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 キス。といっても頬っぺたに交互にチュッチュッという感じにされただけだ。

 何せそんな文化なんて無いものだから顔を真っ赤にして身動きが取れなくなった。それは友人も同じで固まっていた。


「あ!ごめん!つい癖で!」


「あ、あ、うん、うん」


講義の前半、ペンを動かす事がうまくいかず頭の中は隣の美女のことだけ。それにしても美女は何も気にしていないようだ。

 講義のあと聞いてみると、美女はスパニッシュ系のハーフとのことであった。そりゃ美女な訳だ。そして色々話すと彼女は三カ国語も話せるとのこと。そんな頭を持った人がなぜこんな底辺大学に来ているのだろうか疑問だったがそんなことを聞くのは余計なお世話だろうと黙りした。



「あー、びっくりした」


「俺も驚いたよ。やっぱあの薬効いてんな」


「そうなんかな」


「そうでしょ、マウストゥーマウスじゃなくて頬っぺたでも凄いでしょ。あの美女だったら」


「まあ一生に一度きりだな。この薬の効き目もいつ切れるかわからないし」


「なんか説明書みたいのなかったの?」


「特に詳しいことが書いてる紙がなかった。なんか、四カ条的なものしか」


「なにそれ?」


「飲めばよし。毒は無し。即効性は無し。時を待て。って四つ」


「それ説明なの?」


「それしか書いてないんだもん」


 それから僕らは違う講義に向かうべく、別れた。


 それからだった。毎日あの美女はあの講義になると僕の隣に座って授業を受け始めた。そして毎日ペンを借りる。そして抗議終わりにペンを返す。

 こんなに毎日ペンを借りてくるということは単純に考えると筆箱を持ち歩いていないんだろう。あの子だって他の講義があるはずだし、必要になるはず。毎回いろんな人に借りているのだろうか。


自分が入っているサークルの飲み会でみんなに聞いてみた。


「最近さ、俺のペンを毎日借りてくる美女がいるんだけどお前らの講義とかでそんな美女いる?」


「ペンてそれは比喩表現ですか?下の方のペンですか?」


「アホか、ボールペン。お前らいる?」


「いない」


「いない」


「いない」


「いない」


 他の奴らの講義にはあの美女は現れないらしい。一応去年のミスコンだとも言ってみたが、そんなやついれば俺らが見逃すわけないと断言された。それには納得した。

 たったそれだけでこの話は流れた。




 そして、かれこれもう一ヶ月半はペンを貸している状態が続いた。流石にもう探究心が我慢しきれず聞いてみることにした。


 講義が終わり美女に話しかける。


「あのさ、これから時間ある?」


「うん、あるよ。デートのお誘い?」

 

「え?違うよ、話がしたくて」


 僕は鼻を掻きながら言った。


「デートじゃないんだ。つまんないの、じゃあ私時間ない」


「え?」


 美女はノートをトートバックにしまって髪を書き上げて席を立った。講義室の後ろの扉に向かってスタスタ行ってしまう。


「ちょっと待ってって!」


 僕も美女の後を追い、講義室の外で腕を掴んだ。


「何?私時間ないんだけど」


「あーもう。デートしよう!」


「そうこなくっちゃ!」


 美女は鼻で笑って、腕を振りほどき僕の手を掴んで廊下を闊歩をし始めた。


「ちょ、ちょっと、どこいくのさ!これから次の講義が...」


「デートと講義、どっちがいいの!?」


「え、あー、んー、デートかな?」


 コメカミを掻き、視線を四方八方に飛ばしながらいうと。


「じゃあ何も悩むことはないじゃない!さ、行きましょ!買い物付き合って!」


「え!あー!」


 僕等は大学を出てそのまま電車に乗って昼の繁華街に出た。

 僕は言われるがままに美女の後をついて行きショッピングに付き合った。美女というだけあってか、付き合いのショッピングなのにすごい楽しくてしょうがなく、終始二人とも笑っていた。時たま、店員さんに、彼氏さんですか?などの質問をされたが、美女がすかさず首を横に振る。事実は事実だが少しだけ笑顔が苦笑いになったりした。


