物語
俺は試合終了の結果を会場の外で確認していた。
勝負の結果はしっかりと勝利。それと同時に俺はもう一つの目的も達成できた。
「ま、取り敢えずって言ったところか、仮置きだが、少なくともこれで納得するだろう」
落ち込んで全てを投げ出したフィルが、この戦いの結果に納得するためには、戦う理由が必要だった。自分が思いを持って全力で戦わなければ、人はそこに納得感を得ることはできない。だから、俺はあえてフィルを煽りに煽って。荒療治だが、俺を倒すという目的を与えることで、今回の戦いに挑む姿勢を作ろうと思ったのだ。
作戦は成功し、フィルは見事、俺を打ち破った。とはいえ、この挑む姿勢は、あくまでも今回の戦いだけのもの、考えを決めるための情報は伝えられるだけ伝えたので。後はこの戦いが終わって、俺と関わらなくなった後、自分で自分が決めた大切な何かや、したいことを探していけばいいと思う。
「何だかんだ、疲れたが、丸く収まって、よかったよかった」
俺はそう言って、ユーリ達の元に向かった。その後、アクアにこっぴどく叱られると言った出来事はあったものの、こうして大会は無事終了した。
☆☆☆
「結局38位って微妙な結果に終わったな」
大会が終わった後、結果を見た、ミユがそう呟く。それにミストが同意したように頷く。
「せめて、もう少し上か、はたまた下か、振り切れていたら良かったんですけどね。なんか中途半端に真ん中ですよね。VRを賭けた、それこそ物語みたいな戦いをしていたんだし、なんかこの中途半端さは尻すぼみというか何というか…」
「でも、満足しただろう?」
俺のその言葉にその場に居た全員が俺の方を向く、そして頭を頭を縦に下げるなど肯定の意を示した。
「何も順位を取るだけが物語りじゃないさ、俺たちは俺たちの物語を行った。トップを巡る壮絶な物語は、別の誰かが頑張っていただろうさ、なんてったって、ここは誰もが主人公になれる世界だからな。俺たちと同じように、誰もが、いろいろな思いがあって目的があって、戦い、物語を作ってる。だから、今回は、それは俺たちじゃなく、そいつらの物語だったってことだ。もっとも」
俺はそこまで言うと、にやりと笑った。
「来年は俺たちの物語になる予定だけどな。今回は負けたが、やるなら全力で!次こそトップを取る!!そのためにはこの一年また、頑張んないとな」
そう言うと俺は一瞬溜めてを作り呼びかける。
「ユーリ」
ユーリはこちらを見て、頷く。
「セナ」
セナは恥ずかしそうにしながら、返事をした。
「ミユ」
ミユは当然だと、言った顔でおう、と答える。
「ミスト」
ミストはかっこいいポーズを作り、決め台詞を呟いた。
そんなユーリ達を見直して、俺も大きく頷き、声をかける。
「今年もまた一年。よろしく頼むぜ」
そう、物語は続いていく、今日も何処かで誰かが、騒がしくも楽しい日々を送っていくのだ。
もちっと続くんじゃよ