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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第五章 神徒侵攻編

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56話 神の中毒者たち

定期試験一週間前です。ピンチです。


 市川やアオ、晴華にわらわらと群がる元囚人。

 ただ脳が焼き切れたかのように狂い、笑い、骨が断たれても、肉が溶けていても構わず襲いかかる。


 止めるには魔力で正確に脳天を撃ち抜くこと。

 魔物を狩るのは慣れているはずの晴華も、あまりに凄惨な光景に顔を顰めている。

 それでもアオを守るように体に寄せた。


「碧ちゃん。見ない方が、いいわ」


「……誰に言ってるの。君こそ目を瞑っていなよ、冷や汗掻いてるしさ………。ねぇ霖、まだ? 援護は必要??」


 周囲には既に数十体の死体。その姿はまさに“ゾンビ“。銃弾が空になり、彼の一方的な殺戮が止まった。

 市川は残り二人を一瞥し軽く息を吐く。


 先程まで怯えながらも情報を提供していた、神月の両親。天原夫妻だった。



「いえ、問題ありませんよ」



 市川は再装填すると、冷えた瞳で二人を撃ち終えた。


 床に落ちる、金属音。

 地下はアオ達が来た時よりも更に血生臭い鉄の臭いが充満し、不愉快な熱気が篭っていた。



「素人相手に遅かったね。鈍ったんじゃない?? 霖」


「そうですね……最近は新人教育で忙しかったもので。アオさんには遠く及びません。ここは部下に片付けさせるとして。囚人共が一斉に依存状態になったのには必ず理由があるはず……」



 市川は気配を感じ、即座に背後を振り返る。そのまま銃を構えるが、その動きが一瞬、止まった。

 震える足で立つのは、とうに理性は無く、虚な表情の子供。彼は繰り返し呟いていた。



「……ロ、ン……さま。アポロンさま……助ケ、て」

 


 牢屋のどこがで拾っただろう、手にはメスが握られている。唐突に、彼女は市川の腕を掴んだ。



「アポロンさまァアアアアアアア!!!」



(このガキ、泣いている?)



