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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第四章 破滅の少女編
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47話 救いたい。

随分間が空きました。皆さん気温差にお気をつけて。


 土埃漂う“狭間“で、一部は暗雲が立ち込め影に包まれ、他方では激しい火花が弾け、轟音を鳴らしていた。彼らがディストピアと化した城下を駆けていると、大勢の人の騒めきを視認する。

 その殆どが深緑の隊服で見を固め、周囲を警戒しているように見える。


「あれは……国防軍か……!!」


 寿命を引き換えに一度フォラウスを撃退した、瀕死状態の植田を背負う、広夜麻。

 回復魔法の使える鈴能の魔力は底をつき、植田を救うことのできる残った希望は、アオ。彼らは魔王アイオニオスを信じ、賭けることしかできない。


 日本騎士団の連中の殺戮、この惨状を生み出した原因は魔王アイオニオス。彼女は味方か───敵か。


 隊員達の中に、小柄でガラの悪い男を見つけた天原は、息を切らしながら声をかける。


「森壁隊長!!」


 あちらも天原達に気がついたようで構えていた武器を降ろした。が、流石は国防軍第二部隊。完全には警戒を解いていない様子である。


「てめぇは……確かアイオニオスが推薦した……」


 森壁は訝しげに一同を見渡し、天原に目線を戻す。


「オレは天原神月……第零部隊の隊員だ。現在の状況は?」


 天原は冷静にそう聞くと、森壁は鋭く彼を睨む。


「待て。それよりてめぇらが先だろ。なぜここにいる?? 後ろの奴ら……何者だ??」


「わ、私達、霧山さんのク、クラスメイトでっ!! 彼女を説得しに来たん、ですっ!!!」


 珍しく前に出てそう叫んだ有崎。前に出た、といっても天原の影に隠れてはいたが、人見知りの彼女にとって勇気のある事に違いない。

 国防軍第二部隊、隊長。一般人からしてみれば話す事も叶わない有名人に声をかけてみせた有崎に倣い、広夜麻が口を開く。


「さっき、狭間の入口で俺たち、魔人に襲われて!! 敵は倒したんだけど親友が死にそうなんです!! これ、霧山さんならきっと助けられますよね!?」


 背に乗せた、血に塗れる植田を見て目を見開く森壁。


「こりゃ、ひどいな……だが倒しただァ?? 学生が魔人を?? いや、でも狭間の入口ってまさか広島から来たってンなら考えられなくもない、か……」


「え? じゃあ森壁さん、はどこから狭間に……?」


 何か納得した様子の彼に、鈴能は驚きながら問う。


「関東本部、国防軍基地からに決まってンだろ。擬似境界を開発するために第三部隊と第四部隊が徹夜してたんだがなァ……。俺たちは魔王アイオニオスを神級に認定して、勇者と国防軍を総動員させてる。勿論、討伐のためだ。てめぇら、くれぐれも邪魔だけはすんじゃねえぞ」


 直後。森壁のズボンのポケットで通知音が鳴る。


「チッ、李口かよ。お前今までどこに……」


 素早く取り出して簡潔に情報を待つ。が、暫く待っても返答が来ない。

 李口星波は、碧が絡むと情景と異常な執念から命令を無視する事は日常茶飯事だが、上司への報告を適当に済ます部下ではないと、森壁は知っていた。

 彼女の食い気味な声が聞こえてこない時点で感じる、違和感と悪寒。


「……いや、何があった?? てめぇは、誰だ」


 何事かと気になっている様子の天原達にも聞こえるよう、スマホを地面と水平にしてスピーカーにし、よく通る声で相手に聞いた。


『お前……国防軍の幹部ですねェ??』


 誰かが声なき悲鳴を溢した。スマホ越しに聞こえてくるその魔の気配に圧倒され、息を呑む。一瞬にしてその場には緊張が流れ恐怖に満たされる。その雰囲気を無理やり引き裂く森壁の叫び声。


