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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
43/53

42話 全ての黒幕

前話で日曜日に更新と言ったにも関わらず、色々予定があり、遅れてしまいました。

申し訳ありません。

根気強く完結まで連載するので、どうかこれからも応援よろしくお願いします。


 凄まじい熱風で空気が激しく揺れた。

 3人のフードが風に吹かれて、顔があらわになる。


 限界まで熱くなった鉄板を直接打ち付けたような、酷いやけど跡だ。よくみると、それは顔だけでなく腕や足からにも同様の跡がある。

 あちこちに肉が見え、その都度縫い目がある。

 "狭間"の魔王城でよほど恐ろしい仕打ちを受けさせられていたのだろうと簡単に予想できた。



「どうしたの……、その火傷。まさか、碧ちゃんにやられたなんて、言わないよね……?」



 江山、黒滝、吉川の肉体のぎりぎり使い古された姿に絶句し、《炎帝》を発動させたまま、阿流間が呟いた。



「は、はは………あかり、あんたまだ信じてるんだ、霧山碧のこと」



 ばかげてる、と嘲笑した。しかし阿流間は──、



「だって! あなた達3人と同じ、友達だもん!」



「……っえ」



 江山の表情に動揺が現れる。その隙を見逃さず、炎の奔流を江山に向ける。抵抗はなく、そのまま渦に飲み込まれる。


(避けられない、シールドも間に合わない!! 燃やされる……!!)


 江山は目を閉じるが、その炎は、彼女の体を傷つけることはなかった。ただ暖かく、心地よい。



「あ、かり………ごめん……っ」



(友達は、大切にしなきゃいけない。どんな恐怖に襲われても、どれだけ危険に遭ったとしても、友達を)




(裏切る事は許されない)




 阿流間への後悔と懺悔。自分は誰に敵意を向けるべきだったのか。大粒の涙が溢れ、謝罪の言葉が口を滑りかける。


「っ、あかり!! 私は────」



 その時、彼女の心臓に鋭い痛みが走った。震えがとまらない。自分の中で警報音が鳴り響いているのがわかった。だんだんと激しくなり血液が、内臓が、破裂するかのような感覚を覚えた。


(やっぱり、私は、ただの手駒だった)


「ぅ、ぁあ……」


 言葉にならない音が溢れ、瞳の光が消える。突然胸を抑え地面に崩れ落ちた江山。阿流間はその光景に呆然として硬直する。


「蜜世!!」


 理解も追いつかないままに、黒滝と吉川が駆け寄ろうとした。


「蜜、よ……」


 江山を中心として目の前に黒く薄い膜が現れる。黒滝がその膜に足を踏み入れた瞬間────、


 彼女の体がヒビが入り塵のように粉々に砕けた。吉川は直前で立ち止まり、2度足を踏んだ。



「ど、どういうこと? 何が、起こって……」




 その場は吉川の困惑と共に、静寂が落ちていた。




*****




 草の香りが漂う世界で、天原たちと焔が対峙する。


「精神世界、だって!? そんな魔法を使う人間、君が初めてだよ!!」


 天原は興奮した焔を横目に、背後の2人に話しかける。


「……石塚、まずはお前が仕掛けろ。オレと有崎で援護する」

「はぁっ、ちょっ待てよ!!? この鬼人相手に、俺が前衛か!!?」


「あぁ、主力攻撃が魔法のオレじゃ魔法耐性を持つ魔人には効果的じゃねぇしな。全力でサポートしてやる。それだけじゃ不満か?」


 石塚は好戦的な笑みで、袖をまくった。


「いや────、十分すぎる」


「話は終わった!? いっくよー!!」


 焔は豪炎を自然に身に纏い、一瞬で石塚の目と鼻の先の位置まで近寄る。周囲の草花が一気に燃やされ炭となった。突き出された拳を、石塚は恐るべき反応速度でその場で回転。勢いをつけ、そのまま焔の腕を掴み吹っ飛ばす。地面が削れ、摩擦を起こした。


