イベント -王者-
アクアは一対同時にチャクラムを投げる。私は既にダメージを受けている。だが驚きはしたが連撃は来なかった。未だにカード差は存在しない。
(カードゲームにおいて何より重要なのは流れを作らないこと。今勢いはあちらにある。ここは守勢に回って出鼻をくじきましょう)
私は手札を確認した。
<M-賢者の審判…相手が自身が語ったカードを使用した瞬間ダメージを与える。外れた場合はダメージを受ける。神判ってなると某カードゲームの恐怖が…>
<A-風の導き…手を耳に翳すと見えない範囲に居る相手の動きが分かる。聞き耳聞き耳>
<I-ランスオブウィンド…風を纏った槍。ランスオブ○○シリーズの逸品だ!>
<T-風雷落とし…上空に設置するトラップ。発動すると雷と風の嵐を地面に向かって放つ。>
(特に今切るべき手札は無いですね。相手の動きを確認してから妨害に移るとしますか)
私はアクアのチャクラムを避ける。このくらいは攻撃の内に入らない軌道を読めば回避は単純だ。
「っち。やはり武器攻撃は意味がないか…まあ武器だけならな発動アクアスライス!!」
「!?今度は種族ミスですか!?」
アクアスライスは通常魔法のはずだ武器から発動することはない。だが現に効果は発動し私を狙う。
「…ですが…」
私は剣を構えアクアスライスを突く。するとアクアスライスは崩れ落ち消えた。
「魔法には通常武器でも防げるように耐久値が存在します。そして場所によってより耐久値の減るウィークポイントも。残念でしたね。ただ出すだけの手品では私には通用しませんよ?」
「っち、そんなことは分かっている。それ自体が俺の布石だ。お前は俺の布石を踏んだ。トラップカードオープン!!崩落の連座!」
「今度はいったい何を…」
「崩落の連座は事前にセットしておき、セット状態が維持されている状態で特定の条件が満たされることで発動するトラップ。此奴の効果はカードによって生み出された物体が破壊された時、相手のカードで生み出した物体を破壊する!」
それを聞いて私は首を傾げた。私はカードで出した物体など持っていない。このことから想定されるバグは…
「この際、相手が何のカードも使っていない場合発生するバグがある!それは破壊不能のカード以外のオブジェクト…そう武器を代わりに破壊する!!」
私が自身の剣へと視線を向けると剣は崩れ去っていった。
「やれやれ、これはゲームシステムに直結する重大なバグじゃないですか。後でしっかりと報告して修正して貰わないと…あとはテスター部門の拡充を提案すべきかもしれませんね」
「このゲームにおいて武器は通常攻撃を担う大切な部分だ。それを失えば攻め手は限られる。もはや武器を起点とするカードも使えない!」
勝ち誇るようにアクアが言う。
「ですが、たかがそれだけのことです。無ければ別のものを使えばいいだけのこと。ランスオブウィンド!!」
私は自身の手元に風を纏った槍を出現させる。だがそれでもアクアは焦りを見せない。
「アイテムを持っていたか。だが、どんな強固な壁でも蟻の一穴によって崩れていくと言う。既に穴は開いた!ここからは崩すだけだ!」
「確かに穴が開けば崩れ落ちる可能性はあるのでしょう。ですが、それでもそう簡単に崩れないからこそ強壁は強壁なんですよ」
「上に立つ者の言葉は至言だな。だからこそ弱者の反逆の理論は矛盾する!」
「何を言いたいのかわかりませんねぇ」
チャクラムの攻撃を槍で受け流す。投げることはやめたらしい。だがそれでも不確定要素が増えるだけで読めはする。
「上がルールを作るからそこから外れたものが、矛盾をはらんだ存在になるんだ!!強者がルールを作るのはわかる。だがそもそも強者を目指さなかったものや目指すことすらできなかったものがどうして弱者と同じに扱われる!他人のことを笑うのがそんなに楽しいのか!!」
「私に言われても困りますよ」
「そうだろうな!これはただの俺の僻みだ。目の前に理想像が居て抑えられなくなったのかもな!!」
槍での一撃がチャクラムの合間を抜ける。アクアは一瞬の判断でチャクラムを投げ捨てた。
「後悔はしていないじゃなかったんですか?」
「後悔はしてないさ。だが鬱憤が溜まっていないと言っていない!目指した先でそれが違うと言われ続ければ!!それが好きだからこそ溜まるのさ!!お前に言われる筋合いはないってな!!」
アクアはカードを発動させた。
「だからこそ証明する!ここで!全てを作ったジン!あんたに勝ち!俺が目指したものの素晴らしさを認めさせてやる!そして俺はこの世界に名を残す!!アンチノミーミスト!!」
「やれやれ。今度は一体どんなバグですか?自分の不手際を見せつけられているようで嫌なんですがね」
霧は徐々に深くなっていく。だが特段異常見られない。
(アンチノミーミストは霧を生み出す魔法か、霧を水分に固める魔法の二つを選択するはず。これは霧を生み出す方だ。特に異常はないが…なにかあるのか?)
