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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
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44話 命懸けの覚悟

※グロ描写有り



「僕は…………残りの寿命全てを魔法に捧げる。フォラウス。君を、確実に殺すために」



 狂気とも取れる植田の決意に鈴能は絶句するが、広夜麻を癒すその手は止めない。

 彼女の指先は震え、焦燥に喉が焼けるようでも、ひたすら丁寧に傷を閉じ続けた。回復魔法を施している間は、その場から動く事は叶わない。


 魔法を止めれば広夜麻の命が零れ落ちる。だから彼女は、恐怖で膝が崩れそうになっても、手を止めることができなかった。



(あと少し……あと少しで治せるのに……!!)



 その様子を見下ろすフォラウスの口端が、ゆっくりと歪む。



「命を削り尽くすその姿……人間とは本当に、愚かで愛しい。ふふ……良いでしょう。敬意を払って差し上げましょうかァ、植田玲」



 そして彼は────自身の肘から先を切り落とした。


 骨が砕ける嫌な音と共に、水面には血の赤黒い花弁が咲き乱れ、じわじわと魔法陣の紋様へと変じていく。


 やがて魔法陣は、地獄の呻き声と共に完成した。現実そのものが軋み、空気は硫黄の悪臭を帯びる。


 亡者の嘆きが響き渡り、植田と鈴能の耳を裂いた。



「そ、れは……!?」




「─────血飢の悪魔フォラウスより命じる。《眷属召喚:喰魔(ガーラ)》」




 魔法陣の裂け目が世界そのものを喰らうように広がり、空気が逆流する。影が溶けては流れ込み、魔法陣の裂け目から、複数の黒い塊が這い出した。



「さァ、絶望し、醜く踠いて、泣き喚きなさい♪」



 それは人の形を微かに真似ながらも、得体の知らない魔物。


 意味をなさぬ呻きを重ね、血を求める舌を垂らしながら、喰魔は影の稲妻のような速さで植田に飛び掛かった。



「………っ!!」



 腕、足、肩などに噛みつかれて多量の血を流す。


 唯一の幸運は、植田自身の魔法《規則》のお陰で感覚を封じている事だ。しかし、その魔法が切れた瞬間、彼は想像を絶する痛みと共に事切れるだろう。


 もう、終わりにしたい。普通の人間ならば、そう考える状況。




 植田の脳内に、余念は無かった。




「悪魔を殺し、で……遊太を、助げな"ぎゃ……」

 



 吐血をしながら発したその言葉には───呪いのような執念が篭る。折れていない方の片腕も痺れ、杖を落としてしまう。それでも彼の眼光は失われない。



 ずるり。



 血の跡が水面に残る。


 一歩。また一歩と足を引き摺り、前へと踏み出す。喰魔に肉を食いちぎられても、骨が折れても、増やした魔力で補完した。



「汝の願いを"、聞ぎ入れ、だま"え"……」



 掠れ声で詠唱。片手に魔力が集中していく。







 一方で、回復魔法を施した鈴能。光に包まれた広夜麻がゆっくりと目を覚ます。


「鈴能、先輩……? 俺、生きて……」


 驚きで目を見張る広夜麻は、一点を見つめ反応のない鈴能に、もう一度声をかける。


「────先輩?」


 彼女の目線を追う。植田の姿を目撃した。



「俺の、せいで………」



 喉が詰まり、声にならない。瀕死の中でなお絶望を拒むその背中に、広夜麻は息を呑む。


 その姿はまるで、伝説の勇者のようだった。



「玲……頼むから、死なないでくれ……」







 瀕死の中でも全く絶望の色を見せない植田。その姿に混乱と動揺でフォラウスの瞳が揺れる。



「本当に貴方は、人間とは思えない……なぜ諦めない?? なぜ、その体で前へ進もうとする!?」



 不確定な何か。これまで殺してきた人間とは、何か、根本的に違う。無自覚に、フォラウスが一歩後退した。その隙を見逃さない。


 目の前に到着した植田が彼の三叉槍を奪い取り、フォラウスの心臓にぶっ刺した。



 片手に溜めた魔力の閃光が、槍を走る。





「光魔法ッ………《祓魔》……っ!!!!」





 刹那。槍を伝って奔った光が、血に濡れた穂先を白銀に染め上げる。



 その輝きはまるで、地獄の闇を裂く裁きの聖火。



 フォラウスの絶叫が空気を震わせた。

 それは痛みか、恐怖か───自らが“人ならざる何か”に怯えさせられた、悪魔の叫び。





 心臓に槍が突き刺したままその場に崩れ落ちる植田。


 フォラウスもまた、直立したまま体が灰となり始めている。喰魔の姿が液体となり泥のように溶けていった。



 鈴能は小さく息を漏らす。



「勝った……植田くん1人で……悪魔に……」



 その時、フォラウスが咳き込み、頭上を見上げた。いつの間にか空には暗雲が青空を覆い隠している。



「───っ!??」



 広夜麻と鈴能が同時に振り向く。




「ふ、ふふふ、んふふふ!!! 脆弱で、下位互換の、人間の攻撃など……到底、悪魔族に及ぶはずも」




 その瞬間。




「「汝の願いを聞き入れたまえ、個人魔法」」


「《解析》!!」「《遊戯》!!」



 コツ、とフォラウスの頭上に当たって水面に浮かんだ、3つのサイコロ。その目は────666。




「ははっ、魔界に還れ屑悪魔!!!」




 広夜麻がそう叫ぶと、薄暗い雲が罰を下すかのように、フォラウスに雷を落とした。


 彼の視線には覚悟と恐怖が混ざる。その瞳に映るのは、悪魔を前にしても揺るがぬ植田の姿。








 雷鳴と共に、



 世界が彼らの勇気を証明した瞬間だった。









 今度こそフォラウスが消滅したのを確認した2人は、すぐに植田に駆け寄った。



「玲っ!!!」



「生きてるんだよな!? 心臓動いてるよな!? あぁ〜っ、俺の心臓がうるさくて聞こえねぇ!! 鈴能先輩、治してくれてありがとうございますっ!!」


「広夜麻くん一旦落ち着いて!? 無理しないの!」




 息を荒げた広夜麻を、鈴能が宥める。

 植田は消えずに残ったフォラウスの三叉槍を握ったまま動かない。



「玲……何で、動かないんだよ」


「広夜麻くんが気絶していた時……植田くんが言ってたの。魔法で、寿命を犠牲にした、って」



 騒がしく勝利に歓喜したのから一転、愕然とする広夜麻。



「───先輩、残りの魔力は?」


「悔しいけど、もう、ないよ」



 広夜麻は小さく息を詰め、震える手を植田の口元にそっと添えた。植田の戦いの傷跡は生々しく、しかしその胸の奥には、まだ小さな生命の灯が揺らめいていた。深呼吸をひとつ置く。

 まっすぐに鈴能の瞳を見つめるその視線には、必死の覚悟が見えていた。




「まだ息はある。玲を、霧山さんの所に連れて行こう。きっと、治してくれるはずだ」




明後日までに更新。


次回は焔vs神月・石塚・有崎。

千草・市川がアイオニオスと遭遇!!

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