後日譚
ブレイブカードの大会イベントから少し経って、俺たちはまだ現実世界に一部残された遊園地にやってきていた。
「悪いな、呼び出してしまって」
「いやいや、別にいいよ。どうせ俺、暇だし。優理達も連れてきて貰ったからな」
俺たちが何故ここに居るかというと、それは浅見の道場の遠足の付き添いとしてだ。浅見の道場では有事のために、遠足の場合、必ず男女一人ずつ付き添いを付けることになっているらしいが、いつもは担当している浅見の父が来れなくなってしまったのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、いつも暇そうにしている俺だったというわけだ。
「それでも、すまない…まさか父があんなことになるなんて…」
「な、何かあったのか…」
突然なシリアスな雰囲気に俺は恐れ戦く。浅見さんは至って真面目な調子でこういった。
「ゲームに熱中しすぎて、寝不足で起きられなくなったのだ」
「そんな理由かよ!?」
俺は思わず、突っ込んでしまった。どんな暗い話しかと思ったら、子供か!
「父は一度、寝付くと他人が何をやっても起きなくてな…本当に申し訳ない」
「あ、ああ、まあ、いいよ」
そんなことを言いながら二人でベンチに座って子供達の様子を観察する。既にユーリ達は道場の子と混じって様々なアトラクションをするなど楽しんでいた。
すると、視界に見知った銀髪が映る。そこに視線を向けると、見知った顔がこちらを見下ろしていた。
「見つけたぞ、炎皇」
「お前、フィルか。なんでここに」
浅見さんが?っと言う顔をしているのを横目にしながら。俺はフィルに問いかける。あの大会以来、フィルとは合っていなかった。向こうも別に俺に会う理由は無いはずだ。偶然、同じ遊園地にやってきて見つけたというところか…?
「ふ、ここはスワローズが運営する遊園地だ。お前が利用すると聞いてな、こうしてわざわざやってきたんだ。お前の行動は全て私に筒抜けなんだよ」
そう言ってどや顔を浮かべるフィル。俺はそれを聞いて思った。
(え、何それ? 怖い。なんか監視されてるの? 俺)
とは、言うものの。そのままそんな態度を見せるのは面白くない。俺は軽く受け流したような態度を取りながらフィルに聞く。
「お供はどうした」
フィルはその態度に少し、思い通りにならなかったと言い足そうな、不満な表情を見せた。
俺は思う。
(こんな暴挙許さないだろう。あの横崎なら)
するとフィルから返ってきた言葉は意外な言葉だった。
「お前に会うために、撒いてきた」
「はぁ!?」
思わず驚いて声を上げてしまう。それを見たフィルは、してやったぞとにんまりと笑顔を浮かべた。
「何んか俺にようか?」
「別にようと言う、ようはない。ようが無ければ合いに来てはいけないというわけではないだろう」
「何のようも無いのに、わざわざ横崎を撒いたのか。折角だし、子供らしく、優理達に混ざって遊んできたらどうだ?」
何がフィルをそこまで突き動かすのか、俺はげんなりとした表情でフィルにそう言う。
「誰が遊園地で遊ぶなど。そんな子供染みた真似をするか」
「…ほほう、言うじゃないか」
俺はそう言って、立ち上がると黙って話しを伺っていた、浅見さんに声をかける。
「浅見さん。ちょっとここ離れてもいいですか?」
「ああ、別にいいぞ。行ってこい」
俺の目的を理解した浅見さんが頷く。突然歩き出した俺にフィルは追いつきながら質問してきた。
「おい、どこに行く気だ!?」
「まあ、見てれば分かるって」
そう言って、俺が向かった先、そこはこの遊園地で一番怖いといわれる絶叫マシンだ。
「お、おい。炎皇?」
「いや~。大人なフィル君ならこのくらい余裕だよね」
「そ、そうさ。これぐらい。子供の遊びじゃないか」
そう言っている間にも俺たちは乗り物に乗り、固定される。そして動き出した。
「う、うわぁあああああああ!!」
「きゃああああああ!!!」
絶叫しながら乗り終えた俺たちは、アトラクションから出たところで疲れ果てていた。フィルは泣き出すのを必死に堪えるように涙目になっている。
そんなフィルに対して、俺は言った。
「何だかんだ、楽しいもんは楽しんだ。片意地張らずにさ、も…」
「…また君か」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。俺が見上げた先、そこにはいつかのおまわりさんが居た。
「あ、あの時の…あの、これは」
