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越える

ストックが無くなったのでここからは一日一回更新です。

 「セナくん…」

 「店長、こちらで合うのは初めてですね」


 陣地でただ待機していた私の前に現れたのはセナくんだった。思わず私は、聞いてしまう。


 「…何をしにここに来たんですか?もう、知っているかもしれませんが、私は君があんな境遇になる原因を作り出した、VRの生みの親です。君の人生を滅茶苦茶にした張本人です。もし私を殴りに来たなら自由にしてください。あなたにはその権利がある。私は自分の罪は理解しているつもりです」

 「ボクはただ、あなたに言うことがあってやってきただけです」


 そう言って私を見た目には、強い意思の光が宿っていた。あの目を見ると思い出す。彼の目を、彼は別に優れた人間というわけではない。ごく普通の人物だ。

 彼は普通だからこそ多くの問題にぶつかった。優れた人間なら問題にすることも無く、通り抜けられるようなこと、愚直に必死で答えを探してきた、考え、立ち向かい続けてきた。その経験こそが力になる。その積み重ねがあるからこそ強い意志で、どんなときも不敵に立ち向かい続けられる。それこそが彼の強さの秘密だ。

 セナくんはその彼と同じように何かを決めた目をしていた。


 「…なんでしょうか」


 私はセナくんの出した答えを聞くために先を促す。セナくんは一瞬貯めた後、言った。


 「確かにボクはあなたの作り出したもので人生を滅茶苦茶にされました。あなたがボクを救ってくれたからといっても、そのことに対する気持ちは変わらないと思います。…でも」


 私は続きを待つ。


 「でも、この世界は楽しかったです。タクティカル・コントローラーを使って冒険した世界は広大で、紡いだ絆はきっと他では手に入れることの出来ない大切なもので、過ごした日々は楽しさに満ちたものでした。だから言わせてください」


 そう言ってセナくんは頭を下げた。


 「VRを、この世界を作ってくれて、ありがとうございます」

 「そう…ですか」


 全体から見たら、たった一人だ。こんなことを言うのは彼女だけかも知れない。それなのにこんなことを思うのは傲慢かも知れない。…でも、それでも、たった一人でも目の前でそう言って貰えて、掬われた。自分の今までしてきたことは正しかったんだと、あの小さな少女に勇気を貰った気がした。


 セナくんは頭を上げた後、恥ずかしそうに頬を掻く。そして言った。


 「…ただ、自分が制作者だということをボクに黙っていたことにはむかついています。だからやっぱりぶん殴らせて貰いますね。店長もわざと殴られないでください。それじゃあ殴りがいがないんで」

 「ふふ、わかりました、相手をします」


 私とセナくんはお互いにカードの効果を発動させた。


☆☆☆


 「なるほど、お出迎えってわけか」


 俺は目の前に居る二人を見て、そう呟いた。


 「フィルが戻ってきたの炎皇が何かやったからでしょ?だからここを目指すと思っていたよ。俺の計算通りだ」


 どやっと威張った顔をするマサキ。レンはいつも通りの冷静な雰囲気でこちらに質問を投げかけてきた。


 「…でも、あの状態のフィルが戻ってくるなんて炎皇はどうやったんだ?」

 「どうやったかぁ…別に俺は特に何もしてないよ。決めたのはフィルだ」

 「何もしてなかったら変わるはずないでしょ」


 マサキが馬鹿にしたように言う。


 「俺はただ伝えただけさ、子供は未来だけを見て、老人は過去を思うものだって」

 「まるで意味が分からないんだけど」

 「…じゃあ、大人はどうなんだ?」


 レンが突然、そんなことを言い始めた。確かに子供と老人じゃあ間が抜けている。俺はかっこよく決めポーズを付けながら言う。


 「そう、大人(おれたち)は今を貰うのさ!さあ、かかってこい少年達!お前達の未来(かのうせい)を俺に見せてみな!!」


 …

 ……

 ………


 「…あれ?」


 何もしてこない?ここ格好良くぶつかり合うところじゃないの?


