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矢内健二と言う男
「なあ、矢内。お前、入社して何年になる?」
「大学を出てからですから・・丁度10年ですか・・」
「お前と同期で入社した藤岡も、岡崎も課長補佐になっている」
「はあ・・」
「でもな、お前は人が嫌がる業者の接待を率先してやり、社内での付き合いも良く、その為に体調を崩した」
「いえ・・自分の健康管理が至らぬせいです」
野田は、少し嘆息気味に言った。
「しかしな、そんな陰の努力なんて、会社はちっと認めてくれんのだよ。今、お前が言った通り、自分の健康管理も出来ない社員は、管理職には向かんと会社は烙印を押した。実際会社組織なんてそんなものさ。だからお前は、退院後すぐ資材部に配転され、リストラされようとした。長期病欠の者をいきなり当日からハードな部署だもんなあ・・」
何時もの野田とは、全く違う顔だった。
「でも、それは仕方無い事です。会社員としましては人事異動は絶対ですから」
「けど、矢内。お前は頑張ったよな。これまで接待役を勤めて来たせいか、配送先での受けも良い。それで、資材業務に代わって貰った」




