自分を愛すること
舞台袖で私と絵の助は演技前に目を付けた少女の演技を見ていた。
その少女…ミストは魔法少女のように魔法を使い演技を見せる。自分の思う魔法少女像になぞってカードを発動させ、演技するそれは完成された舞踏の美しさを見せる私の演技とも言葉の語りとカードの演技によって物語を彩る絵の助の演技とも違う物だ。
「私の演技とも、絵の助の演技とも違うわね」
「そうでやんすね、勝負は二人の負けってことで何とも閉まらない終わりでやんすな」
「そうね~。ちょっと残念だけど仕方ないわね」
そう言って私はミストの演技に目を向ける。魔法少女を自己流にアレンジして成り切っている。あの演技は自分のなりたいものに成り切る演技、いわゆるロールというものだ。 儀式的な舞踏に美しさを感じて踊りを創り上げた私、昔話の良さを見つけて再現した絵の助とも違う、自分の考えた理想の自分を演じ切る。役者のようなそれが彼女の憧れだったのだろう。
「自分だけのもの見つけたみたいね」
私はそう呟くとそのまま演技を見続けた。
☆☆☆
「負けちゃいました」
ミストは戻ってくると開口一番そう言った。コンテストデュエルは椿姫の勝ちに終わり、ミストは勝負を終え戻ってきていたのだ。
「まあ、相手が悪かったな。椿姫はコンテストデュエルで有名なプレイヤーだから、そう簡単には倒せないさ、まあ、いい演技だったんじゃないか?それっぽかったぞ?魔法少女」
「そうですか?さすが師匠!見る目がありますね」
「お、おう…なんか上から目線…余裕と言うか貫禄があるな…」
俺がそう言うとミストはもじもじとした後、顔を見ながらはっきりと言う。
「自分の演技の良さを一番よくわかっているのは自分ですから」
「そうか…ま、そういうもんだよな。どんなファンデッキだってその良さを一番分かってるのは作ったやつだ。自分らしさってのは、自分の考えを認め、受け入れること…つまり自分を愛するってことだからな。当然自分の作ったものを自分が一番愛するってことにも繋がる」
そんなことを言いながらうむうむと頷く。会場に向かうときにはすべき演技を見つけていなかったがどうやら何かコツを掴んだらしい。負けてしまったが悔いのない演技ができたようで何よりだ。
その時、俺の情報端末にチャットで連絡が入る。相手はトウドウからだ。そこには短く「勝負のことで話がある。スワローズネストのレギオンルーム前に来い」と書かれていた。
(勝負のこと?なんでトウドウからメールが?)
地勇からの連絡に疑問を持つが無視するわけにもいかない。俺はセナとユーリに声を掛ける。
「次のタッグデュエルは二人が出場するんだったよな?悪いちょっと用事ができた。少しここから離れるわ。場合によってはデュエル見られないかもしれん。すまん」
「ええ…」
「むぅ」
露骨に嫌な顔をする二人。折角の晴れ舞台を見れないことに申し訳なさを感じつつもてきぱきとミユに話しかける。
「とりあえず後のことはレギオンリーダーのミユに任せる。それじゃ」
「え!?おい!」
そういうとさっさと事を終わらせるためトウドウの元に向かった。




