チュートリアル -ボス-
俺が入ってみたものは突き出すように所々から生える枝の数々。不安定な足場はいくつも枝分かれし、ここがボスの部屋ではなくダンジョンの入り口かと錯覚すら起こさせる。
俺は前に進む二人を見ていた。そしてその二人が顔を上げたところで目的の風見鶏が現れる。大きく鳴いた風見鶏は羽ばたき二人の目の前にやってきた。そこで二人はデッキをオープンさせる。
「さあ、始まりだな」
俺はそれを後ろからしっかりと見ていた…。
☆☆☆
先手を打ったのはユーリだった。いくつもある枝を利用して風見鶏に飛び掛かる。風見鶏は羽をふるって風を起こすと近寄ってくるユーリを吹き飛ばした。
だがユーリも黙ってやられるわけではない。吹き飛ばされながらもアイスアローを発動し、風見鶏の羽を狙い撃つ。
「きしゃ~!!」
羽を凍らされ動きの遅くなった風見鶏は地面へと近づいていく。それを待っていたのはセナさんだった。
「召喚!!カマ・イタチ!!」
セナさんに召喚されたイタチが動きの鈍い羽へカマイタチを当てる。そして小柄な体格をいかして枝から枝へと移動しながら風見鶏をかく乱した。
翻弄される風見鶏だがさすがにボスそれだけでは終わらない。風見鶏の体から黒い靄のようなものが現れる。
「来るか風見鶏が風影と言われる所以が」
なんだか。ふん、やはりアレを使ったかとかなんかとか、全てを知っている感じを醸し出す老人のマネをしたい気分になり俺は腕を組みながらぶつぶつと呟く。もちろん流れ弾はしっかりと躱している。
キリっとした顔で見ていると風見鶏の姿が突然消えた。敵の突然の消失に戸惑っているセナさんの足もとに風見鶏のカゲが現れる。
「うわぁ!!」
そしてカゲから勢いよく飛び出してきた風見鶏がセナさんを吹き飛ばす。
「セナ!!」
セナさんはそのまま地面に叩きつけられ…二枚の手札を失うことになった…しかも…。
「う、動けない!!」
足がカゲにはまり動けなくなる。…これが風影の風見鶏の攻撃技の一つ、通称シャドウフライだ。
「セナさんは早くも残り二枚か、演唱で回復したほうが良いんだろうけど、焦りと敵からの攻撃によって中断されるリスクを考えてあのカゲに捕まっている間は無理そうだな。そうなるとユーリが重要になるが…」
ユーリはセナさんがカゲにはまって逃げられなくなっていることに気づき援護に向かおうとする。道中カゲがやってきたことに気付いたユーリは空中闊歩氷層の陣を使い攻撃範囲から逃れた。
「くう!!」
だが無理な避け方がたたったのか転がるようにして着地をする。何とかカゲの範囲から逃れたもののセナさんからは離されてしまった。
ユーリは再びセナさんを目指し走り出す。
(あーあ、結局向かっちゃったか。今セナさんの元に行っても巻き込むだけで意味がないのにそれを判断できてないな。一対一ならユーリの実力があれば足止めくらいできただろうに…)
あのカゲが時間経過で消えるとは知らない以上仕方ないことかもしれないが。ユーリの判断はあまりよろしくない。ユーリは知らないことが起こると力押しで解決しようとする性質があるのでそれが完全に裏目に出てしまった形だ。
先に現状に気付いたのはセナさんだった。セナさんは自分の守りである手札が減るのにも関わらずにユーリへと援護を行う。
「エンチャント!!ウィンドアーツ!!ユーリさん。先に風見鶏を!!カゲを攻撃してください!!」
ウィンドアーツなど自分や召喚モンスターを対象とした魔法などはパーティ登録をしている味方にも使用できる。セナさんはユーリの武器にエンチャントを行い攻撃範囲を増大させたのだ。
(風属性のモンスターに風魔法のエンチャントはあまり意味がないがあのカゲを攻撃する攻撃範囲が増えたと考えれば利益となるか。損になるかもしれないと思っただろうに相変わらず思い切りがいいな)
援護を受け取ったユーリは一転、風見鶏の攻撃を開始した。カゲを狙い攻撃され風見鶏がいやそうに逃げ回る。風見鶏がユーリに気を取られている間にセナさんはカゲを脱出。演唱を行っていた。
『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕の魔道!!僕のターンドロー!!』
手札を二枚に再び戻し、ユーリの援護のために走る。ちょうどその時、ユーリの執拗な攻撃に嫌気がさした風見鶏は再び宙へと舞い上がった。
「ユーリさん。また潜られる前にここで決めましょう!!」
「ん!」
俺はそのやり取りを見て思った。
(そう上手くいくかな?)
