悩み
「お、おめでとう」
俺は帰ってきた二人に向かって、そう語りかけた。正直言って何を言えばいいのかわからない。今までは炎皇が実質的なリーダーをやって率先して行動していた。だが、こうしていなくなって初めて、自分はリーダーとして何も出来ていないことや、やっていて当然のことにも困っているという事態に気づいた。
「どうも」
「ありがとうございます。でも次の会場に向かわなくていいんですか?確か次の脱出デュエルにはミユさんが出るんですよね?」
「ああ、ああ。そうだった。じゃ、じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいでーす」
本当は時間まで、まだ少しある。だけど俺はこの場でどうしたらいいのか分からなくなり、逃げ出すために会場へと向かった。
☆☆☆
「何やってんだろう。俺。こんなコミュニケーション能力低かったかな…」
「シノンはまた、未来結社にちょっかいをかけたでござるか。もう少し、自分を抑えること知って欲しいでござる。あそこのレギオンリーダーは細かいでござるからな、今から対応を考えるだけでも…」
「「はぁ」」
施設に設置された椅子に座っていた俺がため息をつくと当時に隣座っていたものもため息を吐いた。俺が視線を向けるとそこには星屑の雨の嵐丸がいた。
「なんか大変そうだね、忍者のあんちゃんも」
「そちらも、何か悩みのようでござるな、少女」
「「「ふぅ」」
何故か親近感が湧き、俺はこの忍者に話を振ってみた。
「あんた、すまぬすまぬ言ってた人だよね。なんでそんなに大変なのにレギオン、作ってんの?」
「レギオンを作った理由でござるか?あ~、それは単純に作りたかったからでござる。別に作ること自体は何の問題もないでござる」
「だよな~。作るまではいいんだよな~」
でも、そこからどうすればいいか分からない。結構切実な問題だ。
「何でござるか?レギオンの悩みでござるか?」
「あ、べ、別にそんなんじゃねーよ」
俺はあっさりと言い当てられて思わず反論してしまう。
「隠す必要はないでござる。自分も色々悩んでいるでござるからな~」
しみじみと語る忍者。俺は何故こんなにも苦労しているのにリーダーを忍者がやっているのか、気になった。
「あんたもレギオンリーダーなんだろ?なんでリーダーなんてやってるん?ただの平の方がいつでも止められるし、楽なんじゃ無いのか?」
「デュエルは一人では出来ないでござる」
「あ?いきなり何を言い出してるんだ?」
突然質問と関係ない言葉を発せられて思わず口に考えが出てしまう。忍者はちらっとこちらを見たが気にする様子も無く続ける。
「デュエルだけではござらん。忍者のロールだって一人でやればただの自己満足、皆がいれば互いに笑い合うことができる。結局、一人では自己満足以上のことは出来ないでござる。孤独だっと言っている人たちだってネットの掲示板などで人と繋がっているでござる。拙者はそう言う、共にいて、笑い合って、それで得られる楽しさがが何よりも好きでござる。もちろん迷惑を受けることもあるし、嫌なこともあるでござる。でもその場所が好きだから、守りたいと思っているからこそリーダーをやっているでござる」
「その場所が好きじゃ無かったり、合わなかったりしたらどうするんだよ」
単純な話だ。元々好きでも何かがあって嫌いになったり、無理矢理合わせてその場所にいる可能性だってある。
「別にそれならそれで、新しい場所に行けば、いいだけの話でござる。人が人である限り、行き場所がないということはないでござる。ありのままの自分をさらけ出して、行き場所を探せばいいだけでござる。チャラチャラした奴にはそういった場所が、不良には不良のたまり場が、インドア派の人たちだって集まれる場所はあるでござるよ。その中から自分に合うものを見つけて参加するか…」
「参加するか?」
「いっそのこと自分で作る方が早いでござるかもな。自分に合わせて仲間を集められる。それがリーダーの利点の一つでもあるでござるよ。だからこそ、リーダーは誰よりもその場所が好きでは無いと駄目でござる。お主は自分のレギオンが嫌いなのでござるか?」
そう聞かれて俺は考える。色々あって作ったレギオンだが、ユーリやセナ、ミスト達…それにあいつ。みんなで楽しく今までやってきた。きっとこれからもそうだろう。だから嫌いかと聞かれれば…。
「別に嫌いじゃ無いな」
それを聞くと忍者は布に隠れて分からないがふっと笑ったような雰囲気になり言う。
「なら、片意地張らずに、皆のためを思ってやりたいようにやるがいいでござるよ。本当に皆のための行動なら相手も思いを返してくれるでござる。皆だってその場所が好きなのだから、自分だけじゃ無く皆も同じように努力してくれるでござるよ」
そう言うと忍者は立ち上がった。
「自分で言っていたら元気が出てきたでござる。それでは拙者はここで失礼するでござる」
そう言って忍者は去って行く。そうだななるようにしかならないんだ。とりあえずやれるだけ頑張るか。うじうじ悩んで俺らしくなかった。
「さて、いくか」
一言、それだけ言うと俺は会場へと向かった。