チュートリアル -武器屋、ギルド-
「…で、ここが武器屋だ」
そういって俺は武器屋をユーリたちに見せる。
「ここが武器屋?」
「思っていたのとちょっと違いますね…」
二人はこの光景が意外なことだったように言った。まあそれも仕方ないか。この場所には一人のNPCの店員と二つの用途のわからない機械が置いてあるだけだ。これでここを武器屋と認識するのは難しいだろう。
「まあ、そう考えるのが普通だろうな。この世界はあくまでもカードゲームを主体とした世界だ…普通のファンタジーゲームの概念が取り入れられているから武器、防具などの概念もあるがそこまで重要視されていない。武器は攻撃範囲とモンスター攻撃時の威力…防具は体の負荷軽減…要はアシストシステムの向上とダメージ判定の変更…かすり傷では手札を失わないようにするためのものだ。…そしてそれらの改造はこの店員から元となる武器や防具を買い、カードを合成することでカスタマイズできる。その為の機械がその二つだな。ちなみに武器は複数持つことができ、普段使うのは一つだけだが非戦闘時ならこうやって簡単に入れ替えることができる」
俺はそういって剣を腰から取り出しそれを二人の目の前で消すと双剣槍を取り出す。刀身は黒、そして刃の色は白。二つの剣と棒の部分のつなぎ目はそれぞれ大きな宝玉を中心に装飾が構成され棒の部分は剣とは逆に白を中心に黒が挟み込むようにカラーリングされている。普段の剣よりも豪華なその仕様にユーリが食いついた。
「なに、それ?いつものよりすごそう」
俺はその疑問に答える。
「これはいわゆるガチ武器ってやつだ。カードゲームやったことあるセナさんならわかると思うけど。普通カードゲーマというかデュエリストは普段使うデッキ以外にいくつかのデッキを持つ。その中でもガチデッキっていうのはこのデッキだけは誰にも負けねーっていうまあデュエリストの隠し玉みたいなものだな。この双剣槍はそれと同じで普段見せないようにしている俺の最高武器だ」
「…じゃあ、デッキにもガチデッキがあるの?」
「ん?まあな。前回ユーリと戦ったときに使ったのは普段使っているデッキ…魔王始めましたデッキでそれとは別に真ナル魔ノ皇デッキっていうガチデッキがある。…そもそもガチデッキっていのはそのデッキでは絶対負けないっていうのがデュエリストのプライドみたいなもので普段から使っているとメタカードとかで対策されるなど研究されるし、同じ構成のデッキを真似するやつとか出るから隠しておくんだ。俺以外の奴も基本隠しデッキは何個か持っていると思うぞ?剣まで変えてるのは俺くらいかもしれないけどな。さすがに防具はそのままだが」
その言葉を聞いたユーリの目がきらりと怪しく光る
「へ~。あのデッキは本気のデッキじゃないんだ。…そのガチデッキと戦いたい」
目をぎらぎらと野獣のように輝かせ俺に迫ってくるユーリ。だが俺はまっぴらごめんだった。
「やだよ。いっただろ?ガチデッキはデュエリストの最後の希望なんだ。このデッキがあるから負けても「ふふまだガチデッキが残ってるし?俺が完全に負けたわけじゃないし?」って思えるんだよ。ユーリと戦ったら一回は勝てそうだけど二回目からは対策されて負けそうだからやだ。それに何よりもバトルジャンキーに絡まれるのは御免だ。ただでさえアイツだけでも迷惑してるのに…」
俺はVRチルドレンを少し嫌いになった原因である、あるプレイヤーを思い出していた。この間ユーリの挑戦を受けて逃げ去ったのはそれが原因だ。アイツちょっとくらい調子に乗ってぼこぼこにしたからってあそこまで粘着質に俺を追わなくても…
俺がそう考えているとユーリから言葉が投げかけられる。
「アイツ?」
「ん?ああ、まあユーリには関係の無い話だ。それより武器屋の説明は終わった。武器変えるほど金も改造するほどのカードもそろって無いようだから次の武器屋いくぞ!!」
「むう。むうむう」
納得がいかないということを表すようにむうむうと不機嫌を露わにしてついてくるユーリを無視して俺たちはギルドへと向かった。
☆☆☆
「大きいですね…」
「うん」
「まあ、カードショップよりは小さいけどな。イベント用のNPCが大量にいるからそう感じるんだろう。中に入るぞ」
ぎぎっと西洋風の扉を開け中に入っていく。そこには様々な装備を付けたプレイヤーたちが集まりどんちゃん騒ぎをしていた。
「さてここがギルドだ。酒場と併設されており、待ち合わせの時はあそこの酒場で待っていればいい。VRは味覚がしっかりと再現してあるからな暇つぶしにはなるはずだ。っでこっちの掲示板にクエストが張り出される。こんな中から選択してあそこの窓口のNPCに出せば依頼開始。依頼用のイベントが始まったり、狩にいったりすることになる。…ちなみに二回はレギオンの個室となっている。レギオンっていうのはパーティとは違いチームを常に組んだ仲間たちで他のゲームでいうギルドに当たるな。レギオンを作るとそのレギオン用の個室が用意され自由に使うことができるんだ。…レギオンを作るには最低4人必要だから今の俺らには関係の無い話だがな」
へえ~と言いながら辺りを見回し、クエストボードを見る二人をしり目に俺は一枚の紙をボードから取り出す。
「とりあえず今日はこの依頼を受けよう。風鈴の大樹っていう場所にいるボス討伐の依頼だ、あと同時に訓練ルームの使用許可をもらってきてくれ。セナさんがどこまで戦えるのかちょっと見てみたいからな」
「わかりました、ではちょっと行ってきます!!」
そうして走っていく彼女を見ながら俺はふと思った。
(こうしてみると犬みたいな子だな)
手続きを終えたセナさんはふりふりと走りながら戻ってきた。
「第一訓練場の許可が取れました早速言ってもみましょう」
「わかった」
俺たちは第一訓練場へと向かった。