 「ああ、なんかいい言葉ポイことを言ったから、ちゃんと反応した方が良かったか」


 冷静にレンが分析する。


 「なんか一人で盛り上がったって感じだよね~」


 マサキの心ない一言が俺の心を傷つける。


 「うぐぐ、やるじゃねーか、精神攻撃とは、見直したぜ…」

 「いや、別にそんなつもりはないんだけど…なんだか情けないなぁ、まあ、あんたの強さは認めてるよ。前回はそれぞれあんたに負けたからな。あんた風に言うなら俺たち一人一人の可能性じゃ、まだ経験不足であんたに届かないわけだ。だから今回は」

 「「俺たち二人で二倍で生かせて貰う」」


 二人でそう言うとマサキは後ろに下がり、レンが前に出てくる。


 「「勝負だ炎皇!!」」


☆☆☆


 「コンデンサーガンマ!!コンデンサーシグマ!!」

 「コンデンサーシリーズか、カードを知らない相手なら有効だが、俺みたいな熟練者に対しては悪手だぜ」


 俺はそう言って後ろに飛び退きながら手札を確認した。


 <C-狼皇フェンリル…狼の皇。ウルフ族、最上級レア。召喚時アイテムを一つ破壊する。フェンリルって言葉がもう中二病っぽい>

 <M-アルカナムジョーカー…六属性のいずれかの魔法がランダムに選択され発動する魔法。あなたの運命はいかに!?>

 <A-スライドターン…相手が正面にいるときに横向きに飛ぶことで発動可能。相手の後ろに回り込む。レッツターン!!>

 <M-リベレイションフォース…デッキから三枚のカードを墓地に送る。その後、墓地のカードを一枚手札に加え、一枚をデッキトップに置く。え~っと結構複雑…>

 <A-灼熱炎舞…手を振り回すことで全てを焼き尽くす灼熱の炎を周りに生み出す。やけどしないようにご注意を!>


 (手札はまあまあ、それにしてもあいつ…)


 俺はレンを見た、その手には盾が握られている。


 (持っている武器は盾だったか?マサキと武器を入れ替えているのか。ま、いずれにしても)


 「やることは変わらないか!!」


 そう言って俺は双剣槍をレンに向かって振るう。レンはそれを見てにやりと笑った。


 「ナンバーズ008!」


 その瞬間、マサキの声と共に、俺の目の前に居るのがコンデンサーガンマに入れ替わる。いや、入れ替わったというよりこれは…


 「俺がずらされたのか!!」

 「その通り!!」


 攻撃を止めきれずにコンデンサーガンマに攻撃が当たってしまう。俺は直ぐにその場から離れようとした。


 「無駄だ。ナンバーズ003」


 その言葉と共に俺はコンデンサーガンマの前にいつの間にか移動してしまっている。コンデンサーガンマは、チャージしていたダメージを解き放つ。


 「くっ…」


 ダメージを受け、大きく吹き飛ばされる。転がりながら起き上がる。手札を確認すると灼熱炎舞が無くなっていた。

 レンは最初の位置から動いていない。俺は二人で戦うといった意味を理解し始めていた。


 「これは厄介だな。完全な守勢の戦術か」

 「ご名答。炎皇あんたを倒すために俺が考えた作戦さ」


 マサキは誇らしげに言う。その解説をレンが引き継いだ。


 「炎皇あんたはカードの使い方が上手い。それはタイミングや発動場所、そういった状況を言葉や、動き、絡めてなどで自分で作り出せるからだ。なら炎皇。あんたを倒す方法は簡単だ、あんたが作り出す状況を俺たちが崩せばいい」

 「そう、そして思いついた戦術がこれだ。ナンバーズと名の付いたカードは攻撃力はないが、相手プレイヤー、モンスター、魔法、アイテム、アビリティ、そう言ったものをカードごとに決められた向きや、位置などの数値を弄ることができる。これで炎皇のカード発動をずらせば難なくお前を倒せるって訳だ。そしてこのカードを十分に利用するためにはカードを使う俺自身を守る必要がある。だからこその」

 「コンデンサーシリーズって訳ね」


 つまり、完全な俺に対するメタ戦術って訳だ。これはちょっと


 「やばいかも…」


 そうは思っても恐れているだけでは何も解決出来ない。


 (まずは、レン。あいつの守りを突破するしかない。直接マサキを攻撃出来るようになれば、勝機はある。まずは手数とスピードで守りを砕く…!)


