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第2話 繋がれた剣

 「久しぶりだね。会いたかったよ。リヒト」


 ある一つの牢の前でフルは言った。鉄格子を挟んだ向こう側に居るのは両手を鎖で吊るされ足を拘束され身動きのとることができない状態の男がいた。身体はやせ細りあばら骨や肋骨の形がわかるぐらいであった。


 「その声は……フル・ズィルバー……」


 男はとても弱々しい声で顔を上げながら言った。だがその顔に生気はなく痩せこけた顔から浮き出る頬骨が弱々しさを強調していた。そしてなにより、彼は目を開いていなかった。否、開くことができなかった。


 「リヒト。眼を、つぶされた?」


 外見からでは目を瞑っているようにしか見えないが、眼をつぶす方法はいくらでも存在する。まして物理的手段に頼らずとも眼はつぶせるのだ。瞼のしたの眼球はもう機能しないのだろう。


 「ここに入れられたときやられたよ。まず最初に足を潰された。次に腕を潰された。次に眼を潰された。最後に力を潰された」


 リヒトの体をよく見るとそこには数々の生々しい痕跡があった。両足首には何かで貫かれたような痕があり手首にも同じような痕が存在していた。腕には鉄板で焼かれたような痕が無数に存在していた。


 「リヒト、時間がない。早くここを出よう」


 フルはリヒトにそう言ったがリヒトは反応示さない。


 「リヒト!こんなところに居ちゃだめだ!このままでは……君が死んでしまう!」


 フルは懸命に訴えるがリヒトは何も聞こえないかのようにだんまりを決め込んでいた。


 「リヒト!」


 「フル……ここから出てどうするんだ。俺は10年もこの牢屋に入れられていたんだ。今更外に未練なんてない。今外に出て何が変わる。俺たちの守った人々や街や世界はとても素晴らしい物になっただろう。平和な世界に今更戦いの象徴なんて不要だ。平和な世界に英雄も救世主も勇者も要らない。俺達は、不要なんだ」


 「リヒト。それは君が今の世界を知らないからそう言えるだけだ」


 フルは指でメガネのブリッジを上げると言った。


 「この世界は確かに平和になった。戦争なんてものはないし、魔物なんてものはいないし、魔王だっていない。あるのはせいぜい小さな犯罪だけだ。でも、それでも私は満足できない。私はここに来るまでに何度も何度も戦ってきた。王国の人間は私達8人を英雄のまま殺す気だ。王国からの追手を殺して殺して殺して殺してようやくここまで来た。最初は抵抗があったよ。相手は人間だ。でもね、もうそれも慣れてしまったよ。人間を無感情で殺せる化け物になってしまったんだ。私をこんな風にしたのはこの平和だよ。この平和を作り上げたせいで私の平和は奪われた。私の時間を奪われた。私の平和を奪ったのは紛れもないこの世界だよ。たった8人。たった8人の人間の平和を奪った世界を君はまだ平和な世界だと言えるのか」


 フルの頬を伝っていく雫が見えた。


 「だから、だからお願いします。私を、私を助けてください……私の平和を奪った世界から私を……助けてください」


 フルは涙を流していた。偽りのない涙を。真実を伝える涙を。


 「フル、檻と鎖を壊せ」


 その言葉を聞いた時、フルの涙は止まった。

 すでにフルも体中がボロボロであったが魔法を使用しリヒトを牢から解放した。


 「っ!?」


 リヒトは拘束具が外れたことで腕を地面についたが全身に痛みが走った。


 「待ってリヒト、今治す」


 フルは体を引きずるようにしてリヒトのそばまで駆け寄るとリヒトの体を仰向けにし残りの魔力をすべて振り絞りリヒトに治癒を施した。フルは体力を消耗しており治癒中も息が上がっており苦しさを感じていたがそれでもやめることはなかった。リヒトの傷はみるみる消えていき体中の低下した筋力なども回復していた。そして、リヒトの眼も再生された。


 「久しぶりに瞼を開いた」


 リヒトが最初に見たのは真っ黒な天井だった。

 

 「りひ、と、なおっ……た、よ……」


 リヒトの横に居たフルはいつの間にか倒れておりその顔はとても赤く息遣いも激しくなっており意識も朦朧としているようだった。


 リヒトは倒れているフルを背中に担ぐとフルによって破壊された牢屋の入り口に向かって歩いた。 


 「俺は、お前を助ける気はない」


 フルの意識は朦朧としており本人に聞こえているかどうかすらわからなかった。


 「だが、俺達の作った平和がそんな物になったのならそれを壊すのも俺たちの責任だ」





 勇者は動き出す。平和を壊すべく。世界を壊すべく。  

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