因縁
「へっへ~ん。ナイスアイデア。アタシ!」
アタシはビーストロアの旗を持って走っていた。私の考えた完璧な作戦とはこうだ。端末には旗の自軍陣地内の旗の位置情報が表示される。さすがに相手の陣地の旗は表示されないが、これを見ることで自分の旗が今どこにあるのかといったことを把握出来るのだ。つまり、旗が勝手に動き出していれば何者かに取られたと判断するだろう。っとなれば、防衛戦力だけでは足りないと考え、攻めに回っている人物の何人かも追跡のために戻ってくるはずだ。そうすればねこねこもアタシがわざわざ探す必要も無く相手からやってくるというわけだ。
「見つけたぞ!」
「きたきた、誰か来た。ねこねこかな?」
そう期待して振り替えてみると、特撮ヒーローのような変なコスチュームを着た男が全速力でこちらに走って来ていた。
「って誰~!!」
「待ちたまえ!!」
ドドドっと効果音が聞こえてくるほどの全力ダッシュ。旗を持ちながら逃げるアタシは叫んだ。
「思ってた展開とちが~う!!」
☆☆☆
「あれは楓…?」
ビーストロアを目指して進んでいた私は、たぶんガウガオーだと思われる人物に追われ、涙目になりながら全速力で逃げ回る楓の姿を発見した。
「…何やってんだろう」
唐突な疑問が湧くが、気にしてもしょうが無い。今はねこねこを探すのが先決だ。高所に上り、辺りを見回す。するとガウガオーを追うように走る、ねこねこの姿を発見した。
「いた!」
私は高所から飛び降りてねこねこの元へ向かう。その音に気づいたねこねこがこちらを振り返った。
「お前は…今はお前にかまってる暇ないんや、あっち行ってな」
「そっちに無くても。こっちにはある。リベンジさせて貰う」
ねこねこの道を塞ぐように前に降り立つ。するとねこねこは不機嫌な表情になりながら言う。
「リベンジ、リベンジねぇ。また、あんたはうちの邪魔をするきか?」
「そういうことになる」
「うざったい、うざったいんやねん!MMO殺しがぁ…あんたらは、そうやっていつも相手の気持ちを考えない。ただ何の気持ちも無く、楽しむことも無く、ただどこまで出来るか確かめたいから…それだけで他の思いを踏みつぶしていく」
今まで我慢していた堪えきれなくなったと言った態度でねこねこは喋りながら徐々にその勢いを強くしていく。
「あの時だって、そうやった。なぁ、ユーリ。うちはあんたを見たのはこの大会が初めてじゃ、ないんやで?レッドオーシャンってゲーム覚えてるか?」
「レッドオーシャン?」
突然、聞かれてぱっとその名前を思い出せない。いろいろなゲームをクリアしてきたから特に印象はないようだ。
「はっ、あんたに取ってはその程度のゲームやった。ってことやな。だけどな、うちらに取っては学生時代の仲間と共に遊んでいた大切なゲームやったんや」
「それが、どうしたの?」
「…ああ、別にあんたは分からないやろうな。これが逆恨みだってうちも分かってる。だから我慢してきた。けどもう限界や!…うちらはな、リトルオーバー世代、なりこそこないどもや、馬鹿にされることもあった。やけどな、それでも楽しくやってきた。なれなかったものは仕方ないってそう思いながらやってきたんや!だけど、そんな日々も終わりを迎えた」
突然、何かを思い出すように悲しそうな雰囲気になるねこねこ。
「あの日、うちらはレッドオーシャンのボス討伐に向かうところやった。レッドオーシャンはな、いわゆるスキルゲーや、2番目に出たVRゲームで、本人の身体能力が戦いに大きく影響する。小説とかでよくありそうなタイプのゲームや。いうてもうちらの身体能力はさほど高くない。だから何回も挑んで、攻撃パターンを覚えて、アイテムを準備して、消費しながら少しずつ攻略を進めてたんや、それであの日、ようやく勝てそうやって、みんなで笑い合いながら、ボスの間に向かった、そこに居たのがお前や、ユーリ」
ねこねこはそう言ってじろりとこちらを見てくる。
