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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第四章 破滅の少女編
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50話 再生の魔物

あまり話が進みません。


「その……霧山さんがフォラウスっつう悪魔に俺たちを殺せって命じたんだよな……?? その様子じゃあ、もう俺たちを争う意思はないはずだ!! 頼む。玲を!! 人間界を………助けてくれ!!」


 再開早々口を開いたのは広夜麻。

 駆け寄ってきた一同を、千草に掴まれたまま見渡したアイオニオス。それから、その中でも既に死んでいてもおかしくない多量の血を流す少年、植田に目を止めた。その表情は驚愕に染まっていく。


「私はこの狭間に繋がる境界を壊せと命じただけだ。人間界にも、君たちを巻き込む気も最初からないよ………もちろん、今も。でも助けを求める相手が間違っている事は事実だ。

帰り道を教えてやるよ、とっととここから」


「まだ言ってんのか!? 広夜麻の怪我を治せんのは碧、てめえだけだろうが!!」


 虚ろな瞳を浮かべるアイオニオスに迫り体を急かすように揺すった。しかし彼女は千草にされるがまま、動き出す気配はない。


「ここまで………君は魔王である私を助けに来ようとしたね。確かにさっきの君の瞳は真剣そのもので、気圧された。そう、君の言う、仲間って言葉は理解したよ。でも、残念。玲は………私でも治せない」


「はあ!? 何ふざけたことを」

「アオさんは、嘘はついていませんよ」


 少し離れた場所から声が遮る。アイオニオスに刀で斬られた脇腹を、肩から腹にかけて自身のスーツで止血した市川と、天使族の末裔の力で傷が癒えた兼得。既に乗っ取られていた意識は戻っているようだ。

 彼らはゆっくりと体を起こすと植田に視線を向けて内の魔力に注目した。


「どうやら玲さんの怪我は、外傷よりも内部の制約が影響しているようです。それにしても重症ですね。まるで…………寿命全てを捧げたかのように」


 そう市川が告げた時、広夜麻や鈴能に反応があった。推測の肯定であると受け取り、市川は、なるほど、と頷く。アイオニオスも目を逸らして俯いている。

 いまだかろうじて息をしている仲間を助けることができない。現実を突きつけられ絶望した空気が流れ始めた頃。


「諦めることしか、脳がないのかクソ共。まだ、方法はある」


 天原神月、彼が深いため息をつきながら進み出る。


「どこまでいっても上から目線なんだな天原は」


「黙れ千草。可能性の話だけど………植田はフォラウスと戦った際に魔法で制約をつけたんだよね?? それが両者に干渉する魔法だったのなら、もう一方の繋がりを破棄すれば………。

その魔法自体、なかったことにできるかも…………」


 口元に手を当てて険しい表情をする彼に、阿流間は頭の上に「?」を浮かべながら尋ねる。


「んん!? え、それってさ!! え、どゆこと!??」


「つまり…………フォラウスを倒しさえすれば、あいつがいま襲ってる人間界も、植田も、両方救うことが出来るって事だね」


 ずっと口を閉ざしていた吉川がその説明を受け持った。彼女の存在にたったいま気づいたアイオニオスと千草は訝しげで不信感を募らせた表情に変化するが、それに対して二人が言及するよりも、天原がアイオニオスを睨みつけるのが先だった。


「オレはいま、お前を信じ切れていない。そこの千草と違ってね。今のお前はオレにとって魔王アイオニオスでそれ以下でもそれ以上でもないからだ」


「天原、そんな言い方は!!」


「けど!! 今の状況でクソ一番強いのはお前!! オレを、人間界を救えるかもしれないのはお前だけなんだよ魔王!! 力づくでも、力を貸してもらわなきゃいけないんだよ!!」


 息を切らしながらそう言い切った天原。

 熱を帯び叫び語る見慣れない彼の姿に一同は驚きを隠せないが、最も影響を受けたのは勿論、アイオニオスだった。


 ───友達。仲間。それはこんなにも、想いも籠ったモノだったか…………。


 千草や市川に続き、元凶であるカグヤの弟、神月にまでも。戻って来いと、力を貸せと。強く願われた事で彼女の理性は揺れ始める。人間の体へと自分の肉体を操作してまで知りたかった人間の世界や本質、そして彼女から失われた、熱い感情。


 ───わからない。私にはとうに理解できない。残っているのはアミカが死んだ時、間に合わなかった事への後悔と虚無。でももし、もし、あの時救えていたならば。こんなにも理解不能で苦しく、つらい思いはせずに済んだのだろうか。


