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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第四章 破滅の少女編
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46話 怪物たちの共演

(毎度ですが)遅くなり申し訳ありません。

今回から第四章に突入します。※グロ描写有り


更なる絶望が、人類を襲う。


 冷え込んだ風が“狭間“の廃墟となった建物に触れ、音を鳴らす。乾いた静寂はどこか遠くに聞こえる戦闘音で引き裂かれ、荒れ果てて影も形もない街並みと、倒れ込む1人の少年が視界に映る。


 暴虐の化身は密かに身を潜め、アイオニオスは、ふ、と息を溢した。鋭く見据えながらも、告白に困惑する千草と市川の視線を感じる。



「堕神……てか神族って空想の種族なんじゃ……」

「しかし、それ以外に答えが見つかりませんね……」



 アイオニオスの瞳に、わずかに影が揺れる。過去の記憶の断片が、胸の奥でざわめく。


 魔界に落とされ、魔王カストルの子として生まれ変わった日々。神の力を押し付けられ、暴力を振るわれ、絶望の中で目を閉じた瞬間の痛み。



 ───アイツはなぜ、人間界に執着したのか。



 蠱毒のような怒りと、後悔と、それを超える探究心が、アイオニオスの胸の奥で小さく、確かに燃えている。



「逃げるなら追わない。君たちを殺すつもりはないよ」



 その言葉を聞いた市川の眉がぴくりと反応した。手の震えている千草に自身のスーツを投げ渡し、ネクタイを緩める。

 腰に構えた拳銃と、首に彫られた薔薇のタトゥーが夜気に晒される。


 殺気を込めた視線をアイオニオスに送ると、有り余るほど長い足を瓦礫の上で擦りながら大きく前へ踏み出す。

 落とした姿勢は、獲物を狙う獣のそれ。相変わらず無表情ながら、魔王を前にしてなお煽るような冷え切った瞳。


 普段の冷静さからはとても想像のつかない姿に千草は彼に渡されたスーツを強く握る。

 心臓の鼓動が外に漏れ出た瞬間、2人に殺される。喉は乾き切り、千草は理解させられた。



 目の前に立つのは「魔王」と「マフィア」。

 人の理を逸脱した怪物同士なのだ、と。


 今、彼が動ける隙は、ない。

 


「甘いですね…………アオさん。俺が横浜マフィアの頭領だということを、お忘れで?」



 それが合図になったのだろう、ホルスターから素早く拳銃を抜いた市川はアイオニオスに容赦なく銃弾の雨を降らせる。


 しかし彼女は足元の瓦礫すら動かぬほど静かな立ち姿のまま、閃光のような速度で刀を振り、全てを両断。灰色の街に散った弾丸の火花が、線香花火のように弾けた。





「君じゃ、私に勝てないよ」






*****






───場面は変わり、同じ頃。




 国防軍の作戦本部では、モニターに赤い魔力反応が点滅し、電子音が鳴り響いていた。

 蛍光灯に照らされた部屋には紙コップのコーヒーの匂いと、キーボードを叩く乾いた音だけが混ざる。



「第一部隊調査班によると、日本騎士団は全滅!! 我々国防軍も多大な被害を受けている模様!!」



「狭間内で市川隊員、千草隊員が魔王と遭遇!!