 天原は宙から杖を取り出すと、前に構える。


「光魔法、魔法陣展開……。有崎、援護しろ!」

「え!? は、はいっ!! 個人魔法《階段》!!」


 天原が展開した魔法陣の数に驚愕を見せながらも有崎は杖を構えて魔力を流す。

 彼の数千の魔法陣に、有崎によってさらに重ねられ、焔と石塚の周りを囲むように数を増していく。


「え"っ、これ俺も巻き込まれない?」

「こんぐらい耐えろよ、石塚」

「お前は鬼か!!!???」


「鬼はそいつだ、ろっ!!!」


 そう返しながら天原は展開した全ての魔法陣に、自身の魔力を走らせる。



「はあああああ!? おい待て、まじで俺ごと!?」


「へえ!! どこからそんな魔力量が出てきたの!? すごいなあ!!!! 迎え撃ってあげる!!」



 彼の個人魔法《空想家》は自分の思い描いた事柄をそのまま事象として現実に移すことができ、物質や魔法でさえも想像することができる。

 彼の思考を丸ごと再現した“精神世界“は、彼と最も相性の良い魔法である。


 他者の魔力を吸収して放出を繰り返す天原は、魔力量と個人魔法が全てと言われてきた現代の魔法理論に天変地異をもたらすほどの技術───“魔力の半永久循環“を可能とする。


 慌てて退避する石塚を見もせずに、空中の魔法陣を発動させた。




「光魔法《神罰光雨》」




 轟音を立て、光の矢が豪雨のように降り注ぐ。その神聖なる輝き、光魔法は魔物全体に有効な属性だ。

 人間離れした動きでそれを捌き避けるが、いずれ限界が訪れる。焔の体は大量の矢で貫かれた。効果範囲からギリギリ抜けた石塚は天原のシールドで守られており、無傷だ。


「僕に魔法を当てるなんて、やるねえ!! でも学生のか弱い光魔法で何をしても無駄だ、って……」


 焔はたったいまできた傷口を軽く笑いながら興奮した様子で喜ぶが、いつまでも塞がる気配のない流血部分を見て困惑する。


「何だ、これ!? 再生が遅く────」

「……知ってるかな、焔」


 前に四つん這いに倒れ込み、身動きの取れなくなった鬼人の前に天原が立つ。その横に有崎が並んだ。


「魔物の体は魔力でできているから、もちろん血にも流れているんだ。オレの支配する精神世界ではその中にいるもの全てを操れる。お前のクソ汚い血も、オレの魔力の糧になったってことだ」


「はぁ……!? なんだ、なんだよ、なんなんだよ!!! どいつもこいつも人間のくせにチート魔法を使いやがって!! おかしいんダッ」


 ゴッ、と鈍い音が響く。言葉の途中で天原が蹴りを入れたのだ。驚き、敵意を見せるように焔が天原を強く睨む。


「黙れよカス。そう感じるのはお前が弱いからだろうが。オレの仲間の恩人がお前に殺されたらしいからな……顔の形がわからなくなるぐらい殴ってから消滅させてやるよ」


「────はは!! やってみなよ!!」



(天原神月、こいつはヤバい! その隣の子供の援護も合わせたら今の僕に勝ち目はない。なら……)



 そう考え、焔は魔術を行使する。魔力とはまた少し違う、鬼人に伝わる禁忌の最終手段。




「禁忌魔術────」



「な!?」「ひいっ!? なんで!?」



「《鬼哭絶響》!!!」





*****




 魔物の群れが地鳴りと共に彼らに押し寄せる。

 嚴島神社で展開される戦いに比べ、こちらは純粋な魔物の巣だった。


 市川と千草はすでに数百体を相手にし、ほぼ休む間もなく戦闘を続けていた。息も荒げず冷静に対処する市川と、持ち前の高い魔力で魔法を使い続ける千草。


「ああもう、キリがねえ!!」

「数が多いだけではないですね……全ての魔物の質が高い」


「このままじゃ先に進めないな……」




 大勢の魔物に苦戦するなか、空に人の影が見えた。いや、飛んでいるので人ではない。

 人の形をした何らかの魔物なのだろうと予想する。



 気がつけば、千草は市川の構築したシールドで守られていた。市川がいなければ、殺されていた。



 しかしそのシールドは魔法が当たった部分だけが虫食いのように削られている。

 その周囲にいた魔物達も巻き込み、その延長にはまっすぐに抉れた地面。


 断層のように割れ目が入り奈落と化した。



(なんだよ、この威力)