「うちらは一目見てあんたが初めて挑む挑戦者やって分かった。その日のために連日挑み続けてたから、他に誰が挑んでいたのかってこともわかってたんや。加えてあんたの装備はボスとの相性を考慮してないもんやった。一人でボスに挑もうとするあんたを見かねたうちらはあんたを止めた。うちらと一緒にボスに挑むか、情報を教えて装備を整え直すように言うつもりやったんや、余計なお世話かもしれなかったけど、わざわざ無駄死にさせることも無いと思った。たった一人じゃ、ボスの動きを読むまでも無くやられると思ったしな、やけどあんたは全く興味が無いとうちらの言葉を全て聞き流してボスの間へと入っていった。まあ、そのこと自体はなんとも思ってない。干渉を嫌うプレイヤーだって沢山いるしな。…うちらは待った、ボスの間が開くのを、それは意外と早く訪れた。やっぱりやられてしまったんやなってその時は思った。だけどそれは違った。扉が開いてうちらが見たのはボスのドロップ報酬をゴミのようにその場に捨てるあんたの姿やった!!」
怒りに声を震わせながらねこねこは続ける。
「何が起こったんか、うちらには分からなかった。だけど外に出て道を戻っていく途中でモンスターを倒すあんたの動きを見て、理解したんや。次元が違うって。ステータスで強化されたものと違う。それこそ小説の主人公のような圧倒的な無双。うちらはここで理解した。うちらが逃したものはVRチルドレンの力はこれほどのものなんだって。数人で!何回も挑んで!長い時間をかけて準備して!そしてやる気を持って挑もうとしていた相手は!たった一人で!たった一回の挑戦で!何も準備もせずに!やる気もなく、ただの力試しの気持ちで!あっさりと倒されるものだった!!結局その日のボス討伐は無かったことになった。みんな馬鹿馬鹿しくなったんや。目指していたものを目の前で雑に扱われて、気づいてしまったんや、才能だけで簡単に一人で倒せるものに必死の思いで挑むことがどれだけなさけないかということに、そしてそれ以来、あのボスに挑むことはなくなった。うちのボス討伐は止まったまんまなんや!みんな!みんな!止めていった!!ゲームに失望して、たった一年、たった一年、後に生まれるだけで手に入れられた力を嫉んで、一人ずつ、一人ずつ止めていった!!」
叫ぶようにねこねこは続けた。
「ユーリ!!お前に物語のモブの気持ちが分かるか、スポットライトの当たらないものの気持ちが!力を持ったものが活躍するのを眺めるものの気持ちが!!何が違うっていうんや。一年の差。それだけで!特に努力も何もしてないものが、何の思いもないものが、あっさりと自分を越えていく。そんな!そんな棚ぼた能力で!好き勝手する奴らを見て!そんな棚ぼた能力すら手に入れられない自分を見て!苦悩するものの気持ちが!お前にはわかるか!!」
そこまで叫んだところでふっとねこねこは勢いを落ち着かせる。
「…そうやってみんなはゲームを止めていった。けどうちはゲームが好きなのを止められなかった。みんなの居場所はもう無くなって。レッドオーシャンにとどまる意味が無くなったうちは新しい何かを求めて様々なゲームを渡り歩いた。そうしてやっと巡りあったんや、このブレイブカードに。…なあ、ユーリ。お金で買えないものはない。この言葉聞いてどう思う?」
私がその質問に答えるより先に、ねこねこが言葉を発する。
「世間ではこの言葉を言ったら、心が無い奴やって言われる。お金で何でも買えるなんて、思ってるなんて、心の汚い人ねって。でも本当にそうかな?お金で何でも買えるってことは平等に手に入れるチャンスがあるってことや。何でもお金で買えるってことは、努力すれば誰でも手に入るってことや。プライスレスな価値なんてくそ食らえや、そんなもの誰もが手に入れられないものを見せびらかしてるだけやないか。それが特別なものみたいな言い方をして、それが手に入られなかった人はなんなんや?そんなものも手に入られない屑か?VRチルドレンでないうちらは屑か?違う。誰もが手に入れないもので価値を比べ合うこと事態が間違っているんや!」
そこでねこねこは大きく息を吸って言った。
「カードの前では誰もが平等や!!この世界では、強さは!誰もが集められるカードと!考え続ける努力で決まる!才能じゃない。まっとうな力を競うことができる!!ユーリ!お前はこの世界でもうちの邪魔をするっていうんか!」
ねこねこは武器を構えた。
「そこまで言うなら!うちがここでお前を倒してやる!お前を倒して!あの時から続いているボス討伐を終わらせる!!召喚!属性変換獣ライオピアー!!」