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序章・・
数日経って、矢内が1ヶ月余ぶりに出社している。
「よお!治ったのか、アル中」
同僚が冷やかす。何言ってやがる・・元はと言えば、接待で成り立つこの業界に、指定席のように自分を指名していたせいで、体調を崩したんじゃないか。しかし、それも自己管理能力の欠如と責められても仕方が無い事だ。矢内は言葉を返す。
「はは・・アル中寸前までは行ったけどな」
矢内は、平凡で取り柄とて無い男だが、社内での付き合いも悪い方では無かった。
「おう、矢内、ちょっとこっち来てくれ」
課長の新林が、濃い眉毛をぴくぴくさせながら、矢内を呼んだ。
打ち合わせ室に通されて、新林と、矢内が向かい合った。
「退院おめでとう」
「ご迷惑をお掛けしました。これからは健康に留意し、仕事も頑張りますので、よろしくお願い致します」