クエスト -「…良かれと思って」-
私は目の前で師匠がビルの方に吹き飛ばされるのを唖然とした表情で見ていた。そして徐々に冷静になり、状況が分かると師匠の元へと駆け出そうとした。
「し、師匠!!」
「…待って」
だがそんな私の手をミライさんが掴み進ませないようにする。
「…行っても邪魔になるだけ…それに…」
ミライさんが何か言葉を発しようとしたその時、煙の中から師匠が飛び出し声をあげた。
「ミ!ラ!イ!~お前!面白そうだからってこっそりクエストを追加したな!!しかもこの猿、クエスト[猿の反撃]の猿王だろう!!わざわざ俺の異名と同じ読みの猿野郎を連れてくるなんて!!」
その言葉にミライさんはいい笑顔を作りながら答える。
「…よかれと思って」
「良くないよ!!よからぬことだよ!!一体ボス増えるだけでどんだけ大変になると思ってるんだ!!同じ読みの敵なんて嫌がらせ以外の何ものでもないよ!!」
師匠は頭を抱え蹲る。その時、敵のローブの男が師匠に向かって声を掛けてくる。
「ふむ、どうやら予想外の出来事だったようだなこの乱入者は。光を継ぐ者と言ってもワシ等、三体を相手にするのは無理と言うやつなのか?既に一枚失っているようだしのう?」
「…炎皇ならこれ位余裕だし」
なぜかドヤ顔するミライさん。師匠はなぜお前が威張るんだ…と呟いている。
ひとしきり悩んだ師匠は突然顔を上げた。そして決意の決まった表情で宣言する。
「…まあ、仕方ねーか!!二人とも手は出すなよ!此奴ら三体は俺が倒す!!」
その師匠の宣言にローブの男はにやりと笑った。
「そうだな、そう来なくては面白くない!!ではいくぞアビスボトム!」
そしてカードを発動させたのだった。
☆☆☆
「…炎皇ならこれ位余裕だし」
そんな宣言をするミライに俺は小声でなぜお前が威張るんだっとツッコミを入れる。
そして、俺はこの状況に少し後悔をしていた。…ミライがこうやって無茶振りをしてくるのは何もこれが初めてと言うわけではない。割と頻繁に何かしら仕掛けてくる彼女に俺は割とその仕掛けも楽しんでやってきた。今日も一人でこの場所に来ていたなら問題なく楽しんでいただろう。不慮のドロー事故も楽しめるのが一流のデュエリストだ、だが問題は今回のクエストは俺の為ではなく、弟子の…ミストのためのクエストだということだ。
ダブルクエストは発生してしまえば複数のクエストが連結して一つのクエストだと見なされる。つまり今回のクエストに関してはクエストリタイアして全てのクエストを初めからやり直すか此奴らを全て倒してクリアするかの二択しか存在しないわけだ。
単純に言ってしまえば友達に勝ってくるわといって出た公式戦での突然の手札事故。なんでお前ここでくるんだよ。他の時なら気にしなかったのに!!と言う展開なわけだ。
一応そうならないように注意していたのだが甘かった。まさかミストをまんま無視した動き方をするなんて、自制心を期待したが無理だったか。…そもそもミストは俺の弟子であってもミライに取っては今日会ったばかりの他人。そこまで気にする相手ではなかったということなのかもしれない。あるいは俺が勝利をする未来が見えたのか…だが未来は変わるため特定条件の場合には未来は見えないとミライは言っていた。だからこそああやって自分で騒動を起こして楽しむのだ。
はあと心の中でため息を付く、起こったことは悔やんでも仕方ない。折角なんだこの状況も楽しまないとそれに…
俺はちらっと弟子の方へ目を向ける。
(弟子の前でカッコ悪い顔見せるわけにもいかないもんな!!いっちょやりますか!!)
