レギオン -踊ル-
「無駄だ!!」
俺は炎皇が放った魔法を見て声を荒げながら魔法を発動する。
「ホールドホール!!」
この魔法、ホールドホールは相手の魔法を閉じ込める異空間を作ることのできる魔法だ。
炎皇の放った炎の渦はホールドホールが作り出した空間に吸い込まれ消える。炎が晴れた先には驚いた顔の炎皇が居た。
(ふふふ、どうだ炎皇?自分の放った一手が不発に終わった気分は。まだまだこれからだぞ俺の戦術は!!)
「俺の戦術のその先っての見せてやるよ!!」
『地の力は世界を基作り、操る。その根源たる魔道の力を我がもとに!!ドロー!!』
俺はカードをドローする。そしてそのドローしたカードを見て笑みを浮かべた。
(来た!!ついているぞ!)
俺の引いたカード…それはエミットホールだ。現在の俺の手札は二枚、そしてトラップは三枚設置している。
手札
<M-エミットホール…空間に収納された魔法を排出する魔法。何を入れたか覚えているかな?>
<T-飛び出しバサミ…地面から飛び出し相手を切断するトラップ。チョッキンちょ>
設置トラップ
<T-ドクドクフロア…地面を毒沼に変える。RPGでありがち!!>
<T-グランドプレス…地面が隆起し相手を押しつぶす。錬せry>
<T-クロスフレア…設置位置から十字に炎が放射される。クロスって付くと必殺技っぽい>
俺はカードをドローして油断している炎皇に向けてカードを発動する。
「喰らえ!!炎皇!!エミットホール!!」
単独では攻撃力の無いエミットホール。だがそれはあるカードと同時に使うことで意味を持つそのカードとはホールドホールのことだ。この二つはいわゆるシナジーカードであり、二つを同時に戦闘で使用することで効果を発揮する。
(エミットホールの効果はホールドホールで収納した魔法を吐き出すことだ。空間から突如現れる魔法の回避は難しい…さすがの炎皇でも躱せまい!!)
俺の目の前で炎皇に向かって炎が飛び大きく燃え盛った。
「ははは、炎皇っていっても所詮こんなものだよ。姉ちゃんは考えなしだからやられたかもしれないけど俺は負けない…ははは…え!?」
炎に焼かれ手札を失う炎皇を想像して笑う俺、だが炎が晴れた時そこにいるのは想像と違った光景だった。
「それは…スライム!?まさかスライムを盾にして魔法を防いで同時にスライムを進化させたのか!?」
そう…そこには真っ赤な色をしたスライムを持った炎皇がいたのだ。
「ホールドホールを使ったならシナジーカードのエミットホールの存在に気を付けるのは当然だろ…それに」
炎皇は大きく振りかぶった。
「言っただろう?こっからは俺のシナリオだってな!!」
そしてフレアスライムを俺に向けて投げてきたのだ…。
☆☆☆
フレアスライムを投げたのと同時に炎皇は走り出した。俺はそれを目にしながら自身の元に飛んできたスライムの対処に追われることになった。
(っち、偶然か何かはわからないが俺の罠の一つにあえて乗せるようにスライムを投げやがった。スライム一匹に罠を消費するのはもったいない…ここは武器で潰すことを考えるべきか?幸い炎皇は走って向かってきているとはいえ罠はある。それで隙を作れば…)
自身の策を破られたことにイライラしながらも冷静に次の手を考える。ちょうど炎皇がドクドクフロアに差し掛かったところで罠を発動させた。
「は!!バカめ。そこには罠があるんだよ!!発動ドクドクフロア!!」
だが、炎皇は焦ることもなくにやりと笑った。
「そうくると思ってたぜ…発動ワイヤートラップ!!」
炎皇は足元が毒沼になったかと思うと少しジャンプをして躱し、同時に手を下に振って罠を設置し、それを発動させたのだ。
「な!?罠の上に罠を!?」
「まだまだ上を行ってるってな!」
ワイヤートラップのワイヤーを足場にさらに高くジャンプした炎皇はこちらに向かって剣を投げた。
「く!!」
俺はそれを躱すために罠から離れる。その剣はちょうど俺と罠の間に落ちた。
(狙いが甘かった…外した?)
そう考えた時炎皇がにやりと笑って何かを発動しようとした。
(違うわざと外したんだ!!起点魔法か!!)
俺は急いでさらに剣から離れる。だが、待っても起点魔法は発動しなかった。炎皇の手には二振りの剣が握られている。
「起点魔法じゃなくて残念だったな」
「くそ、俺を謀ったな!!」
「自分が勘違いしたんだろうが!!」
着地した炎皇は剣で連撃を加えてきた。盾を使い何とか防ぐが状況は刻一刻と悪くなる。
(どうする。罠から話された手札は罠一枚…設置したとしてもその瞬間を見られ対処される。そうすれば手札ゼロの俺の負けだ…。だからと言ってこの位置取りでは罠まで誘導できない!!炎皇め!!どうやって俺の罠の位置を見極めたんだ!?)