ボスの周囲を回っていた光の板が今、二つに増えた…。
☆☆☆
「ぎぎぎ~!!」
二枚になった風見鶏の咆哮に近寄っていた二人が吹き飛ばされる。そしてそのことによって手札がそれぞれ一枚ずつ削られた。
(二枚目になった風見鶏は全方位攻撃の咆哮が追加される。初心者殺しの異名を持つ厄介なわざだ。これで空に居ても風見鶏の隙はなくなった)
立ち上がったセナさんの手札は一枚、ユーリの手札は二枚だ。
(追い詰められているな~そろそろ助太刀したほうが良いかな?)
俺がそう思って見つめいているとセナさんはユーリに一つの提案をしていた。
「ユーリさん。今の手持ちはなんですか?僕の手持ちはウィンドボム一個です」
「…アイスゴーレムとアイスアーツ…」
「そうですか…使えそうなのはアイスゴーレムくらいで他はあまりよろしくないですね…。ウィンドボムは同属性なので効きは悪いでしょうし…アイスアーツを僕にかけてくれませんか?」
「なんで?」
「協力しないと決定打を与えられそうにありませんが僕が主体で攻撃すると同属性で効果が減ってしまいます。なので僕がアイスアーツを使い囮の役割を果たすのでその間に演唱して風見鶏を倒せる準備をしてください」
「そういうことならわかった」
セナさんは走り出す。
「ユーリさん!!」
「アイスアーツ!!」
氷の付加魔法を受けたセナさんは風見鶏の咆哮を警戒し、ヒットアンドアウェイを心がけながらダメージを与えていく。
その間にユーリは演唱を開始していた。
『凍てつく情熱によって作られた力。その涼やかな姿を晒せ。来い私のアイテム!!』
そして同じ演唱を時間を置いてもう一度行う。
『凍てつく情熱によって作られた力。その涼やかな姿を晒せ。来い私のアイテム!!』
手札を三枚に回復させたユーリ。その間にセナさんはピンチに陥っていた。
「く、…わ!!」
風見鶏の咆哮を回避しきれずに受けてしまい飛ばされる。既に手札はなく、もう一度攻撃を受ければロストしてしまう状態だった。
それを見たユーリが動く。
「させない!!究極召喚!!アイスゴーレム!!」
セナさんの元へ向かって行っていた風見鶏は召喚されたアイスゴーレムに両羽を掴まれ身動きの取れない状態に陥った。
「これで終わり!!」
決め台詞を言ったユーリが助走をつけて風見鶏近くの枝から風見鶏の頭目掛けて飛び降りる。そしてその手には氷冷の太刀が握られすでに手札はゼロだった。
「はああああ!!」
ユーリの叫びと共に振り落された一閃が風見鶏の頭を飛ばした。そして風見鶏は一度大きく光るとその姿を消した。…そう風見鶏を倒したのだ。
ぺたっと枝に倒れ伏した二人の元へ俺は拍手をしながら向かう。
「お疲れ様~。まあ手札なしのぎりぎりだったけど何とか倒せたみたいだな。…うん、初心者卒業おめでとう!!」
二人は俺の言葉を無視して今だ枝に倒れている初めてのボス戦でよほど疲れただろう。待っていると突然セナさんがバネのように跳ね起きた。
「すみません。よろこんではしゃいでました!!」
「はしゃいでた?寝っころがりながら?…まあいいや。カード来たみたいだよ」
二人の元にカードが現れた。ボスのカードは止めを刺した人物ではなく規定量のダメージを与えた全員に入手の可能性がある。もちろんそこからは強さによる確率になるのだが今はそこはいいだろう。二枚の風見鶏を倒した二人にははずれが来ることはなくしっかりとカードが届いたようだった。
「風影の風見鶏のノーマルです…」
「私も…。あれだけ疲れてノーマルとか納得いかない」
「まあ、お前たちにはボスのレアはまだ速いってことだ。ほら立ち上がれ依頼を終えたから帰るぞ。帰りは俺が戦闘を全部請け負うから」
ハーリアップ!!ハーリアップと立ち上がることをせかす。そんな俺にユーリは強烈な足蹴りを寝転がりながらし、悶絶する俺をしり目に
「いくよ」
「…そうですね」
と勝手に帰り始めた。
「おい、ちょっとまてよ。これが初心者教育してくれた先輩に対する態度なのか?おい、え?ほんとにいちゃったの?おーい俺の手助けはいらないんですかー?ま、待ってよ!!」
俺は走って二人に追い付いた…。




