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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
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40話 逃亡

夏休みって……なんなんでしょうね……。



 阿流間の前に立つ、フードから黒髪を覗かせた少女が何やら文字が書かれた正方形の札を取り出し数枚に浮かべた。そして彼女の両隣の二人と阿流間の周囲を囲み、魔法陣が形成される。

 それぞれが繋がって輪を作り白く輝いた。黄色のポニーテールが照らされる。


「や、ば……!? これ!?」


 阿流間がそう叫ぶと同時に景色が移り変わる。




「分断して一人ずつ……作戦通り」



 阿流間が飛ばされたのは背後に五重塔があることから、嚴島神社から少し離れた場所、"塔の岡”辺りと推測できる。が、地理のテストなど毎回赤点ギリギリの阿流間にそんな事はわからない。

 仲間たちと分断され一人残された不安と焦燥が彼女の心を埋め尽くした。3対1。


「あかり、急で悪いんだけどさ」


 茶髪の黒フード───、江山が掠れた声で呟く。



「何も聞かずに、死んでくれないかな?」



 阿流間は混乱する頭を無理やり落ち着かせた、と自分に言い聞かせ、山ほどある疑問も衝撃も恐怖も、まとめてどこかの脳の奥に放り込んだ。


 今は、やるしかない。


「ごめん、それは、できないの。蜜世ちゃん、何があったのか、詳しく話してくれない??」


「……せない……話せないのよっっ!!!!」



 叫んだ江山が杖に魔力を込める。

 それと同時に、阿流間が杖を地面に突き立てた。柄に散りばめられた小さい魔石の欠片がオレンジ、赤と光り輝く。


(あかりの個人魔法。1学期から仲良くしていたけど見たことがない。成績は良い方じゃないから、戦闘には向いてな……)


 そう心の中で推測した吉川は阿流間へ駆け出した足を止める。

 表情はフードで見えないがひどく驚いているようだ。


「汝の願いを聞き入れたまえ……個人魔法、《炎帝》!!!」



 阿流間あかりの個人魔法《炎帝》。

 それは、人間界で最初に創られた7つの個人魔法のひとつである。阿流間家は代々その魔法を受け継いできた。

 今では個人魔法も複雑に多様化していき、チートとも思える魔法が増えている。


 が────、果たして、単純な威力はどれが高いと言えるのだろうか。



 阿流間の体に竜のような炎が渦巻く。美しくゆらめき、力強く燃え盛る。



「お願いだからみんな、正気に戻って!!!」



 自らを焼き尽くすほどの”灼熱”を生む魔法。その力を、阿流間あかりはこの日初めて、戦場で解放した。


 かつての“友達“を、取り戻すために。




*****




「阿流間……!!」



 彼女がその場から消えてしまったのを見て、植田が叫ぶ。気配を感じて背後を振り返った。


「────余所見をしていいのか?」



 慌てて腕を構えるが、植田はそのまま吹き飛ばされる。水面を、地面を擦り、全身を打つ。



 「い"ッ、あ"ァあああっ!???」



(一撃で腕を、折られた……!?)



 「植田くん、平気!?」



 駆け寄る鈴能を片手で制する。



「大丈夫です!! 先輩は遊太を頼みます!」

「……わかった。個人魔法、《解析》」



 鈴能は広夜麻に個人魔法を使う。彼女の視界でチカチカと細かい光の粒子が弾け、魔力の流れが読み解けた。深呼吸。


 彼の心臓の辺りに手を翳して、静かに魔力を流した。広夜麻の魔力と混ぜ、繋ぐように。


 傷口に光が灯りゆっくりと血が止まっていく。


 フォラウスと対峙する植田は、痛みに顔を歪めながらも杖を出した。

 3分間、自分に条件を課す代わりに相手の行動を制限する植田の個人魔法《規則》。



 彼は惜しむことなく発動する。



「遊太を傷つけたことも、碧を魔王にしたことも、絶対に許さない……個人魔法《規則》!!!」




☆☆☆☆☆




 広夜麻遊太は、幼馴染だ。

 貴族の家に生まれた僕───植田玲は、毎日が窮屈だった。


「将来のため」


「あなたのため」


「家のため」


 そんな言葉に飽き飽きし、うんざりしていた。


 貴族といっても、主に2種類ある。

 魔王との戦争で活躍した者の家系と、王を補佐する立場にあり政治を回す家系。僕の家は後者だった。


 僕は元々少し色素が薄かったようで、赤子の頃に髪を黒に染められた。貴族のパーティーにはどんな相手にも平等に接し、笑った。学校にも行かず、家で礼儀作法の勉強をした。

 少し両親をからかおうと、本で読んだ荒々しい口調を真似した時には、怒鳴られ、1ヶ月間、部屋に閉じ込められた事もあった。



 そうして5歳の時、やっと気がついた。



 この家は異常なのだ、と。




「お前は優秀だから、我々の家系は安泰だな」




 食卓に着いた時、父がそう呟いた。両親の浮かべる無機質な笑みが、器に盛られた料理と同じくらい冷たく感じた。


 僕は家を継がせるためだけの、ただの道具。

 誰も息子のことなんか、考えていない。


 その夜、僕はこの五階建ての家を抜け出した。個人魔法を家全体にかけて、時間内僕の存在に気づかないと制限し、制限時間を30秒に短縮した。


 自分の部屋には窓がないので、応接間の窓を開け、あらかじめ作っておいた破ったカーテンを結んで繋げたものを垂らし、脱走。



 そこからは地獄の鬼ごっこ。


 夜中じゅう追手を撒いては見つかり、また走る。



「しつこいな……うわっ!! ごめんなさ……」



 背後を確認していると、誰かとぶつかり倒れ込む。咄嗟に謝ろうと前を向くと、彼と目が合った。



「こっちこそ、ぶつかってごめん。てか大丈夫? うわぁ〜、めっちゃ服汚れてんじゃん」


 同じぐらいの背丈の少年。本気で僕を心配している目で「怪我してないか?」と訊いてくる。



「汚れてるのは別にいいけど……、僕、今すぐどこかに移動しないと……」


「俺は広夜麻遊太。見たとこ家出でもしてきたん? 行くとこないなら、俺の家に来なよ!!」



 彼は僕の言葉を遮り、名乗った。

 警戒心の欠片もない、屈託のない笑顔。その笑顔に釣られ、固まっていた表情筋が働く。



「いいのか?? 君のご家族の了承とか…… 」


「全然平気!! 行こうぜ!! すぐ近くなんだ!」



 こいつ絶対バカだ。叱られるに決まってる。でも愚かって意味じゃなくて、純粋無垢。

 そんな言葉が似合う少年だった。



 僕は彼に言われるがまま、家に上がり込んだ。



次回は今週の平日中には……。

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