 アイオニオスは青く澄んだ瞳を静穏に開けると、自分に触れたままでいた千草を強く突き飛ばす。刀を長く神秘的な杖に変形させた彼女は、純白の白鳥のような羽を広げて、その場にいる全員を暫く見渡した。




「………救ってみせるよ、私。私自身が、二度と、後悔しないためにも」





*****





 狭間の世界。魔王城裏。

  市川、阿流間、広夜麻、植田、鈴能、天原(神月)、石塚、吉川。


 狭間の世界。世界の境界から離れた場所。

  坂、伊津 VS カグヤ(天原 輝夜)


 狭間の世界。魔王城付近。

  森壁(第二部隊隊長)、第一部隊、第二部隊



 人間界。国防軍関東基地。

  第三部隊、第四部隊、その他


 人間界。天空ターミナル(京都)

  那原(ターミナルを破壊)


 人間界。京都、東京間、移動中。

  勇者、フォラウス(勇者と同路線で追跡)





 *****



 彼の魔法《(シャドウ)》で一帯を覆い、カグヤと対峙する坂。


 カグヤに付けられた傷を庇って呻く 伊津 を横目で見ると、瞬時にカグヤの間合いの内側まで接近。

 彼の足は三年前の火傷で殆ど動かないので、全方向に展開した魔法を存分に使って影から影へと転移する。

 影による移動は大量の魔力を喰うが、機動力を上げるためには、これしか方法がない。


(アオはきっと市川や、第零部隊の新人たちが説得してくれるはずだ。なら僕の仕事は、天原輝夜の足止め……それと)


「国防軍最強の僕が直接手を下すことを光栄に思え。

さて、君の弱点は………どこだい??」


「素直にボクが教えるとでも?? 個人魔法《崩天砲(エスカノン)》!!」


 カグヤの魔法は、坂の展開した暗闇の中を電光石火、龍の如く坂に向かって駆け抜ける。限りなく稲妻に近いような魔力の凝縮された砲撃。


「風魔法《斬空剣(ヴィンドソード)》!!」


 坂はカグヤの放った砲を肩を掠った程度、間一髪で回避すると背後の《影》で吸収。影同士の転移の性質を利用して、細切れにしたカグヤの大魔法を基本の風魔法を応用して、そっくりそのまま、至る場所から撃ち返す。

 ただの人間である彼は魔力量で明らかに劣っているが、相手の魔法を再利用する事で補う。

 といっても、既に左腕を失い足も使えない坂は、最初から不利な戦いであると言えるだろう。


(とりあえずの足止めは出来ているが、攻撃力が足りない。このままじゃジリ貧だ。何か弱点があれば……)


 戦闘を続行。悩む暇などない。ただ攻撃の手を緩めずに観察を続ける。心臓? 違う。頭? 違う。頸? 違う。負傷した部分が次々と再生していく様子に、坂はある事に気づいた。

 その隙にと上空から地面まで打ち付けられるが、坂は、地に付与した影魔法で緩和。

 暫くして、坂の表情は、焦燥から余裕に変わる。


「そういえば君、死神と契約したそうだね。魔人から態々人間に体を造り変えたと。人間となった君は、好き放題人を弄び、力を蓄えた」


「その通り。でも、それがどうした?? 先に言っておくけれどボクの弱点を探ろうなんて真似は───」


「天原輝夜………君は、他人の生命力を自分の魂に変換しているね。それも、あと少しで尽きる。違うかな?」


 大きく目を見開く様子からそれが当たっている事が容易に推測できる。

 坂は、何度も攻撃に当たり再生している姿を観察していた。それが少しずつ、約0.何秒ずつではあったが、攻撃を食らう度に再生が遅くなっていることに気づいたのだ。


「……ああ。人間になってからは、ボクに攻撃を当てられる人もいなかったし、戦闘の勘が鈍っていたかな」


 穏やかな口調とは裏腹に、カグヤの声色には苛立ちが混ざる。ふっ、と微笑を浮かべる坂。


「何をしようとしていたかわからないけれど、(弱点)は明かされた。君の目的は達成できないままに終わるんだ。精々、僕達の世界を荒らした事を後悔しながら、朽ちていけ」


 台詞と共に四方八方に広がる《影》をカグヤの周囲だけに限定、そして圧縮していく。

 まだ生命力に余裕を持っているのか、それに大人しく捕まり体を硬直させられたカグヤ。


「お前。こんなもので何かできるとでも……ッ!?」


 言いかけたカグヤの喉に突如突き刺さった、長槍。

彼は呻き声を上げ、その槍を抜こうとするが、びくともしない。それは、彼女の───伊津の魔力が込められている。作戦を伝えたのは坂が地面に打ち付けられ、戦闘に復帰するまでの一瞬。

