チュートリアル -仲たがいの仲裁-
「ふあぁあ…」
「眠そうですね…」
ブレイブカード内で再びセナさんと再会した俺たちは一緒に草原のモンスター狩りに来ていた。
「まあな。ユーリと一緒に一晩中アニメ見てたからまだ眠いんだ。やっぱり俺は三期が一番好きだな~」
「私は二期が良かった」
俺の感想に合わせてユーリも感想を言う。三期はラスボスがラスボスしててとてもいいのだ。二期も二期で色々入り混じっていて面白いがラスボスが良くわからないからあれだ。むしろラスボス一歩手前のボスの方がヤンデレでインパクトがあった。
そんなことを俺たちがいっているとセナさんは驚いた顔をしてこちらを見た。
「え、一晩中見てたんですか?一緒に?恋人か何かだったんですかお二人は…もしかして邪魔してますかね?」
「恋人!?誰がこんな幼女と!俺がロリコンの変態にみられるだろうがやめてくれよ」
俺は笑いながらそう告げる。するとユーリもムッとした顔をして反論した。
「私もこんなおじさんごめんだし」
「誰がおじさんだと?ここではお兄ちゃんと呼べといってるだろうが」
俺たちがそんなことをわいわいとやっているとセナさんは少し震えながらユーリに対して質問をしてきた。
「幼女…もしかしてVRチルドレンですか?」
「そうだけど…なに?」
ちょっと不機嫌そうな顔をしてユーリは答える。VRチルドレンと呼ばれるのはあまり好きでないのだろう。オフ会の時から俺はなるべく言わないようにしてきたのだ。
「親子…じゃないんですよね?一緒に暮らしてるわけでもないんですか?」
「ん?ああ、まあそうだがどうしたセナさん?」
俺は答えながらセナさんの様子がおかしいことに気付いた。顔は俯いたままピクリともしていない。
「まさか…一人暮らしをしているんですかユーリさん?」
「それが…なに?」
ユーリの発言に敵意が乗り出す。そのことはユーリも深く突っ込まれたくないところの一つだ、セナさんが何を思ってVRのマナーを破ってまで質問してきたのかがわからない。
「そんな…なんで…」
フラフラと動くセナさん。ユーリは気味の悪いものをみるようにそれを見ていた。
「なんで!!すべてを持っているはずのあなたたちが!!僕と同じ目に合っているんだ!!デッキオープン!!」
「おい!!セナさん!!」
「何言っているのセナ?だけど…勝負っていうなら受けて立つ…デッキオープン」
俺の制止も適わず二人はデュエルモードを起動し、戦いに入った。ロイヤルバトルモードでなけば第三者は介入できない。俺が見てる前で二人は口論を激しくしながらもカードを使って戦う。
「お前たちは全てを持ってなければいけないんだ!!その為に与えられた力だろう!!そうじゃなきゃ僕は…なんで失ったのかわからないじゃないか!!なんで僕と同じ目にお前があっているんだよ!!」
「勝手なこと言わないで!!私だって臨んでVRチルドレンになったわけじゃない!VRチルドレンじゃなくても私は良かった。…じゃないほうがよかった!!」
「じゃない方が良かった?じゃなくても良かった?…そんな傲慢許すことなんてできるか!!」
なるほど…戦いを止めることができなかった俺は冷静にコレが起きた理由を二人の会話から導き出していた。
(つまりはセナさんは電脳アレルギーだったってわけだ。電脳アレルギーがどうやってVRをプレイしているのかわからないが新しい外部コントローラが開発されたか何かしたのだろう。…寝っころがった時に喜んでるっていったのはそれが原因か、そして電脳アレルギーのセナさんはそれゆえにVRチルドレンになることが出来ずに親に捨てられた…。だからVRチルドレンにコンプレックスがある…まあなんとなくわかる気もするけどな力を持てずに何かを失えば力を持っていればなんとかなったと思いたくなる気持ちはわかる…つまりセナさんは失った原因を自身がVRチルドレンに成れなかったせい、VRチルドレンになっていたら今頃幸せな日々になっていた…そう自分に言い聞かせてきたのだろう。