オープニングイベント -最終ラウンド-
「進化…」
「そう進化だ!このゲーム[ブレイブカード]にはいくつかの組み合わせをすることで条件を満たし特殊な進化カードにカードを変化させることができるのさ!フレアバハムートの条件はバハムートに炎属性の強化魔法を使うことだ」
俺は律儀に理由を説明する。これはお約束みたいなものだ効果のわからない状態で展開が進むなんていやがらせのようなものでしかない。立派なデュエリストならしっかりと効果説明まで行うものだ。
「ふ、この圧倒的な攻撃力の前になすすべもなくやられるがいい」
(つまりはこ、攻撃力10000だと~!!といわれるモンスターが現れたみたいなもんだな。進化したことで召喚時間もリセットされているし、負ける要素がない。…あれこれフラグじゃね?)
ふと考えながらも俺はそれを打ち消す。
(ま、そんなことはどうでもいい。今は全力でユーリを潰すだけだ!!)
俺はフレアバハムートの力を解き放った。
☆☆☆
「ふ、この圧倒的な攻撃力の前になすすべもなくやられるがいい」
その言葉と共に周囲の熱量が瞬間的に高くなる。危険を感じ咄嗟に体を動かすとそこには小さな太陽が大量に発生していた。
「サテライトフレア!!」
「…!!」
独立した炎球が意思を持つように襲い掛かってくる。私は体を捻ることでそれらを回避した。時に槍を使い、時に飛ぶように炎球の攻撃を必死に躱していく。
「む…!!」
そして着地した場所の地面が突然赤く燃え上がる。そこから飛び出した炎の柱によって私はダメージを受けてしまった。
(手札が一枚削られた…あの時手札を回復していなければ私の負けだった…。…強い。…確かに今のままの私では勝てない…)
そう考え私は自身の手札に目を向ける。
<M-氷魔反転鏡…攻撃を反射する鏡を作り出す魔法。身だしなみチェックにも使えるぞ>
<C-アイスラビット…氷でできた兎。うさぎさんはねさびしいと倒れちゃんだよ?>
<I-ヒドゥンミスト…自身の姿を隠すと同時に一定時間攻撃をすり抜ける(ただしこちらからも攻撃できない)。透明化…だとこれを使えば…(文章がここで途切れている)>
<M-アイスアーツ…手に持った武器。召喚したモンスターに氷属性を付与する魔法。これさえあれば冷凍庫がいらないね>
(あとはあと少し召喚時間が残っているアイスバードとアイスアローの二つ。これであのフレアバハムートを倒さなくてはならない…)
ちらりとバハムートではなく彼の方に目を向ける。今もなおウルフに乗っており、バハムートを倒さずに彼に攻撃を当てることは難しい。
(どうする!?ダメだ…考えがまとまらない…一旦距離を置くべきかも)
私はそう考え、上空に退避させていたアイスバードを呼ぼうとする。だがそれより先にフレアバハムートの炎が森林を焼き始めた。そして炎がこの空間を囲み闘技場のような場を作り出す。
「これは…!!」
「そう、フィールドトラップ炎化の闘技場だ!!これが正真正銘の炎化の闘技場の使い方だ!!逃がしはしないぜ!!」
炎によりフィールドが限られた。時間を稼ぎ手を考えることはもうできない。
(なら…一か八かやるしかない!!)
フレアバハムートの口から巨大な炎球が飛び出す。私はアイスアローを放ち可能な限り攻撃を逸らそうとしながら駆け抜ける。
「アイスアローじゃ止められない!!」
絶対的な絶望の状態…だがそれを見て私はある可能性を思い付いた。あれならいけるかもしれない…
私はその作戦を実行するために動き出した…。
☆☆☆
「バード!!」
ユーリは攻撃を必死に躱しながらアイスバードに飛び乗った。だがそれは俺の予想通りだ、このフレアバハムートの攻撃を躱すためには機動力の高い足が必要になる。例え召喚時間が切れかかっていてもそれに頼るしかないのは読めていた。
(恐らく彼女のデッキはスターターデッキ[氷層の守護者]…そのままのデッキだ。氷層の守護者はスターターデッキのためメタカードや強力な破壊カードは入っていない。つまり俺のフレアバハムートを破壊することは困難だ。彼女が出せるとしてもいいとこスペシャルのアイスゴーレムくらいなもの、だが同じスペシャルでも炎属性進化体のフレアバハムートを倒すことはできない…さてどう来る?)
ユーリの動向を見逃さぬようにしっかりと見つめ続ける。彼女はアイスバードの機動力を使いこちらに突撃してきた。
「アイスバードの機動力を利用してフレアバハムートを抜き、俺を直接攻撃するつもりか!!だが…甘い!!フレア…ボイス!!」
フレアバハムートの口から巨大な炎球がユーリに放たれる。
「これなら躱せまい!!」
だがユーリはそのまま躱そうとせずにこちらに突撃を続けていた。
(な!!躱さない!!何をする気だ!!あのデッキには…そうか氷魔反転鏡!!攻撃を弾き返してフレアバハムートを倒す気か!!)
