぁあああ!?」
そしてその光が勢いを持ち、中央に居たプライスを吹き飛ばした。それを見たライムが解説する。
「あれがレイサンダーのデッキ[囁き合う妖精]の特徴の一つ、陣形系アビリティだ。陣形系アビリティは指定された配置に自身、敵そしてモンスターを必要な数配置することで発動する範囲型アビリティだ」
「指定された配置!?敵もですか!?そんなの発動条件厳しすぎませんか!?」
僕は驚きを露わにする。お互いがカードを使い、様々な手段を取ることができるこの世界で相手を指定の位置に配置する難しさ、そして自身が敵の攻撃を避けつつ指定の場所に行く難しさ、それは群を抜いている。並大抵の行動でできることではない。
僕のもっともな質問にライムは頷きながら答える。
「もっともだ。だけどレイサンダーにはそれを可能にする才能と戦略がある…それが[囁き合う妖精]のもう一つの特徴だ。…なぜレイサンダーが攻撃力も無いモンスターを使っているか…、もちろん陣形によって攻撃力を付加できるからということも考えられる。だけどそれもそれを成せる要素があってこそだ。…囁く妖精の利点…それは自立思考AIによって自分で考え、それをレイサンダー自身に知らすことができるという点だ。レイサンダーは自身の持つ並外れた空間認識能力によって、妖精たちが囁いた情報から辺りの状況を把握することができる…単純に言えばレイサンダーは三つの視点を持って戦場を監視できるわけだ、それも少しのタイムラグで。お互いの死角を補うように動くそれは完全空間支配とも呼ばれ、レイサンダーの異名の一つにもなっているわけだな」
完全空間支配…!!なるほど三つも視点があればお互いの死角をなくすことくらい造作もないだろう。そしてお互いに情報を伝え合えば、瞬時の対応は難しいかもしれないが先ほどのように攻撃を見ないで避けることができる…。そして何よりそうやって把握した位置情報を使ってはまってしまえば回避の難しい陣形系アビリティを使えるのだ。飛び回る二匹の妖精、そして動き回るレイサンダー…たった一つの目線しか持たず俯瞰的に見ることのできないプライスは…いや誰だって躱すことができるわけない。気付いた時には既に彼の範囲なのだ。
…だけど。僕ならあの完全空間支配を…
そこまで考えたところで視線を戻した。レイサンダーは順当に勝ち。フラッグデュエルは終わりを告げた。




