タッグデュエル
「え、あ~。頑張って来い?」
そんな風にどう激励すればいいのか分かっていないようなミユの激励を受けてボク達はタッグデュエルの会場に付いていた。
『レディース&ジェントルメン~!!ついにやってきた第三回戦!チェイスデュエルと並んだ人気を誇るタッグデュエルの時間だ~!』
『今回のデュエルは特に解説はいりませんね。タッグデュエルは通常のデュエルと方式は変わりません。しいて言うなら先に相手二人を倒した方が勝者となります。また、タッグと言っても個別のプレイヤー扱いなのでお互いにダメージを与えることは可能です!あえてダメージを受けることで発揮する効果など通常では使いどころの難しいカードでも、このタッグデュエルでは上手く扱うことができるようになっています!お互い上手く連携を取る。それが~』
『『タッグデュエル』』
『では、第一戦を始めましょう!!』
「えーと、ボク達の相手は…」
ボクはそう言うと手元の端末を操作して対戦相手を確認する。だが、その答えはボクが端末から探し出すより速く、相手から訪れた。
「むぅ…」
「やっほー。ユーリちゃん。久しぶり!どうやらあの時、不完全燃焼で終わった続きが出来そうだね」
「わざわざ、挨拶に来る必要あったのか…」
「いいじゃん。いいじゃん。こういうのやっとかなきゃ損でしょ?」
気楽な様子でやってきた楓を見たユーリが思わず唸る。楓の後ろにはやれやれと言った顔をしたレンがいた。
「…次の対戦相手はお二人ということですか」
「ま、そう言うこと。ちょうど良かったよ。アタシの刀は血で飢えているからね。一度敵対した相手は必ず倒さないと気が済まないんだ。今回でユーリを倒し、フラッグデュエルではねこねこをばっちりと斬らせてもらうよ」
ボクの言葉に頷いた楓は高陽とした表情で自身の武器である刀を掲げて見ながらそう言う。
「そっちのには借りがある」
レンを見ながら、ユーリは短くそう言う。対するレンは最後の止めを刺しただけなので特に何も思うところが無いように投げナイフを手元で弄っている。
「別に借りとか知らないし、それより炎皇さんが見えないけどフラッグデュエルちゃんと出るの?」
レンのその発言を聞いてボクは思った。せ、戦闘狂しかいない…。
☆☆☆
いよいよボク達の試合の番となり、会場に転送される。フィールドは格闘技の大会などで使われそうな四角形の広場のような場所だ。南側にボク達が並び立ち、北側に楓とレンが立つ。お互いにデッキを展開して勝負が始まろうとしていた。
『それでは第13試合を始めます…デュエルスタート!!』
その言葉と共にボクはあえて距離を取り、ユーリが前と飛び出す。事前に打ち合わせした通り、攻撃を運動能力の高いユーリに任せてボクは援護に回る作戦だ。ボクは素早く手札を確認した。
<A-風拳突き…風を纏った拳を突きだす拳術。纏った風は対象を吹き飛ばすように解放される。遠くに行く時のお手軽手段としてどうぞ>
<A-突風突き…大きく屈んで一気に飛び出すことで突風を纏いながら突撃をする。一度、飛んだら止まれません。飛び込み注意!>
<I-風縫い矢…投合用の矢。風を縫うように投げた後の軌道の操作がある程度できる。すいすいーと細かい隙間の虫退治にこれ一本!>
<M-キャスリングチェンジ…モンスターと自分の居場所を入れ替える魔法。しかしどういう原理で生まれたものなのだろうか>
<C-風影猫…風と影の力を持った大きな猫。ネコ科は強いんだぞガオー>
(まずは、猫を召喚してユーリの援護に付ける!)