 その正確さと素早さは、さすが前線に立つ隊長達と言える。


「個ジん……魔法!! 《武器(ウェポン)》!!」


 伊津は自身を回復するために残した魔力を行使。

 銃火器が宙に浮かびカグヤの周りを囲み、矢の雨が彼を狙う。《影》により動きを封じられているカグヤに、逃げ道は既に皆無。


「あア、ウガッ、アアアッ、オエ"ぁ────」


 不可視の速度で影の中を応酬する伊津の創り出した武器に、魔法を発動する間もなく悲鳴を上げるカグヤ。しかし血で染まるその口角は微かに吊り上がっていた。そして、彼は枯れた声で叫ぶ。


「来イ"!! 《無効化》!!!」


 その瞬間、糸が切れたように、存在ごと刈り取られたかのように、攻撃していた魔法が完全に消滅。

 一気に《影》の黒が晴れ、武器の金属は砕け散った。

 骨が見え隠れし肉が垂れ下がる彼の体は、かなり消耗したようで再生速度は遅い。


(いまの魔法は何だ!? カグヤの魔力ではない、それどころか、僕が出会った事のある何者かの……!?)


 伊津が魔法展開した衝撃波で地に背中を強打した坂は起きあがろうと頭を上げる。しかしすぐに襲う脳の揺れ。脳震盪を起こしているようで、方向感覚もままならない。肩を上下させ、カグヤの再生をただ見ている事しか、できない。

 国防軍に戻ってきたばかりで、いきなり魔力を使用した反動か、手足の感覚もほぼなく痺れていた。


「こンカいハ、ボクの、ショウリ、だ……」


 剥き出しになっていた歯茎と唇を再生させながらカグヤが宣言する。


「モット、つヨクなってくれないと、壊し甲斐がないと言うのにね。あのいつまでも甘ったれ王女様のアイオニオスとは違って、ボクには明確な目的がある。

世界に、神に、宣戦布告しよう」


 言葉を切ったカグヤは自身の手に嵌めていた腕輪を破壊。すると黒い霧が渦巻き、彼を呑み込んでいく。いつでも逃げられるように準備がされていた。坂や、いや、多くの者が予想していなかった“那原田貫“という人物が影響を及ぼしていた。その事実すら、彼らはまだ、知らない。


「その、腕輪……!! 神級魔導具だって……!?」


 坂は懸命に酸素を肺に取り入れながらも声を溢す。アイオニオスの持つ杖も神級魔導具に当たるが、こう易々と存在していいものではない。

 魔界の中でもとても貴重で、天からの贈り物ともされる神級魔導具。


(なぜ天原輝夜が、そんなものを────!?)



「生命力を蓄えて次、君に会う時には────、



  全ての秩序をぶっ壊しに来る、とね」



 言い残して彼はその場から黒煙を纏って姿を消す。

 この、“狭間の世界“からどこかへと転移した。


 暫く彼が再生し終えるまでは人間界への攻撃はないだろうが、カグヤを逃してしまった。

 国防軍最強コンビとまで謳われた坂と伊津の心に、敗北という二文字が、深く深く刻まれていた───。





 しかし彼らの心境を無視し現状を見直すと、カグヤや鬼人達の脅威は去った。那原にはこの戦いに干渉する気はないようで、フォラウスを喚びだすという目的だけ果たして、彼もまた所在不明。


 疑問。謎。思惑。それぞれが絡まり複雑化するが、今、早急に手を打つべきは、フォラウスただ1人。


 黒煙の悪魔フォラウス。

 悪魔族の特徴である高い再生能力と、神出鬼没な移動魔法。加えて植田が瀕死になってまで討伐しても、彼は何事もないように復活してみせた。



「んふふふ!! 人間界を支配しなければ──!!!

アイオニオスに献上する為にも!!」



 その笑いは歪んでいたが、そこに嘘はなかった。

 彼は、心の底から主を想っている。しかし、その“想い”が致命的に間違っている。

 フォラウスは忠臣であり、そして最大の誤解者だった。



 彼はただ、圧倒的な力の信仰者なのだから。


次回は漸く人間界パートへ戻ります。

フォラウス対アイオニオス。そして勇者が登場。


少しでも面白いと感じて頂けましたら、評価ブクマ、リアクション!!お待ちしておりますm(_ _)m

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