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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第35話 遠心分離

「もしかして、ミルク苦手?」


 ピリカが覗き込んだ。アリサの顔が、わずかに赤くなった。


「……すみません。ミルクでお腹がごろごろする体質でして……」


「ほう、それは悪いことをした」


 グリモワルドが言った。——次の瞬間、アリサのコップから褐色の液体が浮き上がった。


 ミルクとコーヒーの混合液が、空中で球体になる。


 球体が回り始めた。——速い。どんどん速くなる。


 超高速回転。球体の中で、白と茶色が分離していく。遠心力で重さの違う液体が分かれている——外側に褐色のコーヒー、内側に白いミルク。


 数秒で、完全に二層に分かれた。



 グリモワルドが片手を動かした。外側の褐色の殻がするりと剥がれて、横で別の球体になる。内側の白いミルクはそのまま宙に浮いている。


 ——ミルクの球が、グリモワルドのコップ、コーヒーの球が、アリサのコップに戻ろうとして——


 止まった。


 グリモワルドが、いたずらを思いついたようなニヤリとした顔をしている。


 ——ミルクもコーヒーも、両方まとめて、結局アリサのコップに戻した。



「ほれ、今の分離、やってみい」


「え!? えええ!?」


 アリサが目を見開いた。


 ピリカは内心で笑った。——お師匠様、アリサがどこまで出来るか、雑に試そうとしてるなぁ。


「大丈夫、なんか失敗してもお師匠様がなんとかしてくれるよ」


「で、でも、今の——」


「ええから、やってみい。わしの弟子になるんじゃろ?」



 アリサが、コップの前で手を構えた。


「風よ、下より支えて——」


 集中している。——コップの中の液体が、ゆっくりと浮き上がった。


 球体になる。——ここまでは良い。


 ——ふ、浮遊魔法を維持したまま……もう一つ。


 アリサの額に汗が滲んだ。


「風よ、巻け——」


 回転が始まった。速くなっていく。



 だが。


 回転がさらに加速した瞬間——球体が横に膨らんで、上下に潰れた。コマのように赤道が広がっていく。


 制御が外れた。


 コーヒーが飛び散った。


 ——褐色の飛沫が、四方八方に。壁に。天井に。棚に。床に向かって。


 アリサが息を呑んだ。顔が真っ青になっている。


「す、すみませ——」



 グリモワルドが、片手を上げた。


 全ての雫が、空中で静止した。


 壁に向かっていた飛沫も。天井に飛んでいた雫も。アリサの顔の横を通り過ぎようとしていた一滴も。——全て、ぴたりと止まっている。


 アリサは呆然と周りを見回した。大小無数の褐色の雫が、部屋中に浮かんでいる。宝石のように光を受けて、きらきらと揺れている。


「…………」



「かっか」


 グリモワルドが笑った。


「初めての見様見真似でそこまでとは、やはりかなり筋が良いのう。事象もよく観察しておる——コーヒーをぶちまけるのも、なかなか懐かしい光景じゃった」


「も、申し訳ありません……」


「わしがやらせたんじゃ、謝ることはないわい。最近のピリカなんぞ毎日何かしら爆破しとったぞ」


「お師匠様、それ言う必要あります?」


「事実じゃろうが」



 グリモワルドが軽く手を振った。


 部屋中に浮かんでいた雫が動き始める。白い雫と褐色の雫に分かれていく——飛び散った状態のまま、全ての雫からミルクとコーヒーを分離している。


 ミルクの雫は集まって一つの球になり、グリモワルドのコップに落ちた。コーヒーの雫はアリサのコップに戻っていく。一滴残らず、綺麗に。



 グリモワルドが何気なく聞いた。


「そうだ、砂糖はいるか?」


 アリサは、その老人の穏やかな横顔を見つめながら思った。


 ——今見たものの全てが、この人にとっては些事なのだ。


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