俺は気合を入れ直し顔を上げたそして言う。
「…まあ、仕方ねーか!!二人とも手は出すなよ!此奴ら三体は俺が倒す!!」
俺の宣誓を聞いたルーレは笑い先制攻撃を仕掛けてきた。
「そうだな、そう来なくては面白くない!!ではいくぞアビスボトム!」
その攻撃を受け、急激に体が重くなる。俺はカード名からその正体に気付いた。
「重力増加…闇のデパフ魔法か!」
それと同時に猿王が動き出し、ドラードは地面を抉り、岩を投げた。俺は油断なくその動きを見ながら言う。
「さて…と…、流石に3対1だからな、久しぶりに本気で行かせてもらうぜ!!」
俺は意識を集中させた。そして現在の状況を可能な限り洗い出す。そしてそれを全てカードに置き換えて考えていく。
(敵の手札は残り四枚…フィールドにはルーレ、猿王、ドラード…。そして…)
俺はちらりと手札を確認する。
<C-光騎士ユーシス…光を継し戦士。その極めた剣技が敵を撃つ。こう騎士的な?(笑)>
<I-移光点…光の球を出現させる。この球と発動者の位置を一度だけ入れ替える。ポチッ!スイッ!とな!>
<A-ジャッジメントロウ…このカード発動後一定時間の間に攻撃を受けた場合、その攻撃を無効にし、相手を一定時間光の鎖で捕縛する。指定時間は短いよ!!>
<M-ライトライト…使用者が光相手の注意を集める。ヘイト管理的なアレ>
(手札はこれだ…あとはこのフィールド…立ち並ぶあのビルと遊具…そして俺自身は能力低下魔法を受けている途中か)
相手の思考、自分が打てる手そして先ほど出した状況…あらゆる可能性を考える…そして…
(見えた!!)
俺はにやりと笑った。
「炎皇のデュエル…その神髄をみせてやるぜ!!」
その言葉と共に俺は後ろに飛び退いた。
(デパフ魔法の影響を考えて普通は動かず、相手を迎え撃つべきだろう…そうすればデパフ魔法の影響を受けることなく戦える…だが、一見正しいように見えるその選択肢、それは、大いなる間違いだ!)
俺は自身が考えた展開になるように動き始める。
(相手のカードが発動した段階でそれは相手の術中!その上での対策何て!相手の思い通りになるだけだ!俺ならこの場、相手に迎え撃つように仕向けてその上でダメ押しをする!!だとすれば…まずその手を削ぐ!!
「バインド!!」
その時、ルーレの声が聞こえた、同時に俺の腕が縛られ武器を振ることができなくなる。そしてそこに猿王が殴り掛かってきた。
「たった一瞬の隙…それさえあれば十分だ!!来いユーシス!!」
俺は飛び退き開いた猿王と自身との間に現在のデッキの相棒となるモンスターを召喚する。現出したモンスターは猿王の頭を蹴り飛ばした。
「そっちの猿は任せるぞ!!」
「応!」
ユーシスは上手く猿王を動かし、戦いの場をビルの方へと移した。それを見たルーレが舌打ちと共に言葉を漏らす。
「ふん。読まれたか。なかなかどうして…だが何もできない袋のネズミには変わらん。ほれ、ひと手間加えてやろう!ダークエンチャント!」
ルーレはドラードが飛ばした岩に向かってカードを発動させる。闇の援護を受けた岩はその攻撃範囲を広げた。
「動けなくてもな~!!カードは使えるんだよ移光点!」
俺は光の球を出現させ、手は塞がれて投げられないため足でけり上げた。そして岩が自身にぶつかる寸前に宙に浮いた球と位置を入れ替えた。
「さあ、今度はこっちが攻撃っ…!!」
そこで俺の予想に無い展開が起こった。ユーシスと戦っているはずの猿王がこちらに向かって飛んできていたのだ。
「くっ!!」
猿王の鋭い攻撃を受け吹き飛ばされる。地面に落ちた俺が聞いたのはルーレの人をあざ笑う声だった。
「転移魔法を使えるのがお前だけと言うわけでもあるまい。使わせてもらったぞ闇の坑道を!」
(油断した…相手が転移をモンスターに使うことも考慮すべきだった!)
俺はシャインシャボンが失われたことを確認する。そして吹き飛ばされた自身に再び向かってくる猿王を見つめた。
(エンオウ名乗るだけあってやるじゃないか…だけど…まだまだこれからだぜ、諦めなければ挽回できる!!たった一枚のカードだとしてもな!!勝負はここからだ!!)
俺は猿王が再び自分に迫るまでの間に思考した。どうしたらアイツらに勝てるのか…そして決意した。
(やる…しかないな…!!)
そして俺は再び自身の布石の手を打った。