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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第一章 国防軍入隊編
9/43

8話 鍵とダンジョンを探せ!!

 


「それは……この班を抜けるってこと?」



 アオが慎重に訊いた。


「せやせや! 2人になってしもうたけど、霧山がいれば戦力として申し分ないやろ?? 私、ホントは隊員ってバレたらあかんし、丁度良い頃合いや」


「う……。で、でも!! 諸橋さんがいてくれたらすごく心強いのに…!!」


 兼得の言葉には、まだ戸惑いと焦りが滲む。


「それじゃ、そろそろさいならや!!

入隊したらまたどっかで会えるかもしれんな」


「ちょっと待って」



 去ろうとした諸橋をアオが呼びとめる。

 諸橋は背中を向けたまま足を止めた。



「第一部隊ってことは、この班に入ったのは伊津の命令?」


「何を想像してんのかわからへんけど、伊津隊長はお前と敵対する意思はないで。あと隊長を呼び捨てにすんなや……もうええか?? ほんまにもう行かなきゃあかんのやけど」


「うん、世話になったね」



 アオの一言で、諸橋は逮捕した女性と共に吹雪の中へと消えていった。一方で、隣に立つ兼得は硬直したまま動けないでいる。




「お────い、大丈夫?」




 アオが軽く肘で突くと、彼は慌てて声を上げた。



「ひぇっ、あの、! 大丈夫です!!!」

「本当に??」

「……霧山さんはその、伊津隊長とお知り合いだってりするのですか!!??」

「……いーや? 一方的に知ってるだけ。

 さて、ぐずぐずしてる暇はないよ。2人になってしまった以上、他の班と合流して、出口まで行くしかない。心配しなくても平気。もうすぐそこだよ」



「は、はい!! がんばりま、す!!」



 アオが兼得に諸橋のかけた防寒の魔法をかけ直し、そこから少し歩くと、人口的に作られた階段のようなモノが見えてくる。



「これって…」


「うん。たぶん君が予想してる通り、

 ダンジョン、だろうね」



 何やら金属で出来ており、階段は下へと繋がっている。大量の魔力が感じられた。



「本当にこの中にあるんですか!?」

「んー、正確に言うと、既にこのダンジョン内に入ってる班が鍵を持ってるだろうね」


「えっと、つまり、鍵を奪うんですか?」


 アオの表情に少しだけ呆れが滲む。


「君、私の話聞いてた? 協力してチーム組むの。2人じゃ出れないでしょ」

「あ、そっか! そ、そういうことですね!!」



 こいつ話通じてないのか? と頭をよぎるが、言葉を呑み込む。兼得の握りしめた手が、小刻みに震えていることに気がついたからだ。


 アオは自然と目を細め、淡々と言った。



「……ここでやめる?」


「へっ??」


「いや、君がわざわざ危険な所に行く必要なんかないよ。何回か続けてたらもっと楽に合格できる時もあるかもだし。というか別に国防軍に入らなくても生きてはいけるんだ……」


「よく、考え直すといい」



「いや、なんで急にそんなこと……」


「だって……君、震えてるよ。弱いから恐怖が増す。弱いから、いつでも逃げられるように、常に片足を一歩引いている」


「!!!」


「ほら、逃げなよ。今すぐにでもここから離れたい。体は、そう言ってるように見えるけど?」



 彼女の暗く濁る青い瞳が兼得を見据える。



「何か言いなよ……つまらないな」



 兼得は俯いたと思うと、アオを睨みつけた。



「ふざけないでください。誰がここでやめるなんて言葉にしましたか。僕が弱いとか、ヘタレだとか、チビだとか!!! そんなこと、今更言われても驚きませんから!」


「いやチビとは言ってないよ?」


「ですが、僕には、僕なりに国防軍に入隊したい理由があるんです!! もし、あなたが失格になり僕1人になったとしても必ず、合格してみせます!!!!」



「だから!!」



 赤みがかった短髪を揺らし、真っ直ぐな目でアオを見た。



「僕をバカにしないでください!!」



 時間がとまったような感覚。



 それほどに彼の心の底から出た声は、

 良く透き通ってアオに響いた。



「ははっ、意外とかっこいーじゃん。

 前言撤回。君は面白いね」


「面白い、って……」



 からかわれたと思ったのか、兼得がジト目になる。そんな彼の様子に、アオは楽しそうにけらけらと笑う。



「ごめんね、少し試したんだよ。覚悟もなく恐怖で固まってるような足手纏いなら置いていくか失格にしようと思ったけど、緊張してただけみたいで何より。思ったより芯があるんだね」