だがそこにVRチルドレンなのに自分と同じ目にあっているユーリを見つけて前提が崩れた。VRチルドレンでも失うならなんで自分は失ったのか…そう思って思わず暴走したってところか。対するユーリは自分がVRチルドレンになったせいで親に捨てられた…だからVRチルドレンなんだから全てを持って幸せに暮らしてろよ!!ってセナさんに言われて怒りを覚えたってことか。そのために言ったVRチルドレンでなくても良かったって言葉に、なる資格すらなかったセナさんが激怒したと…)
「くそ…また僕は…」
気づくと既に勝敗は決していた。ユーリの槍が手札を失ったセナさんの首元に伸びている。動揺したセナさんはどうやら持ち味のデュエルタクティクスを活かせなかったようだ。
「これで満足?」
そういってユーリはセナさんを見つめる。
「満足!?…満足なんてでき…ゴホ…るものか!!」
突然ゴホゴホと言う声がセナさんの言葉に交じる。
「おい、大丈夫か?」
「そうやって簡単にお前たちは僕を越えていく…!!僕だってその力が欲しかったのに!あんなに努力したのに!それさえあればあんな思いはしなくてすんだのに!くそぉ~!!」
その言葉と同時に何かが落ちる音がしてセナさんはピクリとも動かなくなった。そしてその姿が消える。
「外部コントローラが壊れて強制ログアウトになったのか?まあ、今の俺に調べる方法はない…か」
俺はそう言ってユーリの元に近づいた。
「私が悪いっていうつもり?」
「いや、そんなことはいわないよ。どう見たってこれは突然怒り出したセナさんが悪い…ただ、どうしたもんかな~これは…」
「…」
俺はセナさんが消えたところを見てひとり呟いた。このまま見過ごすのも後味が悪い。心当たりもあることだし、少し出助けするべきか。
(ま、青春してる子供を導くのも大人の務めか)
「ユーリ、ちょっと用事が出来た。先に上がるわ」
「ん」
そうして俺はログアウトした。この場にはユーリだけが残された…。
☆☆☆
現実世界へと戻った俺はその足で店長が営むショップへと足を運んでいた。中に入り店長を呼び出す。
「店長いるか?」
「はーい。いますよ~?あれ今日は優理ちゃんいないんですね?」
「まあ、ちょっと色々とな。ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「はい?なんですか?」
「この間電脳アレルギーの子供が良くやってきてるって言ってたよな?その子供ってセナって名前じゃないか?それと店長。その子に外部コントローラみたいなものを渡しただろう?」
その言葉に店長の顔つきが変わる。その顔は真剣さを含んだものになった。
「なぜあなたがそのことを?」
「ああ、実はな…」
それから俺は今まで起こったことを店長に説明した。
「なるほど…私が渡したタクティカルコントローラがそんなことを引き起こしてしまいましたか…彼女のVR嫌いを直して好きになってもらいたかったんですがね…逆効果になってしまいましたか。少し早過ぎましたかね…」
「彼女?女の子だったのか…。まあそれはいい。セナさんには早過ぎたってより対処法を間違っているよ。彼女のコンプレックスはVRそのものではなく、比べられてきたVRチルドレンだ。VRをやれるようになったからって根本的なトラウマの解決にはならないさ、彼女に必要なのはVRチルドレンをなんでもいい。何かで乗り越えることだ。そうしない限り彼女の劣等感は消えない」
そうセナさんの中に渦巻いているのは劣等感だ。自身はあらゆる面でVRチルドレンに負けているという気持ち、努力しても越えられないという思い。そんな中であきらめにも似た形で歪にVRチルドレンを至高のものとして信条する。…これを壊すにはVRチルドレンを彼女の力で倒してVRチルドレンが絶対のものでないと自分自身で納得しなければならない。
