試練
『鏡の試練を始めます』
どこかからそんな音声が聞こえる。
「なるほど一定人数がこの広間に揃ってしまうと始まってしまう試練ってことか、う~ん。さっさと進めば良かったかな~でも、姉ちゃんに会えたしー」
相変わらずマサキの言葉は無視して周囲を確認する。音声と共に広間は鏡の壁に包まれていた。
『鏡の試練は単純明快、鏡の中に隠された道を探し出してください。道は複数存在します』
「なるほど、つまりこの鏡を壊していけばいいわけだな」
「え!?なんでそうなるの!?」
突然の破壊衝動に襲われたガウガオーに思わず突っ込みを入れるマサキ。ガウガオーはマサキのことを気にせずカードの効果を発動させた。
「フォームチェンジ!バーニングヒート!!」
その言葉と共にガウガオーが炎に包まれ、再び姿を現したときには特撮ヒーローのような姿になっている。
「いくぞ、必殺バーニングナックル!!」
コスチュームの効果で炎を纏ったただのトンファー攻撃を鏡に向かって繰り出す。すると鏡が割れた。
「道が出来て、これで…うわぁああああ!!」
すると割れた鏡の周囲の鏡にひびが入り、突然われ、下に出来た暗闇の空間へとガウガオーは落ちていった。
迂闊な攻撃は命取りって訳か…
俺は周囲を見渡す。どこを見ても鏡、鏡、鏡だ。
「うわー。落ちちゃったよ。でも、これで、二人っきりだね。ねーさん」
「…」
道があるとしたらどこだろうか。注意深く辺りを見回していると、ガウガオーが壊した穴が再び目に入る。
(あの先は道じゃ無いんだよな…)
ガウガオーが落ちていったことからもそれは確定だ。でも何だろうか、妙に気になる。あんなにもろく壊れやすい鏡、あれはただの罠なのか。
「ねえねえ、姉ちゃん」
そのとき、俺はふと斜め上を見た。そこにはガウガオーが壊した穴が鏡に映っている。それはまるで鏡に穴が…道が空いているように見えた。
(そうか、そういうことか!!)
つまり、これはわざと鏡を壊す必要があるんだ。そしてその壊した穴を鏡に移すことで道となる。すなわちあの鏡を通れば先に進める。
「ねーちゃんも気づいたんだ。もっと馬鹿だと思ってたよ」
「あ"!?」
マサキの言葉に思わず反応を返してしまう。するとマサキはうれしそうな顔をして言葉を続ける。
「どうしたの怒った。いやーそんなはず無いか、ぬるま湯の仲良しごっこをした姉ちゃんはやっぱ逃げるよね」
「ぬるま湯だと…」
思わずマサキの方へと足を向けてしまいそうになる。だがそれを俺は止めた。そしてカードを発動させる。
「フォトンスピード」
「え!?」
そして俺はマサキを無視して道へと向かった。
「そんな姉ちゃん、本当に逃げるの!」
「そうだ、お前の挑発に乗るつもりはない。…一つ言っておく例え本当にぬるま湯だろうと俺は好きでそこに使ってんだ。お前にとやかく言われる筋合いはねぇ!!」
「そんな、あの姉ちゃんが。挑発に乗ってこないなんて。た、たいへ…」
俺は捨て台詞を残し、ぶつぶつと何かを言っているマサキを置いて、脱出ポイントへを探す。
「皆、頑張って勝ってきてるんだ。俺だけつまらない意地張って、負けっ放しでいられるかよ」
マサキからは確かに逃げ出したはずなのに、不思議と心は晴れ渡っていた。先を進んでいくと一枚のカードを見つける。それを拾うとそれはデッキのカードに変化した。
<A-気動波…気の塊を飛ばす。威力を弱めれば三発まで高威力なら一発まで発動可能>
「攻撃技か、だけどこの先は…」
目の前にあるのは下が見えない部屋全体に広がる大穴、そして木製の今にも壊れそうな橋で繋がった穴から突き出すように生える岩の柱だ、その岩の上では今も他のプレイヤーが飛び移っている。そしてその先に明らかに今までとは違う扉があることが分かった。数字で3と書かれている。
「あれが脱出ポイント」
そう呟いた時、先に一人のプレイヤーがたどり着いた。そして中に入ると数字が一つ減り2になる。
「あれってまさか、この扉を使える人数か!?」
辺りを見回すとまだ数名のプレイヤーがいる。完全に出遅れていた。
(まずい、このままだと負ける。一発逆転でも何かをねらわねーと)
橋へと向かいながら必死で方法を考えていると橋にいるプレイヤーを倒すための大型の鳥モンスターが目に入る。そのとき、俺は閃いた。まだ、フォトンジャンプの効果は残っている。あの時の刃物のようにあの鳥の上に乗れればショートカットができる!!
そう考えると直ぐに俺は鳥へと近づいた。
「気動波!」
気動波を使い、軽く鳥に当て、高度を下げさせる。そしてそこに飛び乗った。
「うぉおおお!!」
なんとか飛び移ることに成功したものの刃物と違い鳥は暴れ回る。それと同時に他の鳥がこちらに向かっていた。
「くそ、暴れるなって…そうか、姿が見えてるのがいけないのか、なら光学迷彩!」
すると違和感を感じるもの、少し収まったのか暴れる勢いが減る。これを好機とみて、不幸中の幸いか近づいていた鳥たちを次々と乗り捨てて扉へと向かう。
そして、扉の前へと降り立ち、1の数字が書かれている扉をくぐった。
「ぎ、ぎりぎりだった…」
そう言いつつも俺は達成感で拳をぐっと握る。するといつの間にか光に包まれ、会場の外へと出されていた、程なくして俺の勝利が確定した。