「一休みしよっか!」


 美女のその一言でやっとインターバルが入った。

 近くにあったカフェに入って腰を下ろす。僕は冷たいフラペチーノ。美女は暖かいカフェラテだった。


「暑くないの?」


「うん、私いつでも温かいのを飲むの」


「そうなんだ。冷たいのは嫌い?」


「そういうわけじゃないけど、温かい方が好きかな、冷たいの頭痛くなるし」


「それは飲み方じゃない?」


「そうね!せっかちなのかも!」


「たしかに」


 そう言って二人して笑った。そしてやっと僕が聞きたかったことが聞ける。


「あのさ、筆箱持ってないの?」


「あー、ごめんね。いつも借りてて、一応持ってはいるよ」


「持ってんの?」


「うん、ほら」


 と言ってトートバッグから細い長い形をした布の筆箱が出てきた。


「あるのになんで?」


「単純に出すのが面倒臭いだけ」


 美女は照れ笑いを浮かべた。


「私さ、いつもギリギリにくるじゃない?しかもあの講義一限だし。私朝が苦手で余裕持ってこれないのよ。しかも走ってくるから筆箱がバッグのしたの方に行っちゃって取りにくいの。そんな時に貴方はいつも余裕で来て友人と話し、ノートと筆箱を出してる。しかもそういう用意してるのって貴方ぐらいなんだもん。だから私は貴方の隣を選んでペンをいつも借りてるの。わかった?」


 余りにくだらない理由で唖然としてしまった。


「それにね、私ここの大学生じゃないの」


「え?だって去年のミスコンじゃ?」


「そう、去年まではここに通ってたんだけどね。お金なくなっちゃって通うことできなくて。それでも行きたくて無断で講義出てるの。それにギリギリにきて講義室で慌てて準備すると不振に思われるから借りてた」


納得が行くわけではなかったが、了解はできた気がする。それでもその論理はどうかと思った。

それでも彼女はこの大学に通いたいと切望している。この大学にそんなに魅力があるのだろうか。


「忍び込んで講義を受けるのなら別にこの大学じゃなくてもいいんじゃないの?他の有名大学でも構わないはずじゃ?」


 そういうとトートバッグから一冊の文庫本を取り出しテーブルに置いた。くるっと回し僕に見せて来た。


「この本がきっかけ」


 その文庫本をまじまじと眺めると見覚えのある名前が書かれていた。


「これって」


「そう、あの教授の名前」


 僕が不思議そうな顔をしながら文庫本を眺めていると美女はそのまま続けた。


「この本は別に特別売れたわけでもないし、教授が有名なわけでもない。教授もこの一冊しか書いてない。でもね、私この本を読んだらなんだか気に入っちゃってさ、作者を調べたらこの大学で教授してるっていうから来たの。本当は他の大学から来てくれとか言われてたんだけどね。でも私はどうしてもここに来たかった」


「他の大学っていうと?」


「そんなのどうでもいいじゃない。私はこの教授の授業を受けたかったの」


「そんなに好きなのにいつもギリギリにくるんだね」


「好きだからギリギリ間に合うんじゃない、他の講義とか大学だったら間に合わない」


 僕はぷっと笑った。彼女もそれに連れられて笑った。


「じゃあさ、こんな底辺大学退屈じゃないの?」


「今はあの講義しか出てないから楽しいかな。前は退屈でしょうがなかった。周りもなんか私と合わなかったし」


 だろうな。アホっぽい女がわんさかいるもんなこの大学。


 それから美女とお喋りを楽しんでいたら、日が落ちて来た。美女は唐突に暗くなったから帰ると言い始めた。まだいいじゃんデートしようよと言うが、今日の講義内容まとめるからまた今度ねとあっさり断れた。僕と一緒に過ごすのが嫌だからではなく、正直に教授の授業が好きでたまらないのだろう。