 覚悟してきたはずだ。今までも何度も感じてきたはずなのに、体の芯が震える。




 確実な“死“への恐怖。




「……落ち着いて、呼吸を整えてください。あれはただの魔人ですから」



 千草の隣で静かに市川が囁いた。それだけで強い安心感が千草の心を支える。



 魔人は、若い男性の姿をしていた。背は高く黒い翼が背中にあり赤黒い瞳。悪魔族のように見える。そして、誰かは判別できないが知り合いの面影があった。


 今までに出会った誰よりも、アオに匹敵するほどの威圧感を持っている。



「これを防ぐか。なかなかやるね」



 男は軽く低い声で呟き、もう一度魔力を収束させると、魔力を纏い地面を蹴る音が驚いた。魔法を発動させる前に、と市川が一人で飛び出していく。



「市川サン!!」



 声に反応して振り返る、と────、



「っ……!?」



 背後に魔法陣を構えた男がいた。




「横浜マフィア頭領、霖────いや市川を名乗っているんだっけ……」




「弱いね、お前」




「────は?」



 市川がナイフを取り出し斬りかかると、男の首を掻き切り鮮血が舞い散る。



 次の瞬間。



 男から嫌な予感を感じ、勢いよく地面に降り立った。鋭い殺気を向けたまま男を見る。



「見覚えがあると思ったら……、天原輝夜、か」

「天原輝夜……お前が……っ!!」



「神月さんと、よく似ていらっしゃる」



「知ってるんだ、嬉しいなあ。ボクの弟は国防軍に入ったんだよね? どんな感じなんだ?」



「神月さんは……とても優秀な方ですよ。天原輝夜、お前が魔王軍側にいるかも知れないと伝えた際にはとても衝撃を受けていました。そんなことより、お前」


「────神と契約していますね」


「神と……?」


 千草が不思議そうに呟くと、男──天原輝夜がくつくつと笑った。



「よくわかったね。でも君は少し勘違いをしている。人は神と契約して魔人となることが出来るけど、ボクは元から魔人だ。死神と契約して人間になった……魔王の側近という立場を捨てて、計画を実行するために、ね」


「なんだと……!?」



 いきなりの情報に驚愕する千草。さすがの市川も予想外だったようで険しく目を細めた。



「ああ、だけどこれ以上、君たちに話すつもりはないよ。一生徒とマフィアごときには政府との交渉もできないだろう。だから────ボクの邪魔はしないで頂きたいな」



 構築した魔法陣に何かを書き加え、ぐおんと空気を揺らした。

 千草と市川は警戒を引き上げる。彼らの限界まで。


 素早く動いたのは市川。二丁の拳銃を取り出し構えた、が、千草がその腕を引く。



「落ち着いてください市川サン!! 今やるのはそいつを殺すことじゃねえ!! 個人魔法《歪界転位》!!」



 空間が歪んだかと思うと、輝夜の魔法が発動すると同時に、その場から千草と市川の2人が消え失せた。


 輝夜の魔法の衝撃が世界を駆け抜け、アオの攻撃跡で荒れ果てた世界をさらに深い地獄へと変えた。再生不可能なほどに物質が凝縮されその場が壊される。


 魔法による砲撃を終えた輝夜は息をついた。



「────逃げられたか」



「「誰が、逃げたって??」」



 重なった男女の声と、大きな長槍と短刀。

 無防備な背後から話しかけられ、輝夜はゆっくりと後ろを振り向く。そこにいたのは。



「そこのにいちゃん、私と遊ばないか?」

「僕の相手も、ね?」



 国防軍第一部隊、隊長、伊津 明響。

 国防軍第零部隊、元隊長、坂 秀成。



 国防軍最強のタッグが、今ここに再設された。



ご視聴くださりありがとうございます!!


登場人物が多すぎると自負していますので、読み返すことを強くおすすめ致します。


次回はアオを登場させたいなぁ。

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