「風影猫はユーリの援護。ユーリ。まずはレンからだ!!楓のアイテムは持久力は少ない。ABCDEを完成させられる前にレンを倒そう!!」
「了解」
ユーリは敵からの攻撃を警戒しながら、目標を絞らせないようにジグザグに動き、レンへと向かっていく。相対することになったレンは冷静にカードを発動する。
「コンデンサーシグマ召喚!」
その言葉と共に円形の体を持つモンスターが召喚される。
「ABCDEデッキじゃない!?」
「タッグデュエル用にデッキは変えたんだよ」
「何であろうと!」
ユーリの槍による突きがレンへと向かう、その瞬間。レンとユーリの間にコンデンサーシグマが割り込んだ。
ユーリの槍がコンデンサーシグマに突き刺さる。するとその勢いがコンデンサーシグマにより止められ、衝撃を受けたコンデンサーシグマが帯電し始める。
「っ!?」
「無駄だよ。コンデンサーシグマは攻撃を全て吸収する。そして吸収した威力を電気として自身に貯め、解き放つことが出来る!…リリース!!」
危険を感じ、瞬時に身を引いたユーリのいた場所にコンデンサーシグマから電撃が放たれる。その攻撃は地面を焦し、その威力を物語っていた。
そして、ユーリがその攻撃を警戒して注意がそがれているところを狙って横から楓が刀を生み出して振るう。
「妖刀白雪!」
氷を纏った刀がユーリへと迫る。ユーリは体を反らしそれを躱すと槍を起点にして曲芸のように体を浮かせ飛び退く。追撃を仕掛けようと動く楓に向かって手元の武器である二本のダガーの内、一本を投げる。
楓はその攻撃を刀で受ける。するとダガーは刀に氷漬けにされ張り付けられた。
「甘いね!」
「それはこっちの言葉ですよ!」
ボクの攻撃は意識を逸らさせるための陽動だ。本命は空中に浮かび、上空という視界的距離の開いたユーリからの一撃。ユーリは自らのカードの効果を発動させた。
「アイスニードル!!」
「コンデンサーガンマ!」
楓を庇うように出現したコンデンサーガンマによってアイスニードルが防がれる。ユーリは軽く舌打ちをすると空から降りてくる勢いを利用してガンマごと楓に攻撃を仕掛ける。
するとコンデンサーガンマは横にそれる様に攻撃を避け、後ろに控えていた楓が攻撃態勢を作る。
「刀剣解放!咲き誇れ白雪!!」
刀剣解放して威力の上がった白雪から放たれた氷がユーリに迫る。ユーリは咄嗟に槍でガードする。だが、空中での防御はユーリの態勢を崩し、そこへ楓は一撃を加えようと動き出していた
ボクはそれを見ると大きく屈み飛び出す。
「!」
ボクが攻撃する直線上にいた楓はそれを見て、ユーリへの追撃を諦め、横にそれた。だがボクの本当の狙いは彼女ではない。ユーリの攻撃を避けるために横にそれたことでボクの位置から見て、楓の後ろにいることとなったモンスター。
「コンデンサーガンマか!」
レンがその目的に気付き声を上げる。だが、突風突きのスピードは速い。回避させる命令も追いつかず、コンデンサーガンマ自身が回避を試みたその瞬間には、ボクのダガーはコンデンサーガンマを貫いていた。
「やっぱりそうか!」
ダメージを受け、消滅するコンデンサーガンマ。それを見たボクは自分の考えがあっていたことを理解した。
コンデンサーシリーズはユーリの攻撃を二度も防いだことからレンの言った通り、攻撃を吸収する能力を持っていることはわかった。だが、レンはその能力の詳細を言ったわけではなかったのだ。
(攻撃を全て無効化するモンスター何て存在するはずはない。ゲームバランスの面から考えれば当然だ。レンは攻撃を吸収すると言っていたが。恐らくそれには何か制限がある。コンデンサーシグマはユーリの武器による攻撃を受けたが、コンデンサーガンマはあの時、アイスニードルを受けた後、ユーリの通常攻撃を躱した。もし、コンデンサーガンマがあの時点でも攻撃を吸収することができるのならユーリの攻撃を受けてから横に逃げた方が楓の白雪による氷の捕縛をより効率良く行えたはずなのに。それをしなかったと言うことはあの時、コンデンサーガンマは攻撃を吸収できなかったということ…つまり)
「コンデンサーシリーズは一つの系統の攻撃しか吸収できないか、或いは同時に二つ以上の攻撃を吸収できない。いや、両方の可能性もある。どちらにしても倒せないモンスターではない!」
ユーリにボクの考えを伝える様に叫びながらボクはコンデンサーシグマへと向かう。今、重要なことはコンデンサーシリーズを倒すことだ。一対一ならユーリは楓に負けてはいない。だが、コンデンサーシリーズに攻撃を無効化されてしまえば、速攻重視のユーリは苦戦を免れない。幸い、風影猫がレンの足止めを行ってくれているため。その間にコンデンサーシリーズを一掃する必要がある。
「ユーリ!もし、シグマがそっちに行ってしまったらカード効果で攻撃するんだ。恐らくシグマは通常攻撃しか吸収できない!」