俺の考えを聞いた店長は納得したように深く頷いた。
「そうですか…ふむ。あなたが言うならそうかもしれません。私はいささかVRそのものにこだわる気概がありますからね…それよりも良くここと彼女の関係がわかりましたね?」
店長のその疑問に俺は答える。
「カードゲームを最近始めたってセナさんは言っていたが今この時代にまっとうなカードゲームを始められる店舗…カードショップは少ないからな。電脳アレルギーならインターネットゲーム系のそれらはできないだろうし、実在する店舗に限られる。…そしてこの間ちょうど同じタイミングで現れたアレルギーの子供っていうところがまず一つ。あとは外部コントローラなんてものを手に入れられるカードショップ店長何て店長ぐらいなもんだからな」
「ははは、かないませんね~」
そういって店長はタクティカルコントローラを奥から取り出す。
「これ持って行ってあげてください。瀬那君と優理ちゃんをもう一度戦わせるつもりなんでしょ?話に聞くと以前あげたものは壊れてしまったようですし、役に立つはずです。…それとこれ。現在彼女がいる病院とその個室です。なんでも再び体調を崩したとかで現在親代わりをしている私のところに連絡が来ました。いまから出かける予定でしたが私の代わりにお願いします」
「わかった。ありがたくもらっていくよ店長。それじゃな」
そうして俺は店を出た。店を飛び出す瞬間店長の独り言が聞こえた気がした。
「私だけではまた間違えてしまうところでした。感謝しますよ---君…」
☆☆☆
「…」
俺は病院の前で電話をかけていた。その相手は優理だ。
「…優理か?今、VRか?ああ、分かった。すぐに抜けてきてほしい場所があるんだ。場所は…」
そして電話を終えるとタイミングを計って瀬那の病室に向かって歩き出す。彼女のいる部屋と廊下を結ぶ扉をノックした。
「ゴホ…どうぞ」
俺はその言葉を聞いて中に入る。現実のセナさんは優理と同じくらいの年齢で髪をゲームと同じようにショートヘアーにした中性的な容姿の子供だった。
彼女は俺のことを疑うように見る
「あの…どちらさまですか?」
「酷いな、この間まであっていただろう?しっかりと初心者教育まで先輩として面倒みたのに…まあこの体じゃしょうがないか。アバタ―と違い過ぎるからな」
その言葉に瀬那は目を見開いた。
「…もしかしてあの人…本当に中身おじさんなんですね…」
「まあ、他人に言われると傷つくけどな」
「…それで何しに来たんですか?そもそもどうやってここまで来たんですか?」
「場所は店長に聞いた。あの人と俺は昔からの知り合いなんだ。ここに来た理由は君とカードゲームをしようと思ってな」
そういって俺はあるカードゲームのデッキを取り出した。
「店長から話は聞いている。君も同じカードゲームのデッキを持っているのだろう?だからこれで勝負しよう」
「なんでカードゲームを…」
「友達とデュエルするのなんかに理由はいらないだろう?ほらさっさとデッキを出しなさい」
しぶしぶといった様子でデッキを出し、準備をする瀬那そしてデュエルが始まりいくつかのカードが出た段階で彼女は激高した。
「どういうつもりですかこれは!!僕へのあてつけですか!!」
俺のフィールドには低レベル、低攻撃力、効果なしのモンスターが並んでいた…。
「俺はただ見せてあげようと思っただけだよ。カードの可能性をな」
「カードの可能性!?ふざけないでください!!」
瀬那は俺のデッキを吹き飛ばす、そしてそこにあるのは同じようなカスカードと言われるものたちだった。
俺は瀬那が吹き飛ばしたカードを集めながら彼女に声をかける。
「瀬那はVRチルドレンが憎いのか?」
「え!?」
「それとも電脳アレルギーである自分が憎いのか?」
「…」
