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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第五章 神徒侵攻編

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55話 権力の届く場所

やはり遅くなってしまった。


「国防軍第四部隊隊長の時薪です。界()()のお母様でしょうか。彼と同期の天原神月を連れて参りました」



 千草や神月に対する扱いとは打って変わって、敬語を話す時薪。少し引き気味の千草だが、目の前の彼女を見て目を見開く。その相手は、病室のベッドに体を起こして座る、千草の母だった。

 妹達は小児科で面倒を見てもらっているらしい。


「っ………母さん!!!」


「界、なの?? 大きくなったわね……」


 数年ぶりの再会を果たす彼らの深い抱擁。神月はその様子を目を細め、視線を柔らげながら離れた場所で眺めている。


「その子はお友達かしら? お名前は?」


「ええと……オレは天原神月。界の友達かどうかはわからないけど、一応同期って事になってる、ます」


 突然声をかけられた神月は戸惑いながら、この雰囲気を察して慣れない敬語で答える。

 千草の母を心配させないため、普段の軽く荒々しい口調ではなく、不自然な笑みを浮かべている。


「神月、無理すんなよ……」


 千草が呆れたように呟くと神月の表情が固まる。煽られたように感じるが、千草の母の前なので顔に出すのを我慢しているのだろう。

 これ以上、神月が猫を被るのは無理だろう、と時薪は判断し咳払いをして少しベッドに近寄った。



「界くん、再会は後で。本題に移ろう」


「本題……?? ただの一般人である私が知っている事などそう無いと思うのですが……」


 困ったように眉を下げる、千草の母。

 だが、時薪の次の言葉に息を呑んだ。



「界くんのお母様……あなたの家族について、少し、僕と二人で話せませんか??」



「え、ええ。わかったわ」

「ということだ。お前達、一度外に出ていてくれ」


 そう視線を向けられた神月は、母の隣に屈む千草の腕を引いた。

 軽く目を合わせると、低く呟いた。



「おい行くぞ、界」



 千草と神月が去った後、時薪は近くの椅子を片手で引き摺り、千草の母の寝るベッドの隣に座った。



「すみません、あいつらに聞かせたくなくて。

先日国防軍にある依頼が来たのですが────」



 そう切り出した時薪は、語り始めた。

 アポロンという神を信仰するルクシス天媒会から王女に脅迫状が届いたという今回の件についてだ。

 これは本来、国防軍の中でも第零部隊や幹部にしか流されない情報。


 もちろん千草の母に話すのも理由があった。



「いまそんなことが起きている、なんて…………」



 王族が一宗教団体に脅されているという、衝撃的なニュース。

 しかし彼女からはただの驚きではない表情が窺える。それは一般に想像するような病弱な女性像とはまるで違うその瞳。


「時薪隊長。これは、その宗教団体と王族との関わりがないかどうか、私に聞きに来たんですよね??」


「……はい。正直言って、上層部の命令が腑に落ちない部分があるらしいんですよ。何か些細な事でも構わないのでご存じありませんか?」


 時薪が身を乗り出すと、彼女は静かに頷いた。


「もう知っているのでしょうけれど……、私の名前は永久日富(ヒトミ)