「わかった!」
念のためユーリにコンデンサーシグマの対応策を言い。楓との一騎打ちをさせる状況を作る。
「っち…!楓!少し早いが打ち合わせ通り行こう!」
「え~。もうちょっと一対一で遊んでたいだけど…」
自身のモンスターの特徴を見抜かれたレンは状況を打開するために楓に語りかける。作戦があるのか?そう警戒するボクの前で楓は不満そうな顔を作り、もう少しユーリと斬り合いたいとレンの申し出を拒否する。それを聞いたレンは叫んだ。
「遊んで負けたら元も子もないだろ?」
「ま、それもそうか。同じ遊びでも、負ける遊びより、勝つ遊びの方が楽しいもんね。いいよ、やろう!」
「何をするつもりか分かりませんがそう簡単には…」
「させない」
何かの承諾を得たレン。恐らく元から用意していた戦術を使うつもりなのだろう。だが、使うと分かっていてわざわざ見逃すボクたちではない。ユーリはそのまま楓へと向かい、ボクはコンデンサーシグマとレンへと向かう。どのような戦術があろうとも分断させてそれを行えない状況にすればいいのだ。
駆け出した先で風影猫がレンに倒されるのを目にしながらボクはレンに向かって風縫い矢を出現させ、投げる。
「っく!」
対応するコンデンサーがいなかったのか、レンが選んだのは回避することだった。だがその選択は間違えだ。風縫い矢は投げたあとの軌道を制御することができる。ボクは風縫い矢の軌道を変えるとそれは吸いつけられるように回避し、すぐには動けないレンへと向かっていく。
「セット!」
(この状況でセットした!?)
逃げられないと悟ったレンはこの状況で何かのカードをセットした。ここでセットすると言うことはダメージで失いたくなかったということ、つまり、今回の戦術のキーとなるカードのはずだ。だが、発動してオブジェクト化したトラップならともかく、セット状態のカードを破壊するためには専用のカード効果が必要となる。
現状では何もできない。風縫い矢が当たり、手札が一枚と追い詰めたレンからボクは一瞬、ユーリの方へと視線を向ける。
そこではユーリがアイスストームを楓に向かって放っていた。だが、楓は逃げることもせず、腰に手を当て居合の構えを取っている。
「…一刀の元に全てを絶つ…」
(攻撃が来ているのに逃げない…何かするつもりなのか!?)
それを見たボクは強烈な危機意識を感じてダガーを構え、防御の姿勢を取った。楓の動きを見たレンはセットしたカードを発動させる。
「チャージングボックス!」
「あらゆるものを貫く…絶対の秘剣!」
そう叫ぶと楓はキッと前を見つめる。そして一気に刀を振り抜いた。
「天まで届け!…秘奥義!一閃燕返し!!」
振り抜いた刀から白い閃光のような軌跡が放たれる。それは楓に近づいていたアイスストームを切り裂き、ユーリを貫いた。そして離れた場所に居たボク自身も縦に切り上げるように切り裂かれる。
「っな!」
ボクはその攻撃範囲を見て驚きの声を上げる。
(直線上に対して無制限の範囲攻撃!?それに武器でガードしたはずなのに貫通効果を持っているのか?いや……これは!)
ボクは自身の武器を見た。これは破壊不能のオブジェクトだ。だから貫通したように見えただけ。実際、楓に迫っていたアイスストームは破壊され、その効力を無くしている。このことから考えるに…。
(あの秘奥義は直線上の全てを破壊する攻撃。攻撃も防御も直線上にある限り、全て無効化されるってことか!)
恐ろしい性能だ。だが、同時にボクは安心していた。強力な一撃だが、使ったということは既に切り札を使い切ったということ。これ以上の隠し球の可能性はない…そこまで自分で考えたところでハッと気づく。そう言えばあの時、レンはトラップカードを発動させていた。そして元々はレンが楓に呼びかけて攻撃を行わせたはずだ。…連携のために、ということはあのカードはこの一撃を使い切らせないための何かの効力を持っている。
トラップカードが出現させたオブジェクトを破壊したいが、楓の攻撃の巻き添えを避けるために横に逃げたレンの位置にすぐさま追いつくことは出来ない。恐らく発動は防ぐことは出来ないだろう。絶対絶命の状況。だがボクは不思議とわくわくとしていた。相手がどんな手を使ってくるか、それをどんな手で乗り越えるか、それを考え、新しい回答を思いつくたびに自分が成長したと感じる。
(発動した後のことを考えるんだ。あれはどういう系統だ?一閃燕返しで場が乱れた所を追撃するためのものか?いや、その可能性は低い。一閃燕返しは威力こそ高いものの場を乱す力は弱い。ここで追撃を仕掛けても立ち直ることは難しくない。ボクなら追撃は選ばない。ならばあれは補助の役割を持ったトラップ!だが、既に技は発動しきっている。つまり、残された可能性は!)
