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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第四章 破滅の少女編
52/53

49話 不滅を冠する者

更新が遅くなり申し訳ありません。

そしてXのRT企画に参加して頂いた方、本当にありがとうございました!!



 アイオニオスの双子である、アミカ。

 長く伸ばされた漆黒の髪は夜のように艶を帯び、誰が見ても“悪魔族の娘”と呼ぶにふさわしい容姿をしていた。けれどその身体能力の低さゆえに、王族でありながら蔑まれ、隔離されてきた。


 そして彼女の姉、アイオニオスは真逆。

 白の髪に、一筋の黒。碧色の瞳を宿したその姿は、異質。


 双方とも、魔界から疎まれるべき存在だったのだ。



 だが────その片方は既に壊れかけていた。

 思い返される天界の記憶。再び絶望した魔界での暮らし。そして今、掴んでしまった、希望。


 先ほどの蘇生魔法で魔力を使い果たしたのか、ふらつくアミカを素早く駆け寄って支えた。アイオニオスは優し気な笑みを浮かべて、アミカに目線を送る。


「大丈夫?? 城まで送るよ」


「別に、平気、お姉様の手を煩わせるわけには」


「私の名前はアイオニオス。お姉様じゃない」


「あい、お────アオ??」


 たどたどしく名前を呼んだアミカに軽く頷く。


「うん、それでいい。さて、父上に報告にいかなければ……ん??」


 アミカの魔法により美しく咲き誇った草花を掻き分けて進もうとするアイオニオスの服を掴まれ、振り返る。言いづらそうに口ごもり、微かに首を振ったアミカ。


「あ、いや……なんでもな」


「魔法のこと、でしょ。言わないよ、父上には」


「本当!?」


 アミカという名前は、双子の妹としか知らなかった。奇跡ともいえる《蘇生》魔法を持っているにも関わらずだ。それはつまり、アミカ自身が戦場を嫌っていて、その力を他者に隠しているのではないか。アイオニオスはそう推測する。


───アミカ。この子は使える。


 目的のために利用価値の高い子供。

 「死」という概念すらいとも簡単に打ち破る「生」のエネルギー。


 それは、神の定義を否定する行為と等しい。


 アイオニオスは神として一度死んでいる。神界から堕とされたからだ。

 神に背いても、世界は変わらなかった。変革の果てにあるのは、ただ同じ構造。

 少数派の意見はかき消される、つまらない摂理。



 現世とは、やはり、無意味で無価値。



 知りたかった。魔物を。世界を。神を。

 証明したかった。生死という理を創ったのは過ちだったということを。

 そうすれば話し合える。二度と不幸なんて存在しない世界にできる。

 


 《蘇生》を手に入れられれば、この運命に抗える。

 死のない世界を創ることができる────。




*****



 城に戻り、父上──魔王カストルに報告をした。

 反乱軍を討伐した、何も問題はなかった、と。


 彼女はカストルには秘密にして、アミカに、

 質の良い教育、環境、食事を与えた。



 魔王カストルが人間界侵略に執心している頃。

 彼女の性格は少しずつ明るくなっていき、表情に生気が溢れた。アミカにとってアイオニオスは唯一の話し相手であり、尊敬し愛すべき姉だった。



 だからこそ、アミカが生まれてて初めて魔王カストルに呼び出された時には、心臓が飛び出るほど驚いたものだ。

 彼女のような王族の名折れをわざわざ呼ぶ必要がない。玉座の前で静かに跪くアミカ。

 その頬には冷や汗が伝る。


「何の、御用でしょうか」


「我は数日後、人間界に渡航する。お前も来い」


「────え?? しかし、父上」


「アミカ。お前は《蘇生》の魔法を持っているそうだな。その才を戦地で活かしたいと思わぬか??」



 あからさまな手のひら返しだ。この間まで薄汚い部屋に隔離しろくな食べ物も与えなかったのに。

 どこから情報が漏れたのか、魔法のことまで知られている。通常、王の命令(願い)を断る事はできない。

 人間界侵略を目指すカストルに、アイオニオスが反対しているのは知っていた。だから勇気を出してその口を開いたのだ。


「父上……それは出来ません」


 アミカの意識は一度、そこで途切れた。




*****




 その日アイオニオスの部屋に飛び込んできたカグヤの第一声は、「アミカ殿が魔王カストルの戦争に駆り出される」だった。意味を理解すると同時に部屋を飛び出す。



 それは魔王に命じられた言葉。

 カグヤは、アイオニオスが最近、彼女に目を掛けている事に気づいていた。


 アミカを餌に、彼女を外へ誘い出すための罠。

 という事は露ほども知らずにアイオニオスは駆け出した。


───アミカの魔法は誰にも言っていないはず。なぜ情報が……??