「私の盾よ燃え盛る炎を弾き返せ氷魔反転鏡!!」
「く、させるかよ!!フレアバハムート!!もう一度フレアボイスだ!!」
ユーリと俺は同時に言葉を放つ。戻ってくる炎球はまさにユーリの壁となるようにその姿を隠しこちらへと向かってくる。俺は2発目のフレアボイスが完成するのを待ちわびながら状況を見守った。
そして何とか間に合ったフレアボイスが跳ね返った炎球を防ぐ爆風が広がる中俺は笑った。
「惜しかったな~だがここまでだ!!」
だが俺の勝ち誇った気持ちは続かなかった。爆風が収まる中一人の氷の槍を持った女が氷の鳥に乗りながら飛び出してきたからだ。
「な!!」
「これで…終わり!!」
彼女はそのままフレアバハムートの口を貫きこちらに迫ってきた…。
☆☆☆
フレアバハムートが消える姿を俺は唖然と見つめる。だがぼんやりとしている猶予はないユーリは今もなおこちらに向かい続けていた。
「まずい、ウルフ!!」
俺はウルフから飛び降り、ウルフを足止めへと向かわせる。残りの召喚時間を考えればそれが一番効率が良かったからだ。
そしていざと言うときのための準備を始める。その準備が終わったちょうどその時アイスバードを失い自分の脚で歩いてきたユーリはついに俺の目の前に立っていた…。
☆☆☆
「まさかフレアバハムートが倒されるとはな…教えてくれよどうやったんだ?」
俺は素直な疑問をユーリに投げかける。
「単純なこと…あなたのマネをしただけ」
「俺のマネ?」
「そう」
そして彼女はどんな手を使ったのかを語り始めた…。
フレアボイスを見た私はそれを利用することを考え付いた。少し前に彼が自分の仕掛けた落とし穴によってダメージを受けたことを思い出し、そして自分の手札に氷魔反転鏡があったからだ。
…だがそれだけでは彼を倒すことができない。そんな単発発動のカード使いではきっと対処されてしまう…しっかりとしたコンボを考える必要があった、そこで私が参考にしたのは彼が使ったアルカナフレアを利用した入れ替わりのコンボだ。
倒したと思った瞬間…防いだと思った瞬間人は無防備になる。彼のように必殺の手札である炎球の跳ね返しすらも利用し隙を作り出す…そう考えた時私の作戦は決まった。
アイスバードに突撃を命じ、まずフレアボイスを引き出したのだ。そして最初の想定通り氷魔反転鏡を利用し炎球を跳ね返す…それと同時に私はヒドゥンミストを発動したのだ。ヒドゥンミストは姿を消しなおかつ攻撃を受けない無敵状態を作れる…こちらからも攻撃できなくなるがそれは関係ない。ヒドゥンミストを使った私はそれを自身とアイスバードに使い炎球の中に隠れるように進んだのだ。おそらく彼は炎球の後ろにいると考える…故に隙が生まれると判断した。結果は想定通り。二つの炎球がぶつかり起こる爆風の中私はまっすぐ進みヒドゥンミストを解き、アイスアーツをかけた槍でフレアバハムートを貫いたのだ
そう全てを説明された俺はフレアバハムートが倒された理由を理解した。まったくこんなやり方で倒されるとは想像していなかったカードバトルは奥が深い…。俺の手札はゼロ相手は一枚…そしてほとんど距離の無い状況では俺の勝ち筋はもうないだろう…だが…。
「最後の1ドローまで諦めないのがデュエリストの神髄だ。悪あがきをさせてもらうぜ!!」
そうして俺は手を引くようにして光の板を…カードを取り出そうとする。
「ドロー!!なぜ!?」
「ユーリが来る前に最短の無指定演唱を終わらせていたのさ!!たった一枚のカードで全てが変わる…今見せてやるぜ俺のデステニードロー!!」
驚くユーリの前で俺は手を引き抜いたそして手札を確認する。俺のカードは…
<C-スライム…最弱のモンスター。プルプル、プルプルプル>
「す、スライム~!!」
俺は思わず叫んでしまった。ユーリはふと我に返りそしてプと吹き出し笑いながら槍で俺を攻撃してきた。
「楽しかった…じゃあ…またね!」
そうしてダイレクトアタックを喰らい…俺は負けた。
ユーリと俺の戦いは一勝一敗一引き分け。初めに引き分けて…勝負に勝って戦いに負けた。正直決着がつかなかったのは悲しいだがそれ以上に俺はカードゲームが好きな子が増えてうれしかった。
今日ここに新たなデュエリストが生まれたのだ
おしまい