 アオは僅かに微笑み、兼得の肩に手を置いた。



「あっ、ありがとう、ございます……」



 兼得が、頬を紅潮させ目を泳がせるが、彼女はそれに気づいた様子もなくダンジョンへと目を向けた。



「中で手間取ってるみたいだね。行こうか」

「ちょっ、と、待ってください」



 彼の静止に、アオが眉を顰める。



「何? まだ私に言いたいことでもあるの?」

「僕が、先に歩いてもいいですか……?」



 兼得の目から、はっきりとした決意が感じられた。アオは再びふっと口元を緩めた。




 *****




 ダンジョンに入るとすぐ、長い通路。

 その奥から低い唸り声が聞こえたかと思うと、四足獣の魔物が数体現れる。


 毛皮には土や苔が絡みつき、牙と爪が鋭く光る。目は血のように赤く、こちらを威嚇するように光を放っている。



「ま、まままま、魔物です!!!!」



 兼得の声が裏返った。



「うん、見たらわかるよ?」

「ぼ、僕が倒します!!」



 ──倒す? こいつが? 魔物を?



 アオの頭に疑問符がいくつも浮かぶ。



「……ええ?」



「何ですかその目!! 僕、一応戦えはするんですよ!!??」



 信じてないアオに涙目で必死に訴える兼得。そうこう言っている内に魔物が襲いかかってくる。

 アオは腕を組んで彼から少し離れた。



 ──さて、どのくらいやれるのか…。



 兼得は持っていた短刀に手をかける。



「ふぅーっ…」



 彼が息を吐き、足を踏み出した瞬間。



「あれ?」



 アオは目を疑った。魔力の流れを一瞬感じたが、次の瞬間にはそれが消えていた。


 魔物は、地面に転がり、血が広がる。



「ひぃっ!!」



 彼は血を避けるように、死体を回りこみながらアオの元へ戻ってきた。



「えーと、ど、どうでした!!?」



「……思ったより、強いと思うけど」

「ほんとですか!! 光栄です!!!」



 アオに褒められてはしゃぎまくる兼得。一方でアオは表情を変えないまま考えを巡らす。



 ──こんなの、基礎魔法にはなかった。たぶん個人魔法。だとしても何の魔法だ…?



「まあいいや…。次もよろしく頼むよ」

「は、はい!!」



 意気込んだ兼得の顔をアオはじっと覗き込む。そして、何かを思い立ったように彼の額に手を当てた。



「……顔赤いよ? 少し休む?」

「いいいいい、いえ、!! それはその、不可抗力といいますかっ、なんでもないでひゅっ!」



 動揺するあまり、舌を噛んでしまう。アオは小さく首を傾げたが、特に追及せず目を逸らした。


「そ? ならいいか」



 ──随分と面白い副作用なんだな…。


 アオは勝手にそう解釈しているが、もちろん副作用などではない。


 彼女は案外、天然だった。


 その時不意に響いた悲鳴が、二人をその場に釘付けにする。



「助けてええぇ────!!!!!!」



 *****



 通路の途中で、蔓に絡みつかれて身動きが取れない男、三人を発見する。

 先ほどの悲鳴はこの3人の内の誰かだろう。


 すぐに兼得が蔓を短刀で斬った。



「だ、大丈夫、ですか??」



 彼が訊くと、男の1人がズボンに付いた塵を手で払いながら兼得に視線を向ける。



「誰かは知らんが、感謝しよう。実は仲間の1人に裏切られてしまってな。

 俺たちはその、こ、こ……」



 なぜか考えるような仕草をして、隣の男にコソコソと相談する。その時点でアオが肩を揺らしていた。男が一度咳払いをする。



「なぜ笑っている。俺たちは困っていたのだ」



「ははは!! やっぱり、“困っていた”って言いたかったんだっ!!! 無理、君ポンコツすぎ、最高、ふは、あはははっ」



 アオが堪えきれないように腹を抱えて笑い出す。兼得は予想外の珍客にポカンと口を開け固まっている。



「阿呆のくせに頭よく見せようとするのやめろ、もうバレただろ。お前も協力すんな」


「僕は阿呆なんかではないが」

「いいじゃない、おもしろいし」

「僕は面白くなどない」


「そういうとこだよ」


「毎度毎度コイツのペースに乗るんじゃない」



 3人が仲良く言い合いを始めたので、アオが割って入り、落ち着かせた。



「君たちは誰? ここで何をしていたの?」



「僕は天陵春人(てんりょうはると)だ。階級は準二級。阿呆なんかではない」



「すぐに名乗るお前はやっぱ阿呆だよ、認めろ。一応、命の恩人みたいだし俺も名乗るけどな。佐々木賢十郎(ささきけんじゅうろう)だよ、よろしく」



「僕は那原田貫(なはらたぬき)。準一級魔法師でーす、よろしくね〜。僕たちは32班で、鍵の試練でここにいるんだ。試練を突破するまでダンジョンからは出られないらしいんだよな」


「たぬき、って名前あるんだ」



 アオが少しズレた発言をする。



「鍵の、試練!? 確かに発見するだけなら大した試験になりませんね……」



 兼得が呟いた。佐々木は違和感を覚えた表情で眉を寄せる。なあ、と声をかけた。



「そういえばお前ら2人はどうやって入ってきた?出口は閉まったと思うが」


「たぶん、入る者は拒まず、鍵を持つ者は閉じこめる。そういう類の結界じゃないかな……あ、名乗ってなかったか。兼得」


「はい! ええと、兼得凪です!