 考える間もなく、思考が潰える。


───そんな事は今どうでも良い。早く()()にいかないと。



 カグヤに示された場所は開けた大地。

 武器を構えた者が集まっており一斉にアイオニオスに殺意を向ける。魔王カストルは人間界侵略の邪魔をする彼女をここで排除しようと考えていたのだ。

 その兵の数、およそ百万。

 アミカが過去に蘇生させた兵も含め、見知った顔ばかり。

 それでも風のように雑兵を振り払うと、土埃を抜けて中央へ駆けた。


 そこには血に塗れたアミカの姿。

 地に伏す彼女に急いで駆け寄り、抱き起こす。


「アミカ!! 何があった!?」


「来ちゃ、だめ……早く、逃げて」


 震える手。汚れた服。掠れた声で話す彼女を見て唖然とする。

 これから戦地に向かわせる者の扱いではない。

 またも迫害され、傷つけられたのだろう。


 手当てをしないと死んでしまうような、酷い重症だった。まず助からないだろう。そう切り捨てる事もできたはずだった。それでも、アイオニオスはしなかった。


 可愛らしく温かい笑顔が彼女の胸に温もりを与えていたから。

 しかし、今、そのような傷を癒す力はない。

 冷静な脳とは裏腹に一つの言葉が残る。


「今すぐ治療してもらおう!! 私が運んでいくから……ッ」


 その時だった。鋭い爆発音が空を裂く。

 それはアイオニオスが行動を起こすよりも先にアミカの頭部に着弾。鮮血がアイオニオスの頬に、服に、髪にまで降りかかる。

 ひと雫が頬を伝い、たら、と流れる。


 アミカを疎んでいた内の1人なのだろう。ひくつく口角で掠れた冷笑を漏らし、そそくさと逃げていく姿が視界の端に映った。


 アミカに刻まれた無数の傷は、悪魔族の特性により再生しようとするも、もはやままならない。多くの血を失いすぎていたのだ。


 聞こえるか聞こえないかのか細い声。

 しかし、アイオニオスの耳には周囲の音が消え、アミカの言葉だけが明瞭に届いていた。


「アオ……逃げて……狙われてる……。生まれ変わっても、ずっと、ずっと、友達だよ」


 そう言って笑うと共に彼女の瞳の色は徐々に消えていく。アイオニオスの服を握っていたその手から力が抜ける。脈が感じられないその体を抱きしめる。

 彼女の温もりは、確かに消えていった。



 次の瞬間────世界の色が音もなく反転する。

 以前のアイオニオスからは理解できなかった感情に押し潰されそうになり、冷たい液体が頬を伝う。


 彼女は悲痛な笑みを浮かべる。

 運命を呪い、運命から抗い、運命を変える。


 それはまるで魔王に、神に見せつけるように。

 透明の魔石が嵌め込まれた、彼女の為だけの長い杖を天に突き出す。


 喉が壊れるほどの絶叫と共にその名を呼んだ。


 「個人魔法、最大階層!! 《神葬の月欠片(ディオクトス・ルナ)》!!」



 空は裂け、青白い光が滴り落ちる。

 絶望を具現した雨となって降り注ぎ、次々と命を奪っていく。

 彼女の感情に呼応するように、重力が裏返り、海のように空気が波打つ。

 誰かの断末魔。それすらも音として認識できない世界。



 彼らの魂は一瞬にして吸い取られ、その全ては月の欠片に喰らいつくされていた。

 喉の奥から迸るような嗚咽と笑いが交じり合い、絶叫が形を持つ。


 嗤うのは、アイオニオス自身。

 誰かの死を喜んでいるわけではない。堕神の力の暴走は、彼女自身に影響を及ぼしていく。




 魔界の一帯が消滅した。

 それは元から虚無であったかのように。

 


 堕神はひとり宙に浮かんでいた。

 血と涙に濡れた頬を月光が照らす。



 理性はとうにない。

 ただひとつの想い──奪ったものすべてを“神”ごと葬り去るという意志だけ。






 その姿は、どこまで行っても、人外。






 遠い果ての地。彼女の被害を免れ、恐ろしくも神話じみた光景を一部始終見ていた、淡く赫い光──それは銀の髪を束ねた青年の形となり、魔王軍の服が創造されて彼を包む。唯一の目撃者、フォラウスだった。



「なんて────、神々しい!! 

次の魔王は、あの御方であるべきだ!!」






*****




 数年後。功を焦って人間界に渡航した魔王カストルの代理として、アイオニオスは新魔王となる。



 最年少。歴代最強。冷徹無欠。破壊の権化。

 呼び名は様々あるが1人の少女を指していた。

 無感情に魔王領土を統治する逸材。そんな彼女が久しぶりに興味を示したのは、カストルが勇者に討伐されたという訃報だった。





 彼がわざわざ戦争を仕掛けて。


 アミカを利用しようと企んで。


 その地で命を()してまで、


 人間界でやりたかった事は何なのか。

 それはただの征服では決して説明できないだろう。





 カストルが長い年月をかけ、魔王軍総出で創り上げた異界への扉を、たった1人、数ヶ月足らずで開く。


 人間界への片道切符。

 奈落から染み出したような黒縄色の禍々しい扉。

 自分自身の記憶を消去して、出来るだけ人間に近い肉体に身体(からだ)を作り変えたのだ。


 久しぶりに芽生えた、「知りたい」という感情。

 世界の理、他者の思惑、人間の営み。何もかもを理解せずにはいられない欲望が、胸を貫いていた。



 扉を潜ると同時に自ら理性の系を手放し、その姿は闇の中へと消えていく────。





☆☆☆☆☆




 現在、狭間の世界。



 千草に胸ぐらを掴まれたまま地面に押さえつけられるアイオニオス。その表情は苦悶に歪んだままだ。

 暫くの膠着。シビレを切らした千草は再度怒鳴り声を振り絞る。


「何とか言いやがれ!!」


「っ………」


アイオニオスはわずかに唇を震わせるも、声にならない。直ぐに気配のした方向に視線を向ける。釣られてそちらを見る千草。

 そこには全速力で走ってきた、阿流間、広夜麻、植田、鈴能、神月、石塚、吉川───7人が到着した。

 息切れの荒い呼吸、土埃を蹴散らす足音が、緊張をさらに引き上げる。

 


「碧!! 人間界が……!!!」



クライマックス感強めですがまだまだ続く予定です。

長くて申し訳ないです。

今後ともよろしくお願いします。


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