「市川っ!!」


 呆然と目の前の子供を見つめていた市川は、アオの切り裂くような声で、現実に引き戻される。

 アオは咄嗟に市川を後ろへ倒し、《魔力弾》により少女の頭を弾け飛ばした。

 鮮血と肉片が、アオの手に飛び散る。



「市川。いや、横浜マフィア頭領、霖でしょ。

らしくない。子供に、何か思い入れでも??」



 晴華に血を拭われながらアオが問いかけるが、その返答は沈黙のみ。

 市川は俯いていた頭を上げて、静かに立ち上がった。



「霧山秘書。アオさん。一度、場所を変えましょうか」





*****





 再度エレベーターで地上階に上がると、アオと晴華をここまで案内したパーカーを被った女性、牙都が片膝をついて待機していた。

 その表情には大粒の汗が流れ、市川に訴えかける様子は鬼気迫っている。



「霖さん!! さっきは無礼を働いたッ!! 何でもするさ。何でもするから地下だけは勘弁を……な??」



「……牙都、“ゾンビ“の流出元は掴んでいるのか?」


「あ、ああ!! 勿論!! ヌシら客人はあまり通らん場所じゃろうからな。あーしに着いてくるといい──」


 許されたと判断して安堵を浮かべ、アオの肩を叩く牙都だが、すぐさま言葉を遮られる。

 マフィア中枢に届く程の薬の蔓延。想定外に広がる魔の手に市川も気が立っていた。声に殺気が篭る。



「牙都。アオさんに気安く話しかけるな。それで、何者だ?」


「そ、そんな目で見ないでくれ!? 日本国王の永久じゃよ、薬の流出元は!! ……それを隠すためにそのルクシス天媒会とやらが一枚噛んでるらしい。

こ、これで良いか!? 霖さん??」



 市川に怯え、裏返る声で情報を流す牙都。

 裏社会のマフィアの協力者がこのような状態で良いのかと疑わしくなるが、アオは無視することにした。


 ──でもこの怖がり様は異常。過去に、何か因縁でもあるのかもしれない。



「ええ、十分。では予定通り、王女と謁見する事に致しましょうか」


「……霖。薬物“ゾンビ“の件にはもう触れないのかしら? 王女の護衛が優先だからといって、その原因が国王なのだとしたら彼女の身も危険よ。

それに、さっきの。一斉に依存状態になった理由もわからないままよね??」



 そのまま予定を進めようとする市川に、疑惑の目を向けて話したのは晴華。

 すぐに物事を進めたい様子のアオは呆れた表情で晴華を一瞥するが、市川は淡々と返答する。



「それはこの牙都に任せようと思っております。お前、“ゾンビ“を回収して国防軍第三部隊に送りつけなさい。………できるな??」



 有無は言わせない。やはり命令口調の市川には、誰にも反論させない圧があった。



「承知!! あーしが必ずやり遂げてみせる!!」



 何かしでかせば即座に処断される確信のあるこの場から離れられるのが余程嬉しいようだ。牙都は、常備している睡眠導入剤を一気に口に含む。錠剤を噛み砕く音と共に敬礼の形を取って逃げるように走り去った。



「王女との謁見予定時刻まで残り20分弱、ですか。ここからは車で参りましょう。霧山秘書、どうせ花屋から来たのでしょう?? 最近はあの辺りも治安が悪いのですよ。調べてから来て頂けると助かりますが」


「へぇ。通りで“ゾンビ“の中毒者が多かったわけだ」


「あらそうなの?? でも、そんな横浜の治安を護るのが霖、貴方でしょ?? 碧ちゃんを危険な目に合わせちゃ、お姉さんの私が怒るわよっ??」



 メッ、と子供を叱るような口調で市川に反論する晴華。そんな所が苦手なのか、市川の目は普段よりも細まり、苛立ちが垣間見える。


「……少し黙ってもらえませんか」


 多少険悪な雰囲気は気に留めないアオは気になった事を軽く聞く。


「というか霖、私、そういう位の高い貴族や重鎮は京都の天空ターミナルに住んでるって聞いたけど?? まさか、今から京都まで行くわけじゃないよね??」


 顔が面倒臭い、と物語っていた。そんなアオに抱きついて頬を触る晴華を他所に、市川は話を進めている。


「たしかに、アオさんは数日軟禁されていましたしね。実は、天空ターミナルはフォラウスの襲撃で復旧作業中です。なので今から伺うのは横浜内のある貴族の屋敷。そう遠くはありませんよ」


