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迷路に・・
「ふうむ・・」
「佐川さんは、途端に一切口を閉ざされましたので、俺もそれ以上の事は全く聞けませんでした。でも、毎年非常に難レースと言われる1000キロGCレースに、そんなハンディを背負わせる必要が黒竜号にあるのでしょうか・・俺が感じた事なんです」
「・・・・」
矢内にもその考えは分からなかった。
佐野の思いは、矢内にも伝わった。それは、鳩を愛する立場の者だけが感じる共通の思いである。
「私、今から佐川さんの家に行って見ようと思う」
佐野は少しほっとした表情を浮かべた。
自分の事のように他人の鳩を思える人物。それは、鳩だけでは無く他人をも思いやれる人物なのだ。そう言う矢内に、
「矢内さん、隻竜号、見違えましたね。昨年とは別の鳩のようです。勿論昨年も注目を浴びる鳩でしたが、何か品格・・オーラを感じます」