また次の日も、同じように講義にきて、僕のペンを借りて、また次の日も、また次の日も。毎日の日課になった。

 いつの間にか一緒にデートに行ったり、飲みに行ったりするようにもなっていた。

 たまに体調を崩して講義に出れない時は美女の家まで行って自分のノートをコピーしたものを郵便受けに入れておくこともしていた。

 そんな風に毎日毎日一緒に過ごしていた。日常生活の一部のようになっていた。


 そんなある時だ。

 二人して飲みすぎてしまってヘロヘロ状態。店を出た後も大きな笑い声で、絶えず二人だけで騒がしかった。


「あ!しゅーでん逃したー、やべーどーしよ」


 僕はスマホを眺めながら呑気な口調をで言った。


「もうそんな時間だっけ?まだ私電車あるからうちくる?明日休みだし」


「え!まじ?いっていいのー?」


「あったりまえよー、行きましょー。また帰りにコンビニで酒買ってかえろー」


 ふらふらになりながら電車に乗り込み美女を座らせて僕は立っていた。最寄り駅まで約10分。美女は二分もしないうちに寝息を立て始めた。


「あーねちゃったかー」


 僕は頭に手を乗せて優しく撫でてみた。

 美女は反応することなくねている。なんだか可愛く感じてきた。そのままぼーっと眺めているとゆっくりと最寄り駅についた。


「ついたぞー。おーきろー」


 ふらふらしている腕で美女の肩をゆすぶる。


「お!おけー、行きましょー!」


 そう言うと美女は僕の手を掴んで急いで電車から飛び出した。


「あぶねーよー!」


「ははは!はやくいこ!改札まで競争だ!」


 美女は唐突に走り出した。僕も負けじと背中を追いかける。

 人もそんなにいない駅をかけていき、階段もその勢いのまま駆け登る。


「やったーわたしのかちー!お酒はおごりね!」


「えー!そんなんきいてねぇーし!」


「いまいった!ね!」


「ったーよ、かったるよ、じゃあどっちがコンビニに速くつくか!競争だ!」


 そういってまた僕は近くのコンビニまで走って行く。


「あー!ずるーい!」


 僕は美女を置いて走り出し、美女は笑いながら僕の後を追いかけてくる。

 コンビニで酒も買って、少し長い帰路を何回か競争を繰り返して美女の家についた。マンションの一室が美女の家。美女はエレベーターを使わず階段を登り始めたのでそれについて行く。

美女は鍵を差し込み、がちゃっ、という音を合図にドアを開ける。靴は脱ぎ捨てふらふら壁に支えられたりしながら部屋の奥に入って行く。僕もその後をついて行く。


「ようこそ!私の部屋へー!」


そういって振り返った美女を僕はベットに押し倒した。

僕の右膝はベットに侵入して左足は遅れをとっていた。美女は、膝から上はベットの上であった。僕の両手は美女の顔の両側にあった。

美女は僕の目を見てからふーと言って目を閉じた。僕は考えようとしたが本能はそうさせなかった。美女の顔が近づき視界いっぱいに入ろうとする時、僕も目を閉じて唇にキスをした。

そっと顔を離しても腕がベットに落ち着いているせいで表情は伺えなかった。ぼやーと美女の顔が伺える。そしてまた視界いっぱいに美女の顔を映し目を閉じる。舌が絡んだ。美女が僕の頭に手を回すと舌の動きは強くなる。空間と真空が生まれ、ついたりはなれたりを繰り返す。また視界に美女が戻る。僕が一方的に項に続く道を回り道をしながら舌が伝っていく。いつの間にか柔らかい耳たぶを口の中に感じ、美女の声がもれ始め、僕の感情も完璧にもれ始めた。

部屋の明るさに違和感を感じた僕は明かりを消した。






具体的な記憶は曖昧なまま朝を迎えた。お互い驚くこともなく気持ちいい朝を迎えた。僕がまた身体を抱き寄せると美女は「まだ。まだだって」と言葉だけを僕に投げかけた。何と無く納得してしまって腕の動きを止めた。美女はベットから起き上がり、Tシャツだけきてキッチンに向かって行った。

オレンジジュースを二つ注いできて、寝そべっている僕にコップを渡した。たちまち起き上がる。美女はベットの淵にちょこんと座ってオレンジジュースを飲み始めた。ベットに沈むお尻が視界に入ってオレンジジュースを飲みながら、少し凝視。美女からの一言で視線が美女の後ろ姿に移る。


「ねぇ」


「ん?」


「好き」


「!?」


思わずオレンジジュースを吹き出してしまった。その音に驚いた美女が振り向き笑い始めた。ベットにオレンジ色が少し染み付いてしまったことも気にしないで笑っている。


「ちょっとー!待ってて」


美女はキッチンから台拭きを持ってきてオレンジの染みを拭う。


「で、どうする?」


「うん、もちろん、僕も好きだよ」



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