オープニングイベント -開幕バトル-
「はあはあっ…」
薄暗い森林の中を俺は駆け抜けていく。足元に注意しながら一度後ろを振り返ると長い槍を構えた女がこちらをまだ追いかけていた。
「畜生強すぎだろアイツ。ちゃんとデュエルしろや!!」
泣き言を言いながら俺は自分の持っている手札に意識を向ける。現在の手札は3枚、既に6枚をあいつに割られてしまった。俺は手札を補充するために演唱を開始する。
『今ここに、現れよ俺の切り札のモンスターたちよ。俺のターンドロー!!』
演唱の後、何もない空間からカードを引くように手を引く。そしていつの間にか手に握られていた光り輝く板のようなものが大型の本くらいの大きさに拡張し、俺の周囲を他の三枚のカードと共に回り始める。
(これで4枚まで戻した。あと一枚で元の状態まで戻せる!!)
俺は改めて手札を確認する。現在俺の所持しているカードは
<C-ゴブリン…ファンタジー基本のやられ役。棍棒を振り回せばもしかしたら敵を倒せるかも?>
<M-ファイアーアーツ…手に持った武器。召喚したモンスターに炎属性を付与する魔法。これさえあれば電子レンジいらずだ!!>
<M-ファイアーストーム…炎の竜巻を発生させる魔法。森では使わないでね?>
<T-ワイヤートラップ…ワイヤートラップを設置する。通せんぼだ!!>
後半の制作者が考えたおふざけの文言を無視し効果見て思考する。
(だがこのまま逃げても勝てない。ここで一当てして相手の勢いを崩すべきか!)
俺は足を止め振り返る。そして槍の女に向けて発動を宣言する。
「カードゲームってのはなぁ~こうやってやるもんなんだよ。渦巻け炎ファイアーストーム!!」
「…!!」
女は驚いた表情を見せた後、後ろに飛び退く。だがそれは俺の狙い通りだった。
女が飛びのいた木の間で俺が先ほどこっそり仕掛けたトラップが作動する。女はワイヤーにかられめとられ手札を一枚削られ逃げ遅れたことでファイアーストームに当たりさらに一枚を削られた。
2枚となった女の手札を見た俺はすぐさま追撃を開始する。ここで倒せるような簡単な相手ではないと思うがこちらも消耗している以上一気にたたみかける必要がある。
「サモン!!やれゴブリン!!」
炎の渦によって視界を封じられていた女がゴブリンに気付いた時には既にゴブリンは攻撃態勢に入っていた。よしいけるそう思った俺の前で女は自分の槍を思いっきり地面に打ち付け反動で後ろに飛びゴブリンの攻撃をかわした。
「まじかよ!!!」
驚いている俺とゴブリンの前で女は槍を深く持ち直し攻撃後で動けないゴブリンに向けて突き刺す。
「ゴブぅ~」
情けない声をあげながら消えていくゴブリン。俺はそれを息を正しながら見つめる。
「化け物かよ。あの攻撃を躱すとか。使わない人最強なんじゃないかあんた」
女は槍を振り払い再び正面に構えこちらを向く。
「化け物じゃないユーリ」
女…ユーリはそういってじりじりと近寄ってくる。
「別に名前なんか興味ねーよ。それよりもこの世界。…世界初のカードゲーム型VRMMOのアドガルスに来ておいてカード使わないとかお前たち使わない人ってマジ何考えてんの?カードゲームしないとか人生の半分損してるよ?」
俺は減らず口を叩きながら普段思っていることを喋る。そうここはカードゲーム型VRMMO[ブレイブカード]の中のアドガルスという世界なのだ。時はVRMMO繁盛期。人々はまだ見ぬ世界を目指しVRMMOに熱中していった。人の脚で幻想的な世界を駆けるのは確かに人の夢とも言うべきものだろう。だがその一方で衰退していった文化も存在する…それはカードゲームだ。わざわざ机に座り細かいルールを覚え戦うカードゲームは自分の体で冒険するという正反対の属性を持つVRMMOにユーザーを奪われていった。もちろん熟練のデュエリストが突然辞めるなんてことはなかったが新しくカードゲームをやるユーザーは減り徐々に衰退していってしまったのだ。
全世界のカードゲーマが時の世を嘆く中、ついに生まれたのがこのブレイブカードだ。カードとVRMMOを融合させるという狂喜の技で再びカードゲームは蘇った。そうこのゲームはカードゲーマたちの希望なのだ。それなのにわざわざこの世界にやってきてカードを使わずに戦う通称[使わない人]たちの考えが理解できない。
じろりと睨み付ける目をユーリは平然と受け流す。
「別にカードとか関係ないから。私は自身が最強だと証明したいだけ。…そもそも手札を消耗するなんて損もいいところ。カードは盾として使えばいい。」
その言葉に思わず俺はカチンとくる。確かに手札を発動すれば守りとしての役割は果たさなくなる。それはこのゲームの敵を倒す条件が手札のない相手に致命傷を与える…だからだ。確かに効率だけを見ればわざわざカードを使わず攻撃から守る盾として手札を使えばいい。…だが
