表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
44/53

43話 敵のはずなのに

遅くなりましたが43話。

毎回書いていますね、申し訳ありません。


「浪崎ユウ」で、X始めました↓


https://x.com/namisakiyuu?s=21




 阿流間 vs 江山、黒滝、吉川サイド。




 苦しみもがき人形のように動かなくなった江山。

 そして黒滝も、彼女に近づいて塵となり、風に消えていく。

 消える刹那、黒滝の目だけが必死に助けを求めて動いた。けれど伸ばした吉川の手は、空を掴むようにすり抜け、何も届かなかった。




 二人とも、死んだのだ。




 吉川は顔を青ざめさせながら後ずさり、肩を上下させている。視界がぶれる。



「嘘だ」



 小さく、しかしはっきりとそう呟いた。



「嘘だ、嘘だ、嘘だ、噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ────、こんなあっさり死ぬわけ……」


「哀羅ちゃん」


 ぐしゃぐしゃな顔で息を荒げ、大粒の涙を零す吉川の手を、阿流間は固く握る。

 彼女の顔もまた、いつもの溌剌とした笑顔が消えた酷い顔で、息をするのもやっとだった。

 しかし無理やり、吉川に優しい笑みを浮かべる。



「……少しだけ、話そう?」


「……っ、うん」



 阿流間の珍しく穏やかな口調に、今は敵ながら妙に安心感を覚えた吉川。


 頭の中では、運命が捻じ曲がったあの日────、




 12歳の、千草を“家“から追い出した瞬間に遡る。




☆☆☆☆☆




「清々したよ。界がいなくなってさ。なぁ? 哀羅」


 最年長の アキ が吉川に訊く。


「うん……そうだね」



(そんなこと、思ってないのに)



 南本リーダーの“家“で養ってもらっていた子供たちは、南本さんが国防軍だと知った。

 千草界はその関係者で、金持ちの分際で孤児の自分たちを見下してたんだと、子供ながらに理解した。



 不良グループ“ゾンビ“を千草と共に纏めてきたアキは、空高くに拳を掲げる。



「貴族狩りの千草はもういない!!

 これから俺たちは自分の力で生きていくんだ。俺が、何が何でも下民階級から這い上がらせてやる!」


「おおおおおおお!!!!!!」


 孤児達の歓声とは裏腹に、吉川の心の中には、不満と違和感が募っていく。



(なんで? 界やリーダーをそんなに簡単に切り捨てられるの? 何年も一緒にいたのに)



 ただ不思議でならなかった。

 吉川は先頭に立つアキの元まで駆け寄る。


「アキ!!!」


「ほんとに、これでいいの?? 界もさ、何かがあったからここにいたのかもしれない。一応様子を見に行った方が……」



「何言ってんだ? 哀羅てめー」



「俺達は“ゾンビ“だ。何回やられても立ち直らなきゃいけない。過去を振り返っても意味ねーんだよ」


 南本を1番尊敬していたはずのアキが、そう言い切った瞬間、胸がざわついた。────何かがおかしい。

 しかし、この時に感じた違和感は、界の話を聞かずに追い出してしまった罪悪感と後悔に押し潰され、すぐに消え去ってしまう。


(何か、言わなきゃ)


 ひとつ年上のアキに物を言う事が出来るのは、昔からの付き合いである、吉川だけなのだから。



「ゾンビ……。それ、南本さんが付けてくれた名前だよね。これからも、使うの? リーダーに……悪いとか思わないわけ?」


「だから教えてくれた通りにするんだろうが。リーダーは死んだんだ。こいつらはガキだからまだ整理できなくても、てめーならわかるだろ? これからは俺たちがガキ共を導かなきゃいけないんだ」



「────つぅか」



 切り株から飛び降りて下から睨め付けるような視線。茶髪で片目が隠れるが、背筋の凍る威圧感。



「突っかかって来るなよ、俺よりガキのくせに」


「え………?」



(普段のアキは、こんな事は言わない)



「あいらお姉ちゃん────、だいじょうぶ?」



 視線。視線。視線。


 全員の視線が空虚で、恐ろしい。




(あ、これ───────、 ムリだ )




「哀羅!!??」「あいらお姉ちゃんっ!!??」



 脇目も振らずに逃げ出した。

 視線が怖い。背中に突き刺さる純粋な目が、化け物のように醜く冷たい。


 その視線は、吉川の足を勝手に走らせる。




 “家“を出た後も、街の中を走り続けた。

 帰る場所なんてどこにもない。孤児だから。


 追われているわけでもないのに、背後から何かが迫ってくる気がしてならない。

 訳の分からない不安に掻き立てられながら、ただ逃げ続けた。



 鉄の門で外界を隔てる、大きな屋敷。

 まるで監獄のようなその屋敷の道を通った時、誰かに腕を掴まれる。


 振り解こうとするがビクともしない。



「誰っ!?」


「───ねえ、君」






「ボクが養ってあげようか??」






 それが彼女がこれから出会う中で最悪な人物。


 “天原 輝夜“との出会いだった。




「君を貴族にしてあげる代わりに、ある少年を絶望へ堕としてほしいんだ」




 彼は、光の灯らない瞳で悪魔のように囁いていた。




☆☆☆☆☆




 過去の記憶を引き摺り出した吉川は、握りしめた阿流間の手をそっと離し、脳を駆け巡る。




(魔高に入学して、蜜世と真維に出会い、あかりと出会った。私は1学期で退学になった……あれ?)