「それはよかった。あ、運転は霖だよ。晴華の運転は……一生味わいたくないな」


「同感です」


 市川も即答。トラウマがあるらしい。


「ちょっとぉ!? 霖はともかく碧ちゃんまで!? 泣くわよ私も……ぅぅぅ」


「本当に泣くのやめてくれない??」



 前を歩く二人と、後ろですすり泣く大の女性。

 夜の街に霞む仄暗い霧とゾンビ中毒者の群れを抜けて、彼らは車を停めた場所まで戻る。

 次の目的地へ向かうのだった────。





*****





 神月、千草、時薪が総合病院を去り到着したのは、長野県の山奥。

 道中のサービスエリアで購入した十数本の缶コーヒーの香りが車内に充満して、千草が顔を青ざめさせている。



「おーい、時薪隊長。そろそろ界が吐きそうでーす」


「てめえ神月……ほんと性格悪いぞ、そういうとこ」



 普段なら喧嘩腰な千草だが、返答は弱々しい。それを見る神月の表情は楽しげだ。


 病院を出てからというもの、二人の軽口は止まらない。内容は特筆するようなものではないのが、時薪にとっては余計にタチが悪い。


「少しは静かにしていられないのか……?? ほら、見えてきた。吐き気は、うん、もう少し我慢してくれ」


 運転席から声をかける時薪。

 市川から暗号によって受け取った情報によるとここには“ルクシス天媒会“の拠点があるとの事。


 前方には、監視カメラが等間隔に並ぶ巨大施設が建っており、独特なロゴが描かれている。



「これがルクシス天媒会、ねぇ? 見ろよ界。めちゃくちゃでかいよ」


「うるっせぇ……おぇっ!?」

「痛っ!?!?」


 わざとらしい急ブレーキ。大量の缶コーヒーがフロントから転がり落ちて神月に当たる。



「到着だ。出てこい二人とも」



 外に出た時薪が、眼鏡の奥で冷たく微笑んでいた。


「うぷっ……うす」

「吐くなよ、まじで」




 第四部隊、時薪和制。

 真面目で誰に対しても公平と知られる。

 だが、国防軍や特に同部隊の中ではこう彼を評する者が多い。


 国防軍の中で、市川の次に逆らってはいけない男。彼は誰より───、部下に“容赦がない“と。




「いいか? 説明は二度言わないから喧嘩ばかりしないで、よく聞いておくんだ。

僕たちの仕事は、碧たちが行う王女の護衛に支障が出ないよう、この“ルクシス天媒会“の内情を探ることが目的だ。

これから僕たちがするのは、潜入。そこらの一般信者に混ざって出来るだけ早く探るんだ」


「それって、この三人で? やっぱり人手があった方がいいんじゃ……」


 不安気に聞く千草だが、


「国防軍にそんな余裕があると思うか?? わかったならさっさと行こう。時間の無駄だ」



 きっぱりと質問を切り捨て、背を向ける時薪。

 潜入の経験があるわけでもない神月と千草は混乱するが、他に何の説明もない。

 慌てて時薪を追いかけ、入信希望者の列に紛れ込んだ。




「ようこそ、ルクシス天媒会へ!!

アポロン様はいつも私達を見ておられます。ささ、まずは教祖様と御面会ください!!」



 異常に思える程の笑顔で出迎えられ、一同は施設の中へと通される。

 重厚な扉の閉まる音。それはまるで、この施設に閉じ込められ、監禁されたような感覚に陥らされていた。



 入ると、暗闇。

 一部にスポットライトが照らされた。


 中央の高座に立つのは一人の茶髪の少年だった。

 その姿はやはり、千草の記憶と面影が重なって。




「お集まりの皆さん、出会えて光栄。

俺がルクシス天媒会教祖、アキだ」




 促していないのに、自然と拍手が湧いた。

 彼の存在に無意識に平伏している。



「アキ……?? 別人じゃ、ない。なんで、ここに。

だって、神なんか信じるやつじゃないだろ。こんな、怪しい宗教なんて、始めるわけ………」



 千草の脳裏を駆け巡るのは、南本の“家“にいた頃の出来事。南本、哀羅、アキとの笑い声と記憶。

 愚かでも充実していた、不良グループ“ゾンビ“での毎日。


 そして千草が追い出された、あの日の雨音。


 白く長いローブを着こなしカリスマ性を放つその少年から、目が離せない。

 その視線を感じ取ったのか、少年は入信希望者の列を眺め始める。


「ええと……ああ。千草界? もしかして、俺の昔の知り合いか??」


 先程とった名簿を確認して千草に顔を向けた少年。明るく、そして軽く片手を上げた。



「よう、久しぶりだな、界!! 今何してるんだ?」



 その彼の言葉に、千草の表情が歪んだ。

 隣でポケットに手を入れてつまらなそうに少年を見ていた神月がぎょっと目を見開く程。


 眼鏡を掛け直し眉を顰める時薪。

 千草は、身を乗り出して少年に向かって声を張り上げた。



「……アキじゃない。

てめぇ、アキの体で何をしてやがるんだ!?」


少しでも面白いと感じて頂けたらぜひ、感想ブクマ評価など、宜しくお願いします!!


また異世界ファンタジー小説、『天才×転生〜コミュ力皆無の不老不死は普通を目指す〜』も同サイトにて連載中です。



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