「ふ、わかってね~な。これだから使わない人は困る。そんな戦いに面白さがあるっていうのか?カードゲームってのはな。相手の思考を読み、裏を書き。自身の最高のコンボを決める…そういうのがサイコーに楽しいんだよ。例えライフポイントやシールドを消費してもそれは全て布石となる。そういった所に面白さがあるのさ。そんな獣みたいにただ武器を振り回して戦うなんてほんと何もわかってねーよ」
「使わない人じゃない。ユーリ」
むっとした顔でこちらをにらむユーリ。心なしか罵倒され少し苛立っているようにも見える。
(っへまだまだ青いな。場を盛り上げる言葉のやり取りだってカードゲームの花だってのにそんな簡単に話を切るなんてな)
「どっちにしても…もう終わり。お前の手札はあと一枚。これで終わらせる」
「さて。それはどうかな」
俺はふてぶてしい態度で彼女の宣言を受け流す。それを見たユーリは怪訝な顔を浮かべた。
「まさか…またトラップ?」
「さてどうだろうか?」
ユーリは辺りを見回すがトラップを発見することはできない。それもそのはずトラップカードは設置すると発見することができない。マジックカードの中にあるカードを使えば発見もできるだろうが使わない人の彼女はそれを使わないだろう。トラップカードは発動するとき設置場所に手を光の板を投げるように向けなければならないためそこで判断しなければいけないが。彼女はファイアーストームの中にいたため判断できないだろう。
警戒する彼女がじりじりと近寄る中。俺は次の手を考えていた。
(ま、はったりなんだけどね。これもプレイングってことで。…さてこれからどうっすっかな…俺のデッキ。魔法とモンスターで主に構築した[魔王始めました]デッキにはトラップ3枚しか入ってないんだよね。あいつ俺の魔物も魔法も躱すし…やっぱり逃げ回りながらスペシャルにかけるか…)
(とりあえず今すべきことは…)
「逃げる!!」
そういって俺は再び森の中を走り始める。そしてそれに気づいたユーリは顔を真っ赤にしながら怒りの表情で追いかけてきた。
「騙したね!」
「俺はトラップがあるなんて言ってねーだろうが。ブラフに騙されたのはお前だぜ!」
『大いなる魔の力よ。我が名においてそれを解放せよ。俺のターンドロー!!』
俺は再び手を振り切り。カードをドローする。
<M-ファイアーアーツ…手に持った武器。召喚したモンスターに炎属性を付与する魔法。これさえあれば電子レンジいらずだ!!>
「ダブったまじかよ!!」
この状況で付与効果二枚。圧倒的な状況の悪さに思わず苦笑する。だがこれこそカードゲームの神髄だ。どれだけ上手くデッキを構築しようと事故るときは事故る。それをどううまく回すかそれが腕と言うものだ。
「しゃあね~やるか!!エンチャント!!ファイアーアーツ」
紅蓮の炎が俺の剣に宿る。
「ふ、この後に及んで付与強化?そんなんじゃ私には勝てない」
「ドローしなかったことをここで後悔するんだな再エンチャント!!ファイアーアーツ!!」
「2重!?何の意味が?」
「範囲上昇、ダメージ2、破壊効果。効果を重ねカードを使うこれがカードバトルの基本だぜ嬢ちゃん!!」
「嬢ちゃんじゃないユーリ」
俺は振り返りユーリへと向かっていく。ユーリも意を決したのかこちらにやってきた。
「所詮、カードの効果。当たらなければいい。私に一騎打ちで勝てるわけない!」
紅蓮の剣と蒼い槍が激突する。何度かの打ち合いの中ユーリが呟く。
「なかなかやる…!!」
「だろうな!だが忘れちゃ困る。俺がやっているのは剣と槍が戦うファンタジーな格ゲーじゃなくカードゲームだぜ!」
そういって俺はでたらめに森を鞭のように伸ばした炎の剣で切り裂きまわる。
「…なにを…!」
ユーリが困惑する中で変化が起き始めた。攻撃を受けた木が倒れ燃え上がり始める。
「これは…なぜ!?」
「ふ、忘れたのかよ2重掛けの効果を!」
「!!まさか破壊効果」
「ご名答!!この森林はパッシブ効果のフィールドトラップ[永遠の森林]!!木が破壊されてもすぐに再生するっていう優れものだが炎属性を持った破壊魔法を使えばフィールドトラップ自体を破壊できるのさ!!」
「!!」
「そして新たに設置されるフィールドトラップは[炎化の闘技場]!!相手を捕えて逃がさない炎の闘技場だ!!大人しくそこで捕まってな!!」
そういって俺は炎の闘技場に包まれこちらに来れないユーリをしり目にそこから逃げ出す。
「あ!!ま、まて!!」
「誰が待つかこの勝負預けておくぜ!!」
そういって俺はこの森林から逃げ出した。