第3話 吹雪はやまぬ
この世界には果てが存在する。それは例えや比喩などではなく物理的に存在するのだ。世界の果てには夜空のように真っ暗な世界が広がっており、そこから先には見えない壁のようなものに塞がれ進むことができなくなっていた。
そして北の方角に位置する世界の果ての近くには世界最北の都市『ノーデンメーヴェ』があった。だが、今この街は平静を失おうとしていた。
ノーデンメーヴェ中央には大きな城があった。城の城壁には城壁等が四つ角に配置され城への唯一の進入手段である城の正門は固く閉ざされていた。城壁等のてっぺんから突き立てられている『リーゼ王国』の国旗は吹雪に吹かれて激しく揺れていた。城は周りの民家よりもはるかに大きくその城の大きさは王国の権威の強さを象徴するかのようであった。
城の執務室に一人の男が座っていた。その男は不機嫌そうに足を組み机を人差し指でカツカツ鳴らしていた。その男の背後にある窓の外では吹雪が吹いており部屋の壁に備え付けられた暖炉がなくては寒さで耐えられないようなほどの気温であった。
(来て早々なんでこんなことが起きるんだ。まったく)
その男の名はズィープト・リーゼといった。彼はリーゼ王国の王エインス・リーゼの9人いる息子の内の一人であり王国の第7王子であった。
ズィープトは2日前にこの都市に赴任してきたばかりであった。本来ならばノーデンメーヴェのような辺境の都市に王子が赴任するなどということは本来ありえない話だったが今回ばかりは違った。ズィープトはまだ齢18歳であり統治経験もなく政治や経済は全くの素人であった。そんな彼に実績を作らせるという名目で今回この地に送られたのであった。しかし、ズィープトの素行は悪く女遊びや法で禁じられている賭博への関与、市民への乱暴狼藉などの王子にあるまじき行動をとっていた。そういった話は各地に広まっておりノーデンメーヴェの市民たちも第7王子赴任の報が入ったときあらゆる市民がズィープトを恐れていた。
そんな彼が一番今頭を悩ませる出来事が起きた。
第0番監獄が破壊されたことだ。監獄はこの城の地下に存在していた。また、監獄の存在自体も王族の物か一部の人間しか知らない事実であるため監獄の警備自体はとても薄くまた前任の領主の管理不足のために監獄のトラップ等も使用できなくなっており非常に手薄であった。
そんな中発生した監獄の破壊。監獄に降りるための道は城内のみに存在しており城に誰かが忍び込んだという形跡もなかった。また、監獄には少なからず警備兵がいたが全員が変わり果てた姿で見つかった。そしてもっとも恐るべき事態が起こった。監獄に収容されていたたった一人の囚人の姿が消えたことだ。調査によると囚人を収容していた地下牢に施されていた魔法は破壊されており破壊しつくされていた牢にはだれ一人いなかったという。
監獄の存在自体は非公式のものであるため市民や事情を知らない者たちへ知られないよう事件自体は一部の者のみで隠ぺいすることには成功した。だが、囚人が放たれてしまったことはどうしようもなかった。
(クソっ!なんで俺がこんな面倒なことに巻き込まれなきゃならねぇんだ!たかが1人の囚人ぐらいさっさと殺しておけばよかったんだよ!)
ズィープトは知らなかった。第0番監獄の存在自体は知っていた。だがそれが何のために作られ誰が収容されていたのかを彼は知らなかった。
10年前に突然現れた魔王を討伐した男が居た。
神の子と崇め奉られ王国の希望として魔王と戦った男が居た。
そして、その力を恐れられ第0番監獄という地下牢で10年間過ごした男が居た。
その男の名はリヒト・フェーブス。勇者である。
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