「二つとも違う…よな?VRチルドレンを妬んでいるが憎むほどじゃない、電脳アレルギーを恨んでいるが憎むほどじゃない…どちらもそうなってしまったのは仕方ないって聡明なキミなら理解して納得しているんだろう?」
「…それは…」
「それなのにどうしてユーリをVRチルドレンを否定し、電脳アレルギーの自分を自分で見下すのか…それは君が君を認めようとしない周りのものたち全てを憎んでいるからだ。君は周りのものたちと同じように自分自身を社会の価値観に当てはめることで自分を守ろうとしている。そういうものなんだって納得しようとしている。…だがそれは所詮自分を偽ることだ。やり場のない怒りが止められない思いが君にあるんだろう。自分を認めて欲しい。VRチルドレンでも電脳アレルギーでもないキミ…瀬那自身が価値のあるものなんだってそう声をあげて言いたいんだろう?だから君はそれをしてくれない周りのものたちをVRチルドレンや電脳アレルギー以上に憎んでいるんだ。その二つに固執するのはほらその二つが大事なんだろう?っていうただのあてつけに過ぎない」
「…」
「だから俺がここで証明してみせるよ。君が無価値と思った…世間でカスカードと言われるこんなカード達でもそれぞれに意味があるってことをね。君に勝って証明してみせる。だから俺が勝ったその時はもう一度ブレイブカードをプレイしてユーリと再戦してほしい」
「なんでそんな…僕に構うんですか!?昨日まで現実で顔すら合わせたことがないんですよ僕らは!!」
「特に理由はないよ。ただ何とかしようと思ったからここまでやってきたんだ。少なくとも君には俺が何とかしてあげようって思うだけの価値はあるよ。それに何より…」
俺はデッキを再び元の場所に戻し言う。
「カードゲーム仲間は多い方が楽しいからな!!」
曇りの無い俺の笑顔を見た瀬那は泣きながらゲームを開始した。俺のカードを使ったコンボの前に瀬那は敗北した…。
☆☆☆
「っというわけだ。戦いは明日。全力で頼むぞ?」
俺は病室の外で聞き耳を立てていた優理に病室を出て話しかける。
「…なんで私をこの場所に連れてきたの?」
「ふむ。まあ色々理由はあるが…何より喧嘩したままって言うのは悲しいだろう?せっかくできた仲間だっていうのにな。本当なら子供たちだけで解決させるのが筋ってもうだろうが俺はそこまで待てないんでね。」
「…」
「…それと当事者になって何も知らないって困るだろう?少なくとも優理は知るべきことだった。なぜ自分がまきこまれたのかをね。…それにこれから彼女みたいに思う人間は沢山出てくるだろう。優理はVRチルドレンの中でも優秀みたいだしね。そんな中でどう思い、どうすべきなのか今から学ぶのも悪くはないさ」
俺は優理を置き歩きながら後ろに手を振る。
「先人は道を示すが智慧や選択は与えない。ただありのままを教えるだけだ。そこから何を描くのか…今の子供たちである優理の回答を俺は期待しながらまっているよ」
そういって俺は病院を後にした。
分かりにくかったと思うので補足。
瀬那はなっちゃったものはしょうがないとVRチルドレンに対しても電脳アレルギーに対してもそこまで怒りを覚えてはいない。むしろ憤っているのはどれだけ頑張ってVRチルドレンに追い付いてもその頑張りも実力も認めない周囲の人間であり、結局そういった人間に頑張りを最後まで認められなかったため。そうだよ僕が電脳アレルギーだから悪いだろVRチルドレンなら良かったんだろっと意固地になってしまいっている。
「先人は道を示すが智慧や選択は与えない。ただありのままを教えるだけだ。」
主人公の考え方の一つ。子供を育てる際に不都合なことを見せないように育てたり、こうするのよっと選択肢を制限して育てるのではなく、ありのままの全てを伝えて大人は口出しせず、子供だけで生き方を選択させるようにする仕方のこと。主人公はその選択が子供を大人にしていくと考えており、自分の生き方を自分ですでに決めたものが大人だっと考えている。