「何者だ!? 李口を如何しやがったッ!?!?」


『あァ、初めまして……。私は崇高なる悪魔族、そして素晴らしき新魔王、アイオニオス様の忠臣!!!』


 その声、その言葉に青ざめ、愕然とする広夜麻。彼の背には未だに意識の戻らない植田。両手で口を押さえる鈴能は地に膝を付いてしまう。当然だ。



「おいおい待てよっ……そんなわけ……!?!?」

「なんっで、生きて!?」



 消滅させたはずの悪夢が、再来したのだから。



『名を、フォラウスと申します!!』



 それは嬉しそうに興奮するように嗤う。彼の声が轟く度、森壁達のいる狭間の世界まで死の香りが漂ってくるようだ。隊員の中にら震えが止まらず嘔吐する者まで現れ始める。それ程までの威圧が空間を超えて伝わる。


『そうだ、お伝えしたい事がある……実は今、天空ターミナルの中にいるのですが、勇者が関東基地へと向かっているそうで………』


「天空ターミナル!? 貴族共がいる所だろう!?」

「待ててめぇ、何を!!!」


 向こうから爆発音が聞こえた途端、通話の切れた冷たい通知音。何が起こったのか理解が追いつかないまま、だがしかし、人間界のどこかが破壊されたという事は確かで、莫大な被害が予想される。


「クソが、まだ話は終わってねェぞ悪魔!!」


 まだ怒号を飛ばす余裕のあるのは森壁ただ1人。天原は彼に軽く視線を移すと静かに確認。


「………森壁隊長、人間界に戦力は?」


「ねぇよ、んなもん!! ………全戦力をこっちに注ぎ込んでる。戦えんのは勇者ぐらいだが、その1人だけだ」


「それってもう、日本終わりなんじゃ……」

「ちょ、やめてくれよ有崎さん!?」

「そんな!! もう、駄目ってこと!?」


 慌てふためき不安を煽られる有崎、広夜麻、阿流間。それを天原が凄むと、3人はすぐに口を閉じる。


「落ち着け、まだ方法はあるだろ。

それで、隊長………残ってる敵は??」


「魔王アイオニオスに、坂の野郎から報告のあった天原輝夜、それにフォラウスかよ……クソが、圧倒的に人手が足りねェな」


「それなら……オレに良い考えがあるよ。コイツらも元々そのつもりだろうしな」


「あ"?? 言ってみろよ、クソ餓鬼」


 森壁は天原に詰め寄り微かに見上げると、持ち前の吊り目で睨みつける。天原は、ふ、と息を漏らすと強い光を宿した表情で口角を上げた。




「予定通りアイオニオスを仲間にする。だから……邪魔だけはしないでくれよ……森壁隊長?」





*****





「記憶が戻るだけで、ここまで強さが変化するとは………本当に、驚かされてばかりですね、アオさんには」


「…………その名で、呼ぶな」


 刀とナイフの合わさる金属音と目で追うことの出来ないその軌跡。

 彼らの戦闘による周囲の破壊は凄まじく、誰1人近づくことはできない。

 それは、遠くで市川に預けられたジャケットを持つ千草も同じ事だった。


(あの2人の間には入れねぇ……入れば、即死だ。俺は、足手纏いにしかならない……っ!! でも俺は)


 アイオニオスの額に汗がにじむ。千草がこれまで見てきた彼女。心底楽しそうに笑い、常に冷静で、踊るように解放されたように戦う、そんな姿はどこにも見当たらない。彼女が本気で相手と敵対するならば、こんな、苦しそうな顔は絶対にしないはずなのだ。


(俺を救ってくれた恩人を、救いたい!!)