並行して伊津隊長、坂隊長が魔王に匹敵する魔人と戦闘中です!!」



 隈の浮かんだ目で必死に入力を続ける隊員。


 その背後から片手にコーヒーを持ち、眼鏡をかけたこの部隊の隊長────時薪が画面を覗いた。

  眼鏡の奥の視線に射抜かれ、隊員は肩を掴まれたまま血の気が引いていき、入力スピードをさらに上げる。



「勇者はまだ到着しないのか?」



「は、はい。いま京都の天空ターミナルから基地へ移動中とのことです!!」


「宮島の境界は不安定だからな……漆原隊長を脅し……いや、研究部隊が無理やり“狭間”の境界を繋いでくれて助かった」


「え……脅したんすか?」



「無駄口を叩くんじゃない」


「イダダダダダッ!?」



 肩を握り潰すように力を込め、すぐに手を放す。時薪は不機嫌そうに眉をひそめた。その場にいた誰もが、彼の目をまともに見ようとしない。




「……で、那原はどこ行った」






*****






 京都上空、天空ターミナル内。


 裏口から侵入した2人の影が動いている。乾いた金属音と、施設特有の薄暗く点滅する蛍光灯。

 近未来的な透明パネルや光学ディスプレイが壁面を覆い、淡く青白い光が滑らかな床を照らす。


 彼らの侵入はまだ、誰にも気づかれていない。

 


「……基地内の境界から狭間に向かうのでは??」


「まぁ、ちょっと野暮用、かなぁ〜」


「野暮用って……。態々ここに忍び込んでまでする事なんですか?? というかなんで潜入出来てるんですか私達は」



 そう訊いたのは李口。霧山碧に憧れ、国防軍に入隊したという第二部隊の女性隊員である。

 彼女を先導し躊躇いなくターミナル内を進んでいく那原。飄々として掴みどころのない第零部隊の隊員だ。



「勇者様は関東基地に向かっているからね〜。京都の結界は十分に維持出来ないんじゃないかな?」



 先程、那原が軽く触れただけで結界が弾けた。李口はその一部始終を見ていたので、違和感を感じながらも、まあそういうものなのだろう、と勝手に納得していた。



「那原さん?」


「ん〜?」



 施設の部屋の場所を熟知しているかのように迷いなく進み、目的の部屋へ辿り着くとその扉を壊す。


 何かしらの制御室なのか、沢山のモニターとボタンがある。那原は整然と並ぶ制御盤のボタンをピアノを弾くように指でなぞり、音もなく足を進める。



 突如────中央の厳重なケースをも破壊。

 その一瞬でターミナルの非常灯が赤く点滅を始めた。なんの脈略も無く行われた明らかに異常な行動に目を剥いた李口。


 那原に向かい声を荒げる。



「ちょっと!? 流石にこれは不味いですよ!?」


「ええ?? これもアオを助ける為だよ〜?」


「だとしても……普通に犯罪……。最悪の場合、死罪になります!! どうするつもりですか!?」




 彼は、穏やかに微笑んでいた。




 非常灯のランプと警報音が喜劇のように那原を照らす。しかし見ている者の背筋を凍らせる、空白。







「それが、何?」







 その瞬間、突然日本の空が白く瞬き、漆黒の霧が都市を覆い隠した。そして聞き覚えのある笑い声。


 銀髪が霧の中で幽かに揺れる。その瞳には血の匂いを楽しむかのような光が宿っていた。




「んふふふふ!! とても良い仕事してくれた……!」




 男はその長い髪をゆっくり後ろへ掻き上げた。彼の醸し出すその雰囲気が場を支配する。


 李口が怒りの表情を見せたその時。


 眼前に現れた魔人に声を発する事も敵わず、頭蓋骨を握り潰された。男の手と血の気のない顔に鮮血と内臓が飛び散る。彼はぷらぷらと手首を揺らすと、彼女の血を払った。



「汚いなァ……しかし作戦成功のようで何より……」



 ゆっくりと舌を自身の唇に這わせ、口元についた返り血を舐める。陶酔した、恍惚な表情。


 ここにはいない誰かに告げるように、顔を上げた。





「“黒煙の悪魔“フォラウス。只今復活致しました♪」





 消滅したかと思われた悪魔が、再び脅威と絶望を、この世界に呼び覚ました。



お読みくださりありがとうございます。

話を引っ張り続けて展開が進まない!?その通りです。


次回、魔王アイオニオスの過去の断片が明らかに──。


評価、感想いつまでもお待ちしております。


連載『天才×転生〜コミュ力皆無の不老不死は普通を目指す〜』

短編『天、声を聴く。』

短編『自分が嫌いな僕のために』

も公開中。ぜひ覗いて貰えると光栄です。

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