つまらない。だが、嫌いでは無い
スワローズネストのレギオン前に着くと既にトウドウはそこで待っていた。俺が手を上げると相手も手を上げ挨拶を返してくる。
「カカカ、悪いなわざわざ呼び出して」
「前置きは良いから要件を頼む。さっさと終わらせてデュエル見物に戻りたいんだ」
俺はちゃっちゃと内容に入るためにトウドウにそう言う。トウドウはふむ…ともったいぶるように考えた後、話始めた。
「まあ、いきなり本題に入りたいのはやまやまなんだがな。その前に炎皇。今、スワローズネストがどうなっているかわかるか?」
「いや、わかるわけないだろう」
何を当たり前な事をと言ったふうに俺は返す。相手チームの事情を察するなんてどこの超能力者だ。何の情報もないこの状況で分かることなんてあるわけない。
「カカカ、そりゃそうか!…実はな、今、スワローズネストはちと困ったことになっているんだ」
「困ったこと?というかそれ俺が聞く必要あるのか?一応敵なんだが…」
「まあまあ、聞け。お前にも関係あることだからな」
(俺にも関係あること?スワローズネストが困っていても一応勝負事だし、俺が手を出す話ではないはずだけど…何かあるのか?)
そんなことを考えている間にトウドウは話を続ける。
「…実はな、スワローズネストのリーダーが逃げ出してな」
「逃げ出した!?」
「ああ、そうだ。可哀想なことに何処かの誰かにバトルロワイヤルでぼこぼこにされたことがよほど堪えたのだろう」
明らかにこちらに視線をちらちらと向けながらそう言い切るトウドウから目を反らす。
(いや、確かにさ。ちょっとやりすぎたと思ったけど。逃げ出したって…まじか)
「…ていうかわざわざそれを俺に伝えてどういうつもりだ?」
俺はそもそもの疑問をトウドウに投げかけた、人は人に頼みごとをするときに必ず思惑が存在する。確かにフィルの逃走は一大事だが、それを俺に伝えてトウドウに何の得がある?まさか…
「お前に話した方が面白いことになりそうだったからな。逃げ出したまま終わるなんてつまらないだろう?もっと葛藤して貰わないとみてるこっちが楽しめん」
その言葉で俺はトウドウの目的を理解して呆れ顔となる。
「相変わらず、いい趣味してるな~トウドウ。人の心の揺れ動く姿とその結末を見るのが好きなんだっけ。大方、このままフィルが逃げたらそれで終わってしまう。元凶である俺がフィルの元に向かってフィルがどういう反応をしてどう判断するのか見てみたいってところか。何と言うかわざわざ傷口を抉るようなマネをするな」
「所詮人の心など泡沫よ。ならばそれを楽しく利用して何が悪い?そもそも漫画だって、ゲームだって、アニメだって、小説だって主人公の揺れ動く姿を見て楽しむものよ。誰だって人の葛藤する姿を見て、それに愉悦を感じているのではないか」
トウドウはそう言い切る。確かに人間には他人が苦しむ姿を見て愉悦を感じる心はあるんだろう。そしてそれを否定する理由はない。だが。
「別に悪いとは言ってないさ。それと、漫画とか、ゲームとか、アニメとか、小説とか、葛藤する姿に愉悦を感じているんじゃなくて、葛藤の先にある成長する姿を見たいんだと俺は思うぜ。というかそもそも俺がフィルの元に向かう前提で話しているが俺が行くかどうかなんてわからないだろう。このまま終わらせれば俺達の勝ちだ。そんなリスク取らないってそう思わないのか?」
「カカカ、いまさら何を言っている。お前は話を聞けば必ず行くだろう?」
トウドウは当たり前だろうと言った風にそう言う。…確かにもう行くことは決めている。だがそれをあっさりと他人に見透かされるとちょっと気分が悪い。俺は口をとがらせながら少し不機嫌に言った。
「確かに行く気だったさ。だけど何でそう言い切れるんだよ」
「しれたこと。お前がつまらないからだ」
「はぁ?つまらない」
まったく答えになっていない会話のドッチボール。再び呆れて問を返してしまう。トウドウは更に詳しい説明を始めた。
「お前はもう決めてしまってるだろう?生き方を、信念を、だから揺らぐことはない。自分の生き方に従って行動するだけだ。故につまらん。まあ、嫌いではないがな」
「それはどうも」
つまらないが嫌いではないとどうにも返答に困る返しをされてしまう。まあいい。俺が行くと分かった理由もわかった。トウドウの言うように動くことになるのは癪だが、もとより自分が決めたことだ。気にしても仕方ない。
俺は手早くミユに陣取りデュエルまで戻れないとチャットを送る。そして端末を操作してログアウトボタンを押そうとする。その時、トウドウから声が掛かった。
「早速行くのか?」
「まあな、残りも少ないし、行くなら早い方がいい。…どっちにしろ中途半端な終わりは嫌だからな」
そう言うと俺はトウドウの方へと振り返る。
「俺はサレンダーは許さないタイプなんだ。さっさと連れ戻してくるとしよう」
そう言ってログアウトボタンを押した。
「とりあえず店長に連絡を取るか」
そう言って俺の意識は現実に連れ戻された。
☆☆☆
「俺はサレンダーは許さないタイプなんだ。さっさと連れ戻してくるとしよう。とはよく言ったものだ」
俺は炎皇が去り際に放った言葉を呟きながらそう言う。自分が原因で困らせた女の子だから当然だろうとか、落ち込んだ子を助けるのが常識だからと言って助けにはいかない。例え、そう心の中で思っていても、あくまで自分のエゴで行動すると言い張るその信念。それが奴の決めた生き方だ。
常識とか当然とかそう言った言葉は結局の所、自分の行動を肯定したいがために付ける言葉だ、奴はそれを好まない。自分がやっていることが必ずしも正しいと思っていないからだろう。…世の中には様々な考えがある。それこそここでフィルを見捨てるのも正解だし、助けに行くのも正解だ。どちらも正しく、また普段、常識や当然だと思っていることだって必ずしも正解とは限らないのだ。どれが正解かも分からず、誰もが自分の思いを果たそうともがいている世の中で一般論で自分を肯定して他人の思いを崩そうとするなんて不義理だと。昔、奴は言っていた。だからこそ思いには思いで、世の中がどうこうじゃない。今ここにいる自分自身として行動する。それが奴の信念なのだ。
「だからこそつまらない。だが、嫌いではない」
信念を持っている奴は揺るがない。場面場面で選択を考えることはあっても根本が揺らぐことはない。だから結果は見えている。そこに面白味はない。だが、物語の最後で勝つのは強い奴でも、賢い奴でもない。そんな信念を貫いたものなのだ。だからこそ、俺のような人間は安心して踊ることができる。物語の中でどれだけ踊っても必ず信念を持つアイツが勝って丸く収めてくれると知っているから。…嫌いではないのだ。
「カカカ、さて、すべきことは終えたし。ワクワクしながら結果を待つとするかな」
俺はそう言うと別の場所に向かって歩き出した。