おまわりさんが見つめる先、それはフィルだ。泣きそうなフィルを見て、自然と目つきが鋭くなる。それを見たフィルは薄くにやりと笑った。おまわりさんは気づかなかったようだが、俺には見えた。するとフィルはいよいよ、わざとらしく泣き始めた。おまわりさんがいよいよ、怒気を放ち始める。
(こ、こいつ…!わざと…!しっかりと話せば分かってくれるか?おまわりさん。今、俺は浅見さんの道場の付き添いでやってきてるんだ。ここで問題を起こすのはヤバイ…)
「ほら、お前からもなんとか言って…」
そう言った俺がフィルに近づいた時、フィルは俺にだけ聞こえるように小さく言った。
「負けを認めて、私の頼みを何でも一回聞いてくれるって言うなら誤解を解いてもいいぞ」
「お、お前な、こんなと」
「君、何をするつもりかね!」
「いや、何でも無いです!はい、何もしていません!!」
いよいよ持って状況は完全に悪くなる。話しかけることで自ら墓穴を掘ってしまった。いや、泣き出した時からこうなることを予想していたのだろう。手の平で踊らされた感があった。
(くっそ~。なんて奴だ。的確に弱点を突きやがって。こんなの従うしかないだろうが)
俺は、不満な表情を見せながら、渋々従うことに決めた。
「…わかったよ。それでいい」
「突然何を…?」
突然、何かを言い出した。俺を不審な目で見るおまわりさん。フィルは泣き止むと屈託のない晴れ晴れとした笑顔を見せ、おまわりさんに言う。
「すみません。私の叔父が、何か勘違いをさせたみたいで。私はただ、絶叫マシンが怖くて泣いていただけです」
「叔父?…彼がか?…まあ、いい。私は今日は非番だ。本人が否定しているなら。そういうことにしておこう。ただな、もし、次、何かあれば、容赦はしないからな」
そう言って捨て台詞を残して去って行くおまわりさん。
「いつか、跪かせて、屈服させるつもりだったが、こんなに早く叶ってしまうなんてな」
「お前、なんて言って」
おまわりさんを警戒してフィルの言葉を聞き逃した俺は、それを問い詰めようとするが、それより早くフィルが俺の手を掴んだ。
「だが、こんなのはノーカウントだ。いつか自分の力だけでやらなければ意味が無い。だけど勝ちは勝ちだ」
そう言って俺を引っ張り、歩き出す。俺はフィルに声をかけようとするが、それより早くフィルが振り返り、満面の笑顔を見せながら言う。
「頼みを何でも聞いてくれるんだろう?だから、今日一日、私と付き合って貰うぞ、ーーー」
そう、俺の名前を呼んだ。フィルを見て。
「ま、しかないか」
と呟き、俺たちは別のアトラクションを楽しむために歩き出した。
(終わり)
以上で終了です。
ここからはあとがきです。余韻を楽しみたい人は無視してください。
なんとか、完結できて良かった。一つ長編をエタらせてしまったことがありましたから、四十万字も書いたのは初めてです。
色々と書き終わってみて、駄目な部分が多かったな~と思います。
まず、何で一人称にしたんだろうと言う点が一つ、普段は良いんですが、戦闘が書きにくくて仕方ない、カードゲームものとしてお互いの読み合いが重要なのにそれが全く書けなくて、ご都合的になってしまった。それにフィールド全体のキャラの動きとかも表しづらかった。結果三人称によってしまい。最後の方とか、ほぼ三人称になってるんじゃね?と自分でも思いました。
次にドロー時の演唱ですね。あれ格好良くするためにあの形式にしたんですが、おかげで会話との両立が出来なくて、ほとんど初期手札勝負になっちゃった。もっとお互いに補充しまくりながらのバトルがしたかったんですが、残念な部分です。
後はゲーム要素が少なかった所、もっとフィールドに凝ったり、クエストとか色々楽しんだ方が、物語の趣旨に合っているかなと思ったりもしました。
加えて、キャラが薄くてぶれぶれでした。一章完結形式にして、間に時間が空いたせいか、一章ごとにできの差が結構出てるというか、キャラが変わってるというか…、後、萌えを意識したのが優理のむぅという口癖くらいなんで、全体的にキャラに特徴が無くて薄くなってますよね。こういうの本当に難しいと思います。
それと地の文、繋げ方とか切り方が、よく分からなくて中途半端な繋ぎにせざる終えなかったところが…。今でも地の文の上手いやり方はよく分かりません。
などなど、自分でもこんなに駄目な点が出てくるなんて驚きです。しばらくは新作の書き溜めを行うつもりなので行いませんが、いつかこれらの不満を解消した改稿版を出してみたいところですね。
それでは皆様、長い間、カードバトル的VRMMO(仮)を読んでいただきありがとうございました。