 涙は既に乾いていた。そして、気がつく。




「────これ、もしかして全部」




「「天原輝夜のせいだ」」




 シンクロする阿流間と吉川の声。




「っア"!?」



 心臓が激しく膨張するのがわかる。それを直接握られたような輝夜の殺意。

 全身の脈が浮かび上がり、痙攣。


 後ろによろめくが、力が抜けたように膝から地面に崩れ落ちる。




「そうだ、そうだよ、あいつのせいで……アキも、蜜世も、真維も────界も!!」



 今にも意識を失いそうな彼女の瞳に涙が溢れる。

 その目には、明らかな後悔が映っていた。



「哀羅っ!!!!」



 阿流間の焦った声も、苦しむ彼女に届かない。

 脳を思考を掻き回して打つべき手を考える。


(何か何か何か、何か!!! 哀羅を、哀羅こそは、私が助けなきゃ!!)



「《炎帝》!!!」



 発動した個人魔法で炎を操ると、吉川を覆う。

 その魔法は彼女を燃やすのではなく、皮膚を、筋肉を、血管を伝い、中へ中へと入っていく。


 そうして発見したのは、吉川と違う黒い魔力。




「炎の化身よ、どうか汝の願いを聞き入れたまえ!」




 バチッ、と糸が途切れたような音が弾けた。

 吉川の体内で漆黒の火花が色鮮やかに轟いていく。


 言葉も発せず喘いでいた吉川は、解放されたように勢いよく咳き込む。

 ”輝夜と吉川の繋がりのみ”を焼き切り、遠隔魔法を断ち切ったのだった。




 2人の荒い息の音だけが、

 その場の空気を静かに満たしていく。




 我に返った阿流間は、よろめく足取りで何度も躓きかけながら吉川へ向かった。

 魔力の酷使によって鼓膜からは血が流れだし頭痛を苛まれる。


「あいっ、らっ、哀羅、大丈夫!? い、生きてるっ、よねぇ……!?」


 阿流間が声をのみながらも転ぶように抱きつくと、震える腕でそれに応える吉川。

 掠れた声を零す。その吉川の瞳から海のように流れ出る涙。


 しかし彼女の口元は微かに上がっていた。



「敵のはず、なのに……。飽きるぐらいみんなを裏切ってきた、クズ、なのに」




「お人好しすぎるよ、あかり」





 絡めた腕をさらに強くした。





「生かしてくれて、ありがとう…………!!!」


「どういたしまして……哀羅ちゃん!!」






*****






「魔高の子も、やるね。ボクの魔法を破ったか」


 狭間で感心するように呟く。

 黒い翼に、赤黒い瞳の悪魔族。


「何をよそ見しているんだい? 天原輝夜くん」


 一瞬で彼の真上に飛び出した坂が、右手にナイフを持ち首に迫った。

 躱した輝夜が反撃に出ようと後退するが、先回りしていた伊津の長槍が心臓を一突き。


「君、あまり戦闘慣れしていないようだね、魔人のくせに」


 伊津は馬鹿にするように、にやりと笑った。その直後、背中に強い衝撃が走る。


「えっ?」


 思考が追い付いた時には彼女は地面に打ち付けられていた。余裕の笑みが、少しずつ乾いた笑いへと変化していく。



「噓だろう……?? 

これは───魔王並みの強さじゃないかッ……!!」



 空中に浮かぶ坂の目の前で、輝夜の心臓についた傷がゆっくりと時を戻すかのように再生していく。

 坂は目を細め、腕を軽く前に出した。


「これは僕も本気を出していかなきゃいけないな…………個人魔法、《(シャドウ)》」



 坂の魔法により、建物の瓦礫の影が伸び、薄暗い大空を黒が支配し広がっていく。

 前後左右もわからなくなるほどの影を生み出し、伊津の周囲は彼女を助けるように柔らかい影で包む。




「ボクを殺してみなよ、国防軍最強。できるものなら」





*****





 彼らの反対方向、魔王城の裏側。


 白髪の少女は、ひとり虚ろな深海のような瞳で天を仰ぎ立ち尽くしていた。



「誰?」



 首を少し傾け、片腕のみで長い杖を振ると、問答無用で気配の近くを破壊する。

 そこから現れたのは。赤と白の混じった短髪に金輪をかける、白い羽を生やした少年。


 先程の少女の攻撃でも、塵一つ付いていない。



「Είμαι εδώ για να σε παραλάβω.…………魔王、アイオニオス……」



 しかしその姿は、兼得凪のものだった。

 普段の明るさも純粋さもどこかへと消え、ただ機械のように言葉を繰り返す。



「へぇ、まさかと思うけど…………、天使族の末裔だったんだね。驚いたよ」


「《時衝静遁》」



 兼得凪─── 天使・Ηρεμία(イレミア) は個人魔法を発動し、時間を止める。

 しかしその静寂の領域は、アイオニオスが小さく息を吐くことによって、途端に破壊された。



「息に魔力を込めた。私に同じ魔法は通じるわけないでしょ。なんでわからないかな」



 体を解放された彼女が少しいらついた様子で淡々と話した。

 同時に殺意を放ちながらΗρεμία(イレミア)の首に手を伸ばす。




「君より兼得の方がずっと強いから。あいつを、天使如きが侮辱するな」




 アイオニオスは彼の表情を見た瞬間、手に躊躇いをみせる。




「ア、オ…………さん…………」




 Ηρεμία(イレミア)は、泣いていた。

 彼自身も理由が分からず、頬を伝う雫をただ指先で拭う。



 アイオニオスは顔に怒りや悲しみの混じった色を浮かべた後──────、



 静かに瞼を落とし、すぐに無に戻した。





「消えて、外道天使」





フォラウスや焔の方の戦いも次回で終わる……!!

(かもしれない)


どうかお楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