第1部
ここは世界の南東に位置し、大小様々な島が存在する常夏の楽園。シモン諸島である。
ここは常夏といわれている通り、温暖な気候に恵まれいた。
気候のせいだろうか、このシモン諸島には、ここでしか見られない固有生物が数多く棲息している。
舞台となるのは、このシモン諸島のほぼ中心に位置する、諸島の中で一番大きなシモン島。
このシモン島は一周が約380キロもあり、島の大半が密林に覆われている。島の南東には多くの入り江が存在していて、その入り江のひとつにこの島唯一の村、ウルファン村がある。
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今、一人の青年が意気揚々と村の酒場を目指していた。
「やっとだ。やっとハンターになれる日がきたぜ!!この日をどれだけ夢見てきたことか。くぅ〜〜〜。たまんねぇ!!」
青年の名前はジェクト。彼の黒髪は後方に逆立つように伸び、肌は健康的に焼けていた。南国で育ってきたことが一目でわかる容姿をしている。
「俺もやっと正式なハンターかぁ。俺がハンターの真似事を始めてから、もう10年も経つんだなぁ。」
このアストラルヴという世界には、ハンターと呼ばれる者たちがいる。彼らは所謂、冒険家のようなもので、世界各地を渡り歩きながら魔獣を狩ったり、街や村、果ては個人で出されている依頼を請け負ったりしながら生活している。中には一カ所に腰を据えて、その周辺で狩りや依頼をこなす者もいるのでハンターが皆、冒険家であるとは一概に言えないのだが。
ハンターになる条件はそんなに難しいものではない。18歳以上であり、何が起きても全て自己責任であることに同意すれば誰でもハンターになれるのだ。
この日、18歳になったばかりのジェクトはすぐに酒場を目指したのであった。
「ようジェクト!!お前これから長老のとこに行くのかぁ?」
話し掛けてきたのは、ジェクトと仲の良い村の漁師だった。
「おう!!俺もようやくハンターの仲間入りだぜ!」「ようやくかぁ・・・・じゃあ、すぐにでも大陸に渡るのかぁ?」
「いや、当分は諸島巡りで力を付けてくつもり。今までは小物しか相手に出来なかったけど、ようやくデカイのともやれるからな!!油断してると喰われかねねぇよ」
「そうかぁ。諸島の魔獣はピンからキリまでいるからなぁ。腕を磨くにはもってこいの場所だな。・・・・そうそう、言うの忘れてたが、イーリスちゃんが捜してたぞ?」
「げっ!?マジかよぉ・・・・あのやろう。酒場に行く前に捕まっちまったら終わりだぜぇ・・・・はぁ」
「はははははは!!相変わらず、尻に敷かれてるみたいだなぁ。まぁ、あの娘なりに心配してんだろうさ。ハンターに危険は付き物だからなぁ」
「知るかよぉ・・・・それにあいつだって、もう一端のハンターじゃねぇか。とやかく言われたくねぇっての」
「正式なハンターだからこそ、危険だってのがよくわかってるんだと思うぜ?」
「・・・・この話は終わり!!俺は、さっさと酒場に行って手続きしたいんだからさぁ。あ、もしイーリスが来たら釣りにでも行ったって言っといてくれよ。じゃあ、また後でなぁ!!」
「・・・・たく、せっかちなヤツだぜぇ。誰に似たんだかぁ。にしても、親子揃ってハンターとはなぁ。血は争えないってやつかねぇ」
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まだ、昼間だということもあって酒場の中には数名の客がいるだけであった。村の者は何かしらの仕事をしているため、必然的に酒場の客はほぼハンターだということになる。
ギィィッ、という音立てて両開きの扉が押し開けられ、一人の青年が入ってきた。ハンターたちは一瞬目を向けるが、すぐに各々の会話に戻る。
青年は周りも気にせずに、まっすぐカウンターを目指す。カウンターには一人の老人が腰掛け、ウェイトレスと話をしていた。
「やはり来おったかぁ・・・・お前も親父の後を追うつもりか、ジェクト?」
振り返りもせずに話し掛けてきた老人は、髪や髭こそ白くなっているが、その辺りのハンターに引けを取らない程の体躯をしていた。
その身体に刻まれた無数の傷痕から、この老人がかつては、いくつもの修羅場を乗り越えいたハンターだとわかる。
「あぁ。親父は偉大なハンターだったんだろ?なら、親父と同じ道に進みたいってのは、当然の夢だと思うんだけど?」
「そうか。・・・・かなり険しい道になるぞ?」
「覚悟は出来てる」
「・・・・よかろう。気持ちが固まっているのなら、存分にその力を奮え」
先程まで険しい表情をしていた老人は、まるで孫を慈しむような優しげな表情に変わった。
「流石、長老!!話がわかるぜ。・・・・ありがとな、じっちゃん」
この老人はどうやら、ウルファン村の長老らしい。
「さっさと、手続きを済ませるぞ。ウェンディちゃん!!誓約書を持って来てくれんか?」
「ハァイ!!少し待っててねぇ。」
今までカウンター越しに話を聞いていたウェイトレスのウェンディが店の奥に引っ込む。
と、その時だった。
バンッ!!という物凄い音を立てて扉が開け放たれた。
「くぅおらぁぁぁぁ!!ジェクトォォォォ!!」
開け放たれた扉から入って来たのは女性であった。
「あらあらぁ。・・・ジェクトくんご愁傷様ぁ」
ちょうど誓約書を持って戻って来きたウェンディの声が、ジェクトにはどこか遠くから聞こえているようだった。