 準二級魔法師で、15歳です!!」


「へぇ、15歳!! 若いなぁ、最近はこんな子供も参加するのか……時代だなぁ」


 佐々木が、クッ、と態とらしく目を覆い泣き真似をする一方、那原が興味深そうに兼得を見ている。



「まあ、()()の生徒ならあり得るねー。あの高校、確か15歳からじゃなかったっけ」



「魔高って何。次、私ね?

 名前は霧山碧で帰国子女。でー、12歳」



「「「「……12歳ぃいいい!??」」」」



 兼得、天陵、佐々木、那原の声が重なった。

 特に那原は眉を顰めて瞳孔を開き、衝撃を受けた表情をする。



「ええええ!!?? 年下だったんですか!?

 てっきり先輩かとっ!!!?」


「世も松、だな」

「読む末だよ、松とも読めるけど」


「まじかー僕たちより10は年下じゃん!」


 などなど、大騒ぎとなったところで、アオが冷たく鋭い目を四人に向けた。



「黙って?」



 その一言に全員が静まり返り、ピタリと動きを止める。その場に圧倒的な静寂が訪れた。



「ダンジョン内で大きい声出さないでくれるかな。それより、鍵の試練あるんだよね?

 早く試練に戻らなくていいの?」


「あーそれね? 試練ってのは何回も挑戦できるからゆっくりやってもいいんだけど……」



 那原が言葉を詰まらせる。兼得が続きを促す。



「だけど、なんですか?」


「僕たちの力じゃ到底倒せない。だから作戦を練ろうと通路に出たところ、蔓にぐるぐるされたのだ」


「巻きつかれた、とかでいいんじゃないか?」

「蔓に巻きつかれ…」


「なるほどね。倒せないというのは、魔物か何かかな。君たちはそれより弱いって事だ」



 天陵と佐々木のやり取りを完全に無視して話を続けるアオ。その言葉に苦笑いした那原。



「なんか貶されてる気もするけど、そゆこと。恩人に聞くのも失礼だけど、どうすればいいのか、案はあったりする?」


「案?……案、ね」



 アオは少しだけ首をかしげ、考え込むような素振りを見せた。そして、ゆっくりと那原たちを見回しながら口を開く。



「まず、それが魔物ならどんなタイプか知らないと始まらない。近接戦に強いのか、それとも遠距離攻撃が厄介なのか。情報がなければ作戦なんて立てられないよね?」


「確かに、そうだよねぇ〜……。

 でもやっぱり戦力が足りないし…」



 その発言に、アオが悪魔のような笑みを浮かべあ。兼得が遠くで引き気味にそれを見る。



「でも1つだけ、単純だけど確実に倒せる案がある」


「それは、何だ!?」


「私たちと同盟を組む事だよ。見ず知らずの敵に協力するのは気が進まないけど、同盟相手なら惜しまず力を貸してあげる。私もこの兼得もけっこー強いよ?」


「そうか…ならばそうしよう」

「返事早すぎだろ」


「待ちなよ、春人〜」



 即座に同盟を組もうとした天陵を、佐々木がツッコみ、那原が止める。



「この子供たちはただものじゃない。そんなの、僕は最初からわかってた…。でも、その上で案がないか聞いたのさ。そして予想通り、うまぁく、自分たちが合格できるよう交渉してきた」



 那原は一歩前に出て、悪戯っぽく笑った。その笑顔はどこか黒い影を落としているようにも見える。



「子供だからって油断しちゃあ駄目だよ。

 ……何が目的、かな?」



 アオはほんの少しだけ目を細め、何かを計算するように那原を見据えた。



「…目的なんてないよ。

 ただ、鍵の試練に挑戦するには協力が必要。君たちが弱い分、こっちがその補填をする。互いの利益のため、それだけの話だ」



 一瞬の静寂が訪れる。アオと那原の視線が交錯し、まるで火花が散るようだった。



「それ、本当?」



「疑うのならそれでもいい。別に裏切ったりするつもりはないしね……さて、この話、乗ってくれる?」



 那原は肩をすくめ、笑った。



「はは、参ったよ……。全く感情を見せないな君は。下手な商談より格段に難しい相手じゃん。まあ、いいさ。そっちの力量を試すって意味でも、同盟を組むのは悪くない話だからね」



 こうして、一触即発の緊張感が漂う中、彼らの同盟が仮初めに成立した。




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