穏やかな朝
目覚ましが鳴る。鳥のさえずりも聞こえる。
「うーん…」
私は眉間にシワを寄せながらうつぶせになり、ベッドサイドに手を伸ばす。
「今日は何曜日だっけ…」
目覚まし時計の停止ボタンを押した後、液晶画面に表示されている日付を確認した。
「火曜日か。休みだぁーへへーっ…」
ちょっぴり気持ち悪い笑い声をあげた後、私は再び目を閉じた。
そこで、私の頭の中の化身達───例のヒーロー達が現れ、ベッドの側で何やら話し始めた。
『昨日の小銭拾ってくれたお兄さん、よく見たらかっこよかったわね』
『よく見たら、はちょっと余計かもしれないけど、そうだね。人気店員だというのも頷けるよ』
どうやら二人は、昨日の男性のことを話しているらしい。
『あのお店って、確か隣町にある個人経営のお店の二号店、だったわよね』
『そうだね。こだわりのコーヒーと、それに合う美味しい手作りお菓子が食べられるお店だとか』
『めいはまだ行ったことがなかったのよね』
『手作りお菓子かあ、どんなのがあるんだろ。食べてみたいなあ』
ちなみに、彼らはあくまで私の妄想の塊なので、もちろん食べることはできない。もし私がそのお店で一人で食べることがあれば、私が彼らと一緒に食べる妄想をすることで、彼らは食べることができる。
『向日葵は甘いの好きよね。行ってきたらいいじゃない』
『でも男一人で行くのはちょっと恥ずかしいな』
『何言ってるの。世はスイーツ男子フィーバー(?)なのよ。あなたが一人で行ったところで誰も気に留めないわ』
『え、そんなにフィーバーしてる?』
「ふふっ」
二人の会話に吹き出してしまった。
『あれ、めい起きてたの?』
『寝てるんだと思ってた』
向日葵と秋桜が、一斉に私の方を見る。
「…二度寝しようと思ったけど、向日葵達の話が聞こえたからさ。ほんと、ふたりとも面白いね」
くすくす笑う私を見て、彼らは顔を見合わせた。
「何?どうしたの」
向日葵は首を振った。
「ううん。めいが、元気になったみたいで良かったなと思ってさ」
「ああ…」
なんか、恥ずかしいな。
「心配してくれてたんだ、ありがとう」
『めいが元気じゃなきゃ、こっちも調子狂うのよ。まあ、無理に元気出すことはないけど』
秋桜はそう言ってそっぽを向く。
『ふふっ、秋桜ちゃんほんと素直じゃないね』
『うるさい』
ふたりのやり取りを微笑ましい気持ちで眺めていると、ベッドの上に置いていたスマホが突然振動した。画面には姉の名前が表示されている。
「お姉ちゃんから電話だ。何だろ」