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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第52話 家族の食卓

 食堂に、四人分の食器が並んでいた。


 ピリカはその光景を見て、一瞬だけ足が止まった。——四人分。自分の席がある。当たり前のことなのに、胸の奥がきゅっと締まった。


「ピリカ、こっちよ」


 母が椅子を引いた。いつもの席。窓際の、いつもの場所。


 座った。テーブルの高さも、椅子の座り心地も、覚えていた。



 料理が運ばれてきた。ローザが給仕をしている。目の周りがまだ少し赤いが、手つきはいつも通り完璧だった。


 温かいスープの匂いが立ち昇った。パンが切り分けられ、肉が盛り付けられた。


 ——久しぶりの、家の味だ。


「いただきます」


 四人の声が揃った。



「だいたい俺は最初から反対だったんだ」


 アーサーがフォークを置いた。


「すぐにでも連れ戻せばよかった」


「だが、それでは魔法大会で勝てないと、グリモワルド様と相談して——」


「それはたしかにそうだったかも」


 ピリカがスープを一口飲んでから言った。


「半ば現実逃避みたいに訓練に没頭して、それでも運が味方してギリギリの引き分けだったし」


「それでもだ!」


 アーサーの声が大きくなった。父が咳払いをした。アーサーは少しだけ声を落としたが、目の真剣さは変わらなかった。


「妹が一人で、あんな——」


「でもあれで優勝したおかげで、ピリカの立場もだいぶ変わるわよね」


 母が穏やかに言った。アーサーの言葉を遮るでもなく、自然に流れを変えた。


「退学の取り消しもあったし」


 ピリカの手が止まった。スプーンがスープ皿の中で傾いた。


「……退学の、取り消し……?」


「ああ。ん?——グリモワルド様から聞いていないのか」


 父がグラスを置いた。少し驚いた顔をしていた。


「何も……聞いてないです」


「そうか。昨日、当家にも学園から正式な知らせが届いた。——お前の退学は、撤回されたそうだ」


「魔法大会の後、学園の中でもしばらく議論になったらしい。ファイアボールの試験で不合格だった以上、落第のままだという声と——魔法大会で優勝した実績があるのだから、落第を撤回すべきだという声に分かれたそうだ」


「……」


「最終的には、ボルトラン様が動いてくださった」


 父がナプキンで口元を拭った。


「ボルトラン様はこう仰ったそうだ。——"あの試験は、魔力量が少ない生徒を退学にするためのものではない。魔法を使えない生徒を退学にするための試験だ。ならば、無詠唱の爆裂魔法を使えるあの娘は、十分にあの学校にいる資格があるだろう"と」


「……ボルトラン様が……」


「それだけではない。"魔法大会の優勝者を退学にするのは、学園に見る目がなかったと喧伝するようなものだ"とも。——学園側も、それには頷くしかなかったようだな」


 ピリカは黙って聞いていた。手が、小さく震えていた。


「そして、ボルトラン様、グリモワルド様、宮廷魔法使いの首席と次席が連名で、退学に反対したそうだ」


「……お師匠様、も……?」


 ピリカの声が掠れた。


「ああ。——お前は、もう学園に戻れる。もっとも、戻るかどうかはお前が決めることだが」



 食卓が、静かになった。


 ピリカはスプーンを置いて、膝の上で拳を握った。


 ——退学が、取り消し。


 ——あの日、「不合格」と言い渡されて、訓練場を出た。振り返らなかった。誰にも見られないように、壁に手をついて、泣くのをこらえた。


 ——それが、なくなった。


「……ファイアボールは、まだ撃てないんですけどね」


 ピリカは少し笑った。目尻に、光るものがあった。


「撃てずとも、お前はもう十二分に証明した」


 父が、静かに言った。


「……ありがとうございます。ボルトラン様と、お師匠様にも。お礼を言わないと」


 母がピリカの肩にそっと手を置いた。アーサーは黙って、パンをちぎっていた。——目元が、少し赤かった。



 ひとしきり話した。


 魔法大会のこと。グリモワルド様の家での暮らしのこと。アリサという妹弟子ができたこと。魔術というものの面白さ。訓練の日々。


 話は尽きなかった。何年分もの空白を埋めるように、ピリカは話し、家族は聞いた。



「そういえば」


 母がふと、フォークを止めた。


「ピリカ、この家には帰ってくるの?」


 食卓が、一瞬だけ静かになった。


 ピリカは父を見た。父もピリカを見た。目が合った。


「——やめておいた方がいいだろう」

「——やめておいた方がいいと思う」


 同時だった。


 母が目を丸くした。アーサーもフォークを止めた。


 父がピリカに目で促した。——お前から話せ、という顔だった。


「一応この間、計測もしたんだけど……私の魔力量が増えて勝ったわけじゃないの。戻ってきても、結局迷惑をかけることになる」


「同様の理由で、貴族の中にいてはピリカの幸せにも繋がらんだろう」


 父が静かに続けた。


「やっぱりそうかぁ……」


 母の声が、少しだけ小さくなった。


「寂しいわね」


「それでもたまには来るだろ?」


 アーサーがピリカを見た。


「それはもちろん!」


 ピリカが即答した。迷いなく、はっきりと。


 母の顔がぱっと明るくなった。


「本当に? いつでも?」


「いつでも!」


「まぁ! じゃあ次はいつ来るの? 来週? 再来週?」


「お、お母様、まだ今日も終わってないですけど……」


「そんなの関係ないわよ! ね、次の予定は——」


 父が小さくため息をついた。でも、口元が緩んでいた。


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