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風変わりな姉

 「遅くなっちゃってごめんなー」

テーブルに着くなり、姉の小柳(こやなぎ)あいは、両手を合わせて平謝りした。その動作に合わせて、ボブカットされたふわふわの髪も揺れる。

「いいんだよ。何ていうかその…、新しい友達?もできたし」

「それはすごいな。めいにしては、珍しく社交的じゃん」

姉は目を丸くしている。

「昨日ココハレで会った人と、ここで偶然会ったの。同年代くらいの男の人と話すの久しぶりで、ちょっとだけ緊張したけど」

「え?男…?」

姉は、真ん丸フレームのメガネの向こうで、何やら怪しく目を光らせている。

「ほう、相手は男か。ほうほうほう」

「な、何なのその笑みは」

「いいや?何でもござらん」

「あっそう…」

 相変わらず、姉は何を考えているのかよく分からない。少年漫画の明るい主人公みたいな口調で不思議なことを言ったり、今みたいに一人で笑っていることもある。けれどもまあ、ちょっと低めな身長と不思議な行動は何故だかかわいくも思えたり、何だかんだ優しかったりするから、姉のことは好きではある。

 ───それに何より、変わっているところがあるのは、私も同じなのだ。

「あとこれ、お祝い」

私はそう言って、隣の椅子に置いていたある物を見せた。

「この前言ってたアレの…」

小声で『アニメ化の』と付け加えた。

「わざわざ用意してくれたのか、ありがとなあ」

姉の好きな橙色の袋に、リボンで飾り付けたものを渡すと、彼女はしみじみしながら受け取ってくれた。

「開けてもいいか?」

「どうぞ。お姉ちゃんが好きな昔のアニメ、新しいグッズが出たから買ってみたの」

姉が開けた袋の中から、大きめのポーチが出てきた。化粧ポーチにも出来そうな、程良く大きいデザインで、シンプルな造りの中に、さり気なく姉の好きなキャラのモチーフが付いている。

「はーなんだこれ、めちゃくちゃオシャレじゃんか!好きなキャラも覚えててくれたのか、妹よ」

姉は私の両手を強く握ってきた。熱くなるといつもこうだ。今隣に座っていたら、きっとハグもされたに違いない。

「もう、大げさだな。もったいがらずにたくさん使ってよ?」

「ああ、大事に使う」

姉は鼻歌を歌いながらポーチをしまった。


 「最近、仕事の方はどうだ?少し前は、色んなお客さん増えてきてて困るって言ってたけど」

念願だったというこの店の人気メニュー『イギリス風カスタードクリームのせアップルパイ』を頬張りながら、姉は言った。

「最近はちょっと少なくなったよ。運が良かったのかな」

「じゃあその運、続いてほしいねぇ。もしまた何かあったら、姉ちゃんを頼ってくれ」

「あー…でも一つ、気になることはあって」

「何だ?もしかして、恋の悩みとか?」

「もう、違う。そうじゃなくて」

姉に、先日飴をくれた、氷雨先輩のことを話した。彼女の性格、仲良くなってみたいと思うけれど上手くいかないことを話した。

「うーん、それはきっと訳ありだね。何か深い理由があるんだろうな」

「私、先輩に良くしてもらってるから、もっと先輩のことを知って、先輩に合ったお返しみたいなことをしたいんだよ」

私が一生懸命に話すと、姉は冷静な顔をしているものの、真剣な姿勢で答えてくれた。

「それは物で返すとかじゃなくて、行動で返す…例えば、その先輩が困ってる時に、先輩に合ったサポートをさせてもらって返すとか、そういうことか?」

「うんそう、そんなかんじ!ちゃんと伝わって嬉しいな」

私がそう言って笑うと、姉は胸を張った。

「フッ。何てったってオレは、めいの姉だからな」

いつもより低めの声で気取って言う姿は、何だか女性歌劇団の男役のようだった。

「はいはい、イケボごちそうさま」

「何だよーオレの貴重なイケボを軽く受け流すなよ」

不貞腐れた後、姉は腕組みして続ける。

「まあめいの気持ちも分かるけど、あまり踏み込みすぎるのも良くないしな…。あ、じゃあ、休憩の時、一回一緒にランチしてみるのはどうだ?」

「ランチ?」

私は目を瞬かせる。

「そう。ご飯食べる時って、何かとその人の地が出やすいことあるだろ?普段しないような話も、ぽろっとしちゃうかもしれない」

「なるほど。ただ先輩、いつも一人でご飯食べてるみたいだから、誘っても受けてくれるかどうか…」

すると、姉は得意そうに話す。

「そこは、めいのかわいい後輩アピールをぶちかませばいいんだよ」

「何それ」

「だからほら、『ダメですかぁー?私、どうしても先輩と一緒に食べたいんですぅ…(瞬き)』みたいなかんじでさ」

「却下。そんなのぶりっ子だと思われて引かれて終わりだよ」

「何言ってるのさ。めいのかわいさは半端ないんだから、やれば上手くいくって」

「ない。ありえないから。でもとりあえず、どうにか先輩をランチには誘ってみる」

私はちょっとむくれながら、ケーキを一口頬張るのだった。

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