表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/101

第26話 決勝-前編

 小雨が降っていた。


 灰色の空から、細い雨が闘技場に降り注いでいる。観客席には傘の花が開いていた。それでも、席はぎっしりと埋まっている。決勝を見ずに帰る者はいなかった。



 通路を歩いた。


 闘技場に出た瞬間、歓声が降ってきた。昨日までの三試合とは比べものにならない音の壁。満員五千人の声が、雨ごと空気を揺らしている。


 ——決勝。


 対面に、赤髪の少女が立っていた。


 アリサ・ヴァイスフェルト。歴代最高と謳われる才能。炎の魔法使い。


 雨に濡れた長く赤い髪が、肩に張り付いている。その瞳がまっすぐにこちらを見ていた。——迷いのない目。


 ピリカは拳を握った。メリケンサックの金属が、雨で冷たくなっていた。



「——始め!」


 審判の旗が振り下ろされた。


 その瞬間——闘技場の空気が変わった。


 アリサの周囲に、火球が浮かんだ。一つ、二つ、五つ、十——数えるのをやめた。二十、三十、まだ増えていく。


 無詠唱。全て無詠唱。ファイアボールが、アリサを中心に宙を漂っている。


 ——五十発近い。


 観客席がどよめいた。


「なんだあの数……!」


「無詠唱であれだけの数を同時に……!?」



 火球が、一斉に動いた。


 正面から。左から。右から。上から。四方八方から、火の雨が降ってきた。


 ——真空。


 ピリカは走りながら、前方に真空の壁を張った。正面の火球が三つ消えた。左から来た二つも消した。


 ——だが、右からの一つが壁の隙間を突いてきた。


 身体を捻って避けた。熱が頬を掠めた。


 また来る。今度は五つ同時に。前と、横と、斜め上から。


 真空で三つ消した。残り二つを身体で避けた。一つが肩を掠めた。制服の袖が焦げた。


 ——多すぎる。全方向から同時に来ると、真空の壁だけでは追いつかない。



 走った。距離を詰めようとした。


 だが、火球の壁が行く手を塞いだ。正面に集中的にファイアボールが集まり、壁のように並んでいる。


 ——ダメだ、まったく近づけない。


 横に回り込もうとした。火球が追いかけてくる。方向を変えても、回り込んでも、常に前方を塞がれ、その間にアリサは離れてゆく。


 ——今までの試合での勝ち筋が殴りしかないのがバレてる。近づかせず、遠距離から物量で押し潰してくる気だ。


 三回戦までとは明らかに格が違った。あの時の相手は、無詠唱でファイアボールを三つ出すのが精一杯だった。アリサは数十発を同時に操っている。


 ——ジリ貧。このままでは、いずれ消しきれなくなる。



 ピリカは判断した。


 ——殴りには行けない。近づかせてもらえない。なら、最初から奥の手で行くしかない。


 左手に、意識を集中させた。微かな電流が指先を走る。


 右手で真空を制御し火球を消しながら、時には避けて、左手では別のことをする。両方やると、どちらも精度が甘くなる。


 ——ぎりぎり。でも、やるしかない。そのための訓練もちゃんとしてきた。



 アリサの攻撃が、さらに変わった。


 ファイアボールの弾幕の合間に——細長い炎の槍が混ざり始めた。


 ——ファイアランス。


 火球の間を縫うように、炎の槍が一直線に飛んでくる。ファイアボールとは桁違いの火力。


 ——来る!


 ピリカは左手の意識を一瞬だけ薄めて、真空を前方に厚く集中させた。


 ファイアランスが真空の壁に突っ込んだ。炎が震えて、縮んで——消えた。


 ——消せた。三回戦で練習したとおり。


 だが、その隙にファイアボールが横から三つ飛んできた。一つは消した。二つ目は避けた。三つ目が、左腕を掠めた。


 ——痛い。でも、まだ動ける。



 ファイアランスが、次々に飛んでくるようになった。


 ファイアボールの弾幕を維持したまま、その合間にファイアランスを差し込んでくる。一本、二本、三本——。


 ファイアランスに集中すると、ファイアボールの隙間を突かれる。ファイアボールに気を配ると、ファイアランスを消しきれない。


 真空を厚くしてファイアランスを消した。——その瞬間、右からファイアボールが二つ。一つが腕に当たった。もう一つが脇腹を掠めた。


 ——きつい。


 左手の作業を続けながら、真空の制御も維持する。両方やると、どちらも甘くなる。


 ——でも、近づかせてもらえないなら、これだけが勝ち筋なんだ、止めるわけにはいかない。



 不意に、ずっと無詠唱で魔法を行使していたアリサの口が動いた。


 ファイアボールとファイアランスを維持したまま——長い詠唱が始まった。


 その詠唱の響きを、顕現する魔法をピリカは知識として知っていた。ファイアボールの試験のために、炎の魔法は片っ端から調べた。教科書だけでは足りなくて、参考資料の別冊まで読み漁った。


 通常の学生が触れることのない、炎の最上位魔法がいくつか記されていた項。その中の一つ。


 ——この詠唱。


 ——嘘でしょ!?


 ——超級魔法の、フェニックス……!?!?



 観客席がざわめいた。


「あの詠唱、まさか——」


「超級魔法だ。超級魔法の詠唱だぞ!」


「学生が超級を……!?」



 ——フェニックス。自動追尾型の超級魔法。高速で、高威力で、この闘技場で逃げ場なんてない。


 ——そんなものが来たら、絶対終わる。


 ——なら。


 ピリカは覚悟を決めた。


 左手に、意識を一気に振った。真空の壁が薄くなる。防御が甘くなる。


 ——構わない。もっと。もっと早く。もっと多く。


 その隙に気づいたのか、ファイアランスが飛んできた。薄くなった真空では——消しきれなかった。


 炎の槍が、右足に突き刺さった。


「——っ!!」


 膝が崩れた。灼けるような痛みが走った。右足が動かない。


 歯を食いしばった。左手の制御だけは、手放さなかった。


 ——まだ足りない。でも、もう撃つしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