 ほぼ互角だった市川とアイオニオスの均衡が、崩れ始めている。

 堕神族である彼女と人間の市川では身体能力も魔力の差も歴然。市川の体が、既に人間の限界を超えていたからこそ戦いになっていたのだ。あとは経験と技量、覚悟の違い。


 市川の脇腹を、アイオニオスの刀が掠り、深い傷を作る。その隙を見逃すまいと追い打ちを仕掛けた瞬間、彼女が動きを止めた。


 千草との出会いで、彼女が彼を気にかけ始めた、忘れかけていたその理由。

 この土壇場で、千草はその真価を発揮する。記憶を失っていた頃のアオに匹敵する魔力量。それはアオや市川、国防軍との特訓を経て異常なまでに成長し、今では、



 アイオニオスを警戒させるほど。

 そう、彼女が、脅威と認めるほどに。


「界さんっ!?」


 市川が叫び声をあげる。居合の要領で親指で刀の鍔をきると一直線に距離を詰めたアイオニオス。白髪が舞い、そこに走る一筋の黒い髪が一際目立つ。瞳孔が開き彼女の刀が神速に閃く。


「魔力全開放、個人魔法《歪界転位》!!!」


 輝き透き通る虹の魔力が千草から弾け、世界を焼き焦がすように照らす。千草の掲げた掌に液体のように凝縮されていき、力強く風が吹き上げた。体の周囲に花火のような魔力の雫が光る。空の暗雲の隙間から日光が差し込んだと思えば、アイオニオスの不可避の斬撃を、一瞬にして消し去った。


「はあ!? いま、どうやって、というか…………何、その魔法」


 驚きを隠せずに目を見開いたアイオニオス。


 目の前には、透明の壁。

 シールドのようにも見えるが全く違う比較できない高度な魔法。

 彼の個人魔法《歪界転位》。彼はただの転移魔法と誤解していた。

 しかしこれは、世界ごと切り取り、異次元空間に隔絶させる魔法。魔力の尽きない限り制限がなく───次元を操作するので彼への攻撃は、ほぼ全て防御される…………まさに人類の研究の結晶である。


「うわっ何だ、この魔法!? えっ俺光ってる、のか?」


「…………え?? 自分でわかってないの??」


「い、いいだろそこは!! つーか!! 普通に話せるんじゃねえか!!」


 思わずといった様子でツッコむアイオニオスに反射的に叫ぶ千草。それにむっと顔をしかめた彼女は再度刀を抜く。


「魔王だよ私は。邪魔をする君たちは殺さないと………」


「魔王だからなんだ!? 今のお前は全然怖かねえし、記憶無い時の方が不気味で仕様がなかったよ!!

それでもお前は、南本さんが死んだ後初めて俺を真っ直ぐ見てくれた奴だ!!」


「君、それ以上喋ると本当に…………」


 そう言いかけたアイオニオスの目前に、千草は立っていた。それは魔法による次元移動。

 当然、彼女のような生命体が認識できるはずもなく。


「アホがぁっっ!!!!!」


 彼女が反撃する前に、千草は胸倉を掴んで全力で地面に殴り押し倒した。

 地面は抉れ、アイオニオスは軽く呻き声をあげた。すぐに体勢を整えようと千草の腕を掴むが、千草にはその腕が潰れても決して手を離さない覚悟があった。彼の瞳に宿るその気迫に、アイオニオスの肌には再び汗が伝った。ただの人間が、そうさせたのだ。



「殺すとか殺さないとか、もう考えねえで戻ってこい!! 俺たち、仲間だろ!? アオ!!」



「仲、間………」



──仲間。アオ。殺す。死んだ…………アミカ。



 脳内に廻るのは過去の過ち、そして怒り。

 魔王アイオニオス。これから紡がれるのは、魔界で、孤高の最強になるまでの、



 “アオ“が誕生した物語。


 

次回はようやく、魔界での回想。アイオニオスの過去が明かされる。


もし少しでも面白いと感じて頂けましたら、感想ブクマ、リアクション、お待ちしています(*'▽'*)

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