そしてそこで気付く。
(いや、おかしい!霧が止まらない!?)
カードの効果は一定時間で消える。トラップカードや魔法カードで一部現場に残り続けるものがあるがそれでも効果が発動し続け増え続けると言ったものはない。だが今、この時の魔法は霧が増え続けていた。
「ループバグ…いや終了条件の設定がビットでずれたかゼロが一増えたか…そもそも設定されていない?いやそれはあり得ない。さすがにそれならば報告がされるはずだし、異常に気付く。ならこれはどうゆう条件だ?」
「誰が霧を発生させているって言った?」
「まさか…これは!」
「そう霧を固める効果だ!そもそも霧と言うのは湿度が高い場所で気温が下がれば発動するものだ。この場には先ほどのアイススライスによって温度が下げられ、また海と言う湿度を生み出す要因があった。そこまで明確に見えるわけじゃないが霧はそこにあったのさ。そしてそれを固めることにより高密度となり視認が可能になった。いわば大きな霧の塊に閉じ込められたってわけさ、…そしてアンチノミーミストの効果は霧を水として固める…その動き!封じさせてもらうぞ!!」
「なるほどそんな方法が…VRと言う土台が有利に働いた結果ですか。普通のゲームでは不可能な戦術です」
私はそう言いながら水でできた壁を確認する。完全に閉じ込められた私は身動きが封じられていた。
「これで…」
「残念ですが止まりませんよ。トラップセット。発動風雷落とし」
風と雷の渦が私と水の塊を襲う。雷によるダメージは受けたものの風により水の壁は吹き飛ばされた。
「自爆だと…」
「私もあなたの意見を聞いて一つ共感することがあるんです」
水を払いながら私は言う。
「どんなことがあろうとも私も私だけの世界を意地を持っている。他人に閉じ込められたまま、流されるままに何かを終えるくらいなら傷を負ってでも勝機をつかみますよ」
「ふ、まあそういう男だって言うことくらいは知っているさ。だからこそ理想としたし、ここで討ち果たす勝ちがある…」
「その意見には同意だな」
その時、突然第三者からの声が掛けられた。
「誰だ!」
アクアが叫ぶ。私はその方向へと視線を向けた。
「強者は屈しない。自らの意思で力で何に変えても突き進む。そしてだからこそ討ち果たす価値がある…そしてその理想を体現するものこそが王者!」
そこに居たのはこのサーバーで最強の男
「王者のデュエルは常にエンターテインメントでなければならない。さあ、我を打ち取って見せよ!挑戦者たちよ!!」
師子王グラウガ―がロールプレイをしながらノリノリでやってきたのだった…
アクア…普段はクールなキャラを演じているが戦いになると熱くなるタイプ
ジン…VR関連のトラウマでいつもローテンションで真面目な反応
グラウガ―…よくわからないけど面白そうだからノリノリでロールプレイ