 「狼皇フェンリル…いくぞ!」


 俺はフェンリルの背に乗る。そして走らせて、スピードで直接突破を狙う方法だ。絡めてで言っても防がれるなら、力を押しで行く。


 「無駄だ。発動!ザ・チャージ。この効果で二体のコンデンサーを充電状態にする。やれ、コンデンサーガンマ、コンデンサーシグマ」


 コンデンサーガンマとコンデンサーシグマから電撃が放たれる。このまま行けばフェンリルとその上に乗る俺に直撃だ。だが


 「そうは問屋が卸さない。スライドターン」


 俺はフェンリルから飛び降りるように横に飛んだ、動きは悪いもののスキルの効果で急旋回した俺は、レンの後ろを取る。だが、スライドターンの効果はレンも知っていたようだ。直ぐに後ろを振り向くと盾を構えて防御の姿勢を取る。だが、俺は攻撃せずにそのまま後ろに飛んだ。そしてマサキに向かっていく。


 「それぐらいは想定内だ。ナンバーズ26」


 その瞬間、俺とマサキの距離が離される。そして盾を振りかぶるレンの前に出された。だがそれは…


 「俺の想定内だ」


 にやりと笑って、背後から来てると思われる盾を躱す。レンの息をのむ声が聞こえる。そしてそのまま双剣槍でレンを切り裂いた。


 「っち!」

 「盾を越えて、攻撃するなんて最初から想定されているだろう?俺の狙いは端から盾の破壊だ!」

 「わざと俺にナンバーズを使わせたのか!」


 そう、俺が狙ったのは、狙ったタイプのナンバーズの発動だ。例え、レンを抜けたとしてマサキに妨害される。だから俺はそれを逆手に取ることにした。俺が一時的にでもレンを抜ければ、マサキは必ず安全性を高めるために距離を離すタイプのナンバーズを使う…そう考えたのだ。そしてただ離すだけではカードの無駄遣いだ、同時にレンの前に移動させ、後ろから見えない状態で攻撃させる、そうにらんだ。だからこそ、マサキを攻撃する振りをしてレンを攻撃する準備をしていたのだ。


 にやりと笑う俺、だがレンも同時に不敵に笑った。


 「さすが…だけど近くに寄りすぎたね!」


 その瞬間、コンデンサーガンマがこちらを向く。だが既に放電している。何をするつもりだ。そう思った瞬間、コンデンサーガンマに投げナイフが刺さった。

 その攻撃を見た瞬間、俺は理解する。


 「自力でコンデンサーに攻撃を!?」


 あれはレンの投げナイフ。今はマサキの投げナイフだ。マサキは自分が別プレイヤーなのを利用して、仲間のコンデンサーを自力で充電させたのだ。


 コンデンサーが光り出す。既に回避は不可能だ。ここで使いたくなかったが俺は、手札を切ろうとして…


 「は…」

 「アンチノミーウォール!!」


 突然現れた水の柱が俺とコンデンサーガンマの間に割り込んだ。


 「こんな奴ら相手に、なんてざまだ、炎皇」


 そんな言葉と共に誰かが近づいてくる。


 「お前がそんなざまでは、同格と見られている俺の格まで落ちる」


 「お前は」


 レンのそんな言葉と同時に姿を現した人物。それを俺は知っている。


 「アクア!」

 「仕方ないから手伝ってやる。やるぞ炎皇。さっさと終わらせよう」


 同じ担い手の仲間にして、水術の精霊の異名を持つアクアだった。


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結城中学ロボ部!!
学園×スポーツ×ロボット×VRMMO! 仮想現実の世界で巻き起こる少年達の熱き戦い!

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