「効果の再使用か!!」
「手札一枚をコストとして払うことで効果を発動する。チャージングボックスに保存された、このフィールドで最後に発動したカードを持ち主の手札に戻す!」
その言葉とともにチャージングボックスが砕け、そこから飛び出したカードが楓の手元に飛ばされる。ボクは駆けだした。
「ほいっと。それじゃあ、早速!」
楓がカードを使おうとする言葉が聞こえる。だが、その発動自体を無効化するのには間に合わない。ユーリは回避は不可能だと考え、ボクと離れる。直線上に居て、二人同時に攻撃を受けることを避けるためだ。
だが、ボクは思う。本当に回避は不可能なのかと。
(回避というのは一つの行動だ。そして体を動かすのはその手段の一つ!言っていたじゃ無いか、それが出来ないなら別の何かで代用すればいい。それがカードゲームだって。なら道は必ずどこかにあるはず)
「一刀の元に全てを絶つ、あらゆるものを貫く、絶対の秘剣!」
(自分自身を動かしても意味が無いなら…)
「相手を動かす!穿て!風拳突き!!」
「天まで届け!秘奥義!一閃燕返し!!」
ボクは風拳突きに向かって放つ、そして地面に攻撃が当たり、地面が抉られる。それによりそれぞれの立つ場所が不揃いに隆起した。その瞬間、楓の秘奥義が発動する。その攻撃はボクらの頭上を通り抜けた。
「え!?」
「なに!?」
攻撃を回避された楓とレンが驚きの声を上げる。直ぐに状況を理解したのはレンだった。
「そうか、刀が切り上げる高さを上げたのか!」
そう、やったことは。至極簡単なことだ。一閃燕返しは直線上を攻撃するほぼ回避不能の技だ。切り上げるようにして放たれる居合いは直線上を進み、上空すらカバーする。これから逃れることは難しい。だからボクがやったことは楓が切り上げる高さを上げ、角度を付けることだ。
刀を使って切り上げる以上、切り上げ初めの高さより下は攻撃できない。本来なら平地であり、それでも全てをカバーできるのだろう。だが、あえて地面を攻撃し、楓の地面を隆起させたことで事態は変わった。
地面が隆起した結果、切り上げる初めの場所は普段より高くなり、そしてそのまま放ったことで攻撃に角度がついた。それにより直線を進むごとに高さはより高くなり、見事回避に成功したというわけだ。
「か、躱された?私の刀が」
楓は決まったと思った一撃が躱されまだ動揺している。
「人は一度、その形で勝利すればその勝ち方に希望を持つ。故にそれが破られるとは思わなくなるし、破れたときの動揺は大きくなるだっけ」
雷帝に敗れた後、聞いたボクが負けた理由。自信の一撃を砕かれたその瞬間にこそ、最高のチャンスはやってくる。今、勢いはこっちにある。
(もう、ただ嘆いていたあの時とは違う。なんで駄目なのかって考えてしっかりと学んで進める。ユーリに負けては居られない。どんな人間だって、成長はできるんだ!!)
「ユーリ!!」
ボクの叫びにユーリが答える。無防備になった楓へ、その槍が吸い込まれた。
「しまっ…!!」
そこでようやく攻撃を受けたことに気づいた楓、吹き飛ばされ、ユーリの元から離れる。だが、ユーリは止まらない。
「シグマ!!」
「その手は悪手だよ!」
レンは手札が無くなった楓を守るためにコンデンサーシグマを派遣する。だが、既にユーリはシグマの弱点を知っているのだ。
「氷冷の太刀!」
ユーリが出現させた太刀にシグマが切り裂かれる。そしてそのまま楓へと襲いかかる。
「こ、このアタシが斬られるなんて!」
「次!」
そう言葉を残し、ダメージを受ける楓。ユーリは楓の元を離れ、レンへと向かう。そして同時にシグマが去ったことでレンに突撃していたボクと挟撃の形となる。
「ち、二対一でも…ハンダソード」
はんだごてを模した剣が現れる。だが、もはや多勢に無勢だ。ハンダソードで氷冷の太刀と打ち合い氷冷の太刀の太刀を溶かすものの、後ろからボクに攻撃され、それを回避したところを有利の槍が狙う。前後から来る攻撃を躱し続けることができず、レンはその攻撃を受けた。
「ここまでか、まだまだ、足りないってことかぁ……」
そう言ってレンは消え、タッグデュエルはボク達の勝利となった。




