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一目惚れ
「え・・ええ。そう言う事になりますか・・」
「それなら、直接矢内さんが、この鳩を手に取り、選ばれる事です。確かに鳩は言葉を発しません。けど、きっと答えてくれる筈です。眼を見なさいと主人は何時も言っています」
勘の鋭い香織は、矢内の迷っている心情を一瞬で看破した。そして何故6羽にしたか、敦美さんのその心情も察したのだ。飼い主である、矢内が自ら選び出す事に意義がある。何故なら、鳩は生き物であって、道具では無いからだ。香月一男あって、香織と言う存在がある。やはりそう言う感性の持ち主であった。
矢内は一羽、一羽大事そうに手に取り、そして4羽を選び出した。
日下部夫妻、香織が微笑んだ。この気持ちこそが、動物を飼うと言う心構えなのである。
「矢内さん、今日からこの4羽が貴方の家族です。大事にしてやって下さい」
「はい、日下部さん、香月さん。有難う御座いました。やはり自分が飼う鳩を最後に選べて良かったです。大事にします」
矢内にとって決して安い買い物では無かったが、動物を飼うと言う不文律を日下部氏、香織に自然と教えて貰ったのだった。