「なんで、トラップの位置がばれたのかって顔だな?」
「…!?」
「ばればれなんだよ。ブラフも意外性もない。お前が喋った情報と地形と傾向から簡単に位置を割り出すことができたさ」
「ふざけやがって!!何のとりえもないVRチルドレンですらないオジサンのくせに!!」
「それがお前の本性か…。他人を躍らせていたと思ったら本当は自分で自分を躍らせていたわけだな。これは滑稽だ」
「なんだと!?」
俺は怒りのあまり炎皇に突撃しようとする。だが直前でそれを止めた。
「危ない危ない…そうやって俺を挑発したってそうはいかないさ。ここは引かせてもらう!!」
俺はこの場をあきらめ森の中へと逃げる。そして逃げるさなか死に札になりそうなトラップの一つを発動させることを決意した。
(どうせ使えなくなるなら一匹でも消す!!)
「グランドプレス!!」
大地が隆起しスライムを潰す。俺は深い森の中へと入っていった…。
☆☆☆
(とにかく今は安全な場所に行って手札を回復する!!それにこのまま逃げ続ければアイテムのあの剣はいつか消える!)
『人が作りし力…』
(演唱か!?不味い止めるために攻撃を…いや、これはさっきの挑発のような誘いだ!トラップ主体のこのデッキじゃ肉弾戦は難しい…それを理解してそこに持って行こうとしているんだ…だからこそこれは無視する!!)
俺は炎皇に振り向くことも無く走り続ける。
「…さすがに引っかからないか~。ま、ドローはさせてもらうけどね」
炎皇はカードをドローし手札を増やす。そして俺に言った。
「お前はドローしなくていいのか?」
「く、この状況でできるわけないだろうが!!」
おそらく炎皇は俺が演唱を行うのを待っているに違いない。そしてそこを狙い攻撃するつもりなのだ。演唱失敗のリキャストタイム増加を狙ってるのだろう。手札一枚の俺は奴の攻撃を防ぐことは難しい。リキャストタイムになればそれは即負けを意味する。
(まだだ、まだ希望はある。ここで動くより、今は逃げ続けて状況を変える何か…を待つ!!)
その間、炎皇は手札を補強していた。自身が完全に敵の術中に嵌っていることに俺は気づかないでいた…。
☆☆☆
「は、は、は…あれは!?」
俺は見覚えのある広場が見えてきたことに驚いた。そこには炎皇が投げた剣がまだ突き刺さっている。
(間違いない初めの森の入り口だ。森の中で戻ってきていたのか…だがこれはチャンスだ!!)
俺は迷いなく剣の近く…トラップが仕掛けられているところまで移動する。同時にそこと今来た道を繋ぐ部分に罠を仕掛けた。
「ははは、どうだ炎皇戻ってきたぞ!この場所にはトラップがある。そして今、トラップを仕掛けた!手札はゼロだがトラップに封鎖されて何も出来まい!!」
そう元の位置に戻ってきたことで設置した罠が再び使えるようになったのだ。俺の目の前で炎皇は立ち尽くしている。
「ははは。まずはドローさせてもらうぞ!大地…「そこから離れろマサキ!!」」
「え!?」
その言葉を呟いたと同時に俺の体は炎で包まれた。見えたのは剣が炎を放っているということだけだった…
☆☆☆
「あれどうやったの?」
画面を見ていたユーリが知識のありそうな雷帝に質問をする。
「そうだな…端末を見る限り炎皇は最初から起点魔法…剣炎を持っていた。だから発動事態はいつでもできたわけだな。そして最初に剣を投げたときに発動しなかったのは炎皇の作戦だ」
「作戦?」
「僕が思うにないと見せかけたかったんじゃないんですか?あとあと使うために」
「ほう、なかなか賢いな。そうだあえてあそこで発動させなかったことでマサキは起点魔法を炎皇は持っていないと誤認させられたんだな。あるのにわざわざ使わない…人間は咄嗟の判断ではその可能性に気付きにくいものなんだ。特にマサキは策が破られたことと炎皇の挑発で冷静さを欠いていた。だから良いようにやられたわけだな」
その話を聞いたユーリは新たな疑問に気づいた。
「あれ?でもあの場所から逃げたんだしまた使えるとは限らないんじゃ?あそこに言ったのも偶然のはず?」
それを聞いた雷帝はやれやれと首を振る。
「うーん。ユーリちゃんは戦闘力は高いが思考の方はまだまだ経験が足りてないな。偶然あそこに着いたと思うか?誘導されたんだよ炎皇に。時に演唱で時に攻撃で時にスピードで上手くマサキを操りあそこに向くように仕掛けたんだ。そして打てる手がないという状況で希望を見つければそれに縋っちまう…それを利用して指定の場所に導いたわけだな」
「なるほど…」
「ま、実際上手く決まるかは運の要素が強いだろうがな…ともかく策の掛け合いは炎皇の勝ちってやつだ。…次の戦いはどうなるかな?」
その場にいた全員は再び画面に目を向けた。
解説
マサキは現代っ子のVRチルドレンの大勢と同じように心の奥底でナチュラルに何のとりえもない大人をバカにしています。だからあんなにもオジサンを強調し、他にも候補はあったのに炎皇を利用しようと考えたのです。
また戦闘中炎皇が言った。「他人を躍らせていたと思ったら本当は自分で自分を躍らせていたわけだな」と言う言葉の意味は他者の実力を見ようとしないばかりに他者を操っているつもりが自分で自分を間抜けに躍らせてた(やられ役になりそうになっている)と指摘しています。