現国王である永久白人さんの、元妻です。界を産むとすぐに追い出されました。ああ、界の妹2人は天空ターミナルを出た後に生まれた娘達で」


「追い出された……??」


「すみません、宗教団体でしたね。そういえば白人さんは……ちょうど私達が白人さんに追い出された頃、アポロンという神を信仰していたはずです。

それが宗教団体に発展しているかはわかりませんが……また、子供を巻き込もうとしているなんて」


「それは王女の事ですか?? それに、また……って」


「界も、利用されそうになったんです。そう!! この国の王は危険!! どうか、どうか騙されないで!! っ、けほっ……」


「お、おい、大丈夫か!?」


 慌てて机の水を日富に手渡す時薪。

 咳き込む彼女を気遣いながら様子を窺う。


「えぇ、申し訳ありません。わざわざお越し頂いたのに………」


「それはっ!! とんでもない。僕の方こそ、突然お邪魔して申し訳ありませんでした」


「時薪隊長」



 謝罪し、軽く頭を下げた時薪の言葉に、間髪入れず声をかける。冷たい季節に珍しく、窓から指す日差しが暖かく二人を照らした。



「今回の任務は王族と関わるのでしょう?? その若さで隊長ということは、それ程にお強いのだとお察しします。


どうか界と、その友達を、お守りください」



 心配なのだろう。不安だろう。

 今まで千草と会う事が叶わなかったのも、もちろん胸が張り裂けそうな程怖かったのだろう。

 証拠に、日富の体は微かに震えている。


 時薪は眼鏡を掛け直し、椅子から立ち上がると、優しげに微笑んだ。



「………あの二人は一々喧嘩するし、馬鹿だし、ロクに仕事も出来ないけどな。国防軍の隊員である限り命を懸けてでも僕は、二人を守ると誓おう」



 病室のドアを開けたところで聞こえる、神月と千草の騒ぎ声。

 普段と変わらない様子に安堵する。




「また!! 二人といらっしゃってください!!」




 日富がベッドの手すりを持ちながら声を張り上げると、時薪は静かに口を開いた。



「では界くんのお母様。また、事が終わった後に」








「こら病院の中で騒ぐんじゃない。行くぞ、二人とも」


 廊下で言い争いを続ける天原と千草に声をかけるが、その隣に更に二人の少女がいることに気が付く。

 顔つきにはほんの少し千草に似たところがあり、同じ茶髪。

 妹達と無事に再会できたというわけなのだろう。



「あ!! 時薪サン、話終わったんですか!! この二人は俺の妹で────、ほら、挨拶しな」



 何やら苛ついている神月を抑えながら彼を見た千草。千草は自身の妹達を軽く前に押し出した。


「千草綾です!!」

「杏です。どうも…………」


 二人の少女の肌には大きな火傷の跡。過去に何かあったのは一目瞭然。

 丁寧にお辞儀をする彼女達の横に屈んだ時薪は、その眼鏡の奥でその目を柔らかく細める。



「どうも、僕は時薪。

お兄さんとその友達はもう仕事に行くけど、絶対また会えるから安心して待っていてくれ」


「「うん、待ってる!!」



 明るい笑顔の彼女達に見送られながら病院を去っていく三人。



「いやお前、そんなキャラだっけ??」

「天原。上司に向かって口の利き方がなっていない、減点」


「だからオレは第零部隊!! 部隊違うんだからそんなに言わなくても…………」


 時薪の、市川とはまた違った威圧感を流すように冷や汗をかく神月。それを宥めながら千草が時薪に問いかけた。



「それで、次はようやく、ですか」



「ああ。碧がいま横浜で得ている情報を受け取り次第、行こうか。宗教団体の本拠地へ」




*****




「で、ゾンビって薬の対処は君で、ルクシス天媒会は私が対処するって認識でいい感じ??」



 鉄臭く、薄暗く、冷たい。掃き溜めの様なのにそれでいて埃一つ無い地下。

 天原夫妻に話を聞き終えたアオが口を開く。



「いえ。当分は俺と、そこの霧山さんと共にその”ゾンビ”の調査に当たって頂くかと。

道案内は俺がしますから」


「良かった。さすがにこの人との二人旅はキツいし」


「えええ!? せっかくの姉妹デートの機会なのに!!」

「うるさいほんと」



 アオが晴華を厳しく黙らせたその時。

 即座に数発の銃声を鳴らす市川。



 


「アオさん、霧山さん、お退がりください。俺が引き受けます」





 周囲には今まで()()()()()()()()()()()体中血だらけの者達。

 いつのまにか脱獄し三人を包囲するが、どうも様子がおかしい。


 狂ったように泣き出す者、腹がよじれる程大笑いする者、体の一部が既に溶け死体同然の者。

 まだ生きているにも関わらず、体の自由が利かないようで関節が異常な方向に曲がっており苦しむ者。


 彼らが一斉に敵意をぶつけてきたのだ。

 意味がわからない。


「誰、この人たち。霖、これどういう状況??」


 静かにアオが聞くが、彼は軽く眉を顰めただけ。


「俺にもわかりかねますが…………共通するのは、これら全員………。いや、考えるのは後に致しましょうか。迷っても仕方がない。心苦しいですが」


 市川の長い黒髪が残像のようにブレると、気が付いた時には敵の目の前。その長い手足のリーチを存分に生かして、蹴りを入れ、手の甲で骨を殴り砕いた。




「全員残らず、殺す」





 そう一言。

 不意打ちを仕掛ける男の脳天に銃弾を撃ち込んだ。

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