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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
40/49

39話 いざ、開戦

また更新遅くなりました。すみません。

PV減ってきてるの悲しすぎる……。


「神級、でございますか!?」




 表現するべきは、天空ターミナル。


長い年月を経てもなお未だに観光名所として栄える“京都“の上空には、巨大な円盤が浮かんでいた。それも今となっては常識である。

 小学校の地理問題にも出題されるほどだ。




 円盤の底面にはホログラムが映し出され、景観を損なわぬよう実際の空と全く同じものが投影されている。


 しかしそこに入ることができるのはごく一部であり、日本でも上層部、国王に近い者や上位の魔法貴族しか入ることを許されない。



 その最上階────玉座に座る男。




「そうだ。新魔王アイオニオスを先代魔王同様、神級に認定し、防衛線を張る。現在は先走った貴族の騎士団が“狭間“で戦っているみたいだけど……あの戦力じゃもう全滅した頃だろうな」




「あの、日本騎士団が全滅!!??」

「ありえない」

「しかし国王様の見立てが間違ったことなんて……」



 騒めきが起こる。

 神級とは階級の最上位であり、今まで認定されたのは先代魔王・カストルとそれを討伐した勇者のみ。




 茶色の短髪、片側に編み込みがあり、細身だが上背がある。目は紺色で垂れ気味、優しげだ。その雰囲気はどことなく千草に似ている。

 彼は、赤の玉座から静かに立ち上がり宣言した。




「この私、国王・永久白人(ながひさはくと)の名の元に、勇者、及び国防軍の出動を命ずる!!」




*****




 一方、アオを連れ戻そうと決意した8人、千草と天原、そして広夜麻、植田、阿流間、石塚、鈴能は、市川の案内のもと新幹線や電車を乗り継ぎ、広島県へと向かっていた。



「すっげえ!! 俺、初めて来た!!」

「私も私も!! お好み焼き食べてみたい!」

「それな!!」


「「で、なんで広島??」」



「君たち、話を聞いてなかったのか?」



 子供のように電車の窓に張り付いてはしゃぐ阿流間と広夜麻に、植田が呆れる。


「オレたちは今、嚴島神社に向かってるんだ。それぐらい自分で考えなよ、馬鹿共」



「ば……いや確かに俺たちはバカだけどよ……」

「あっ今俺たちって言った!?? ひど!」

「阿流間さんは俺と同レベじゃん」



「ぬぬぬ……でもなんでわざわざ嚴島神社に?」



 話題を変えるように阿流間が訊いた。

 それに答えたのは鈴能。


「今から私たちは霧山碧ちゃんのいる“狭間“に行くの。簡単にいうと異次元に存在する空間に行くってことだよ」


「異次元に……?」


「それで、“狭間“に行くには、この世界の中で極めて神聖で冥界に近いとされる場所、時間、状況で、そこへ踏み入れることって条件を満たさなきゃいけない。それで日本で最も渡れる可能性が高いのが、嚴島神社────なんですよね? 市川さん」


 鈴能は確認するように顔を上げると、ちょうど誰かとの通話が終わり、スマホを閉じた市川が頷いた。



「その通りです。海面の満ちる頃、神社の鳥居を潜る。その方法なら不可能ではない、ということ。あとは皆さんの運次第、ではございますが」



(昨日“狭間“へ向かった日本騎士団の連絡が途絶えた。渡れたとて、言葉による交渉が可能かどうかはわからない。アオさんの返答にこの世界の命運が握られている……)



「市川サン??」



 千草が黙り込んだ彼の近くに寄って不思議そうに顔を覗くと、市川は彼を片手で引き剥がした。


「いえ、なんでもありません。そろそろ見えてくるはずです。気を引き締めなさい」


 辺りに夕陽色の光が差し込み、雲を薄紫に美しく照らした。海にぽつりと浮かぶように見えるその景色は幻想的で、今すぐにでも世界を渡れると錯覚するほどだ。数十分前までは雨が降っていたのか、鳥居にかかった水滴が光を反射する。虹が、かかっていた。


「き……きれい」


 有崎のその呟きで景色に見惚れていた一同は意識を覚醒させ、表情を締める。


 市川がひとつ息を吐いた。



「今日の俺は一個人としてここにいます。この行動によってあなた方が責任を負うことはないと保証致しましょう」



 一個人。つまり法や規則に則る国防軍の隊員としてではなく横浜マフィア頭領として。その意図を汲み取ったのは天原と千草だけだったが、その言葉は皆のプレッシャーを軽くすることに成功した。



「神月さん、みずなさん、お願いできますか」



「当然。詠唱省略はできるようになったな?」

「はいっ……!!」



「個人魔法っ、《階段》!!!」

「うん、いいね。個人魔法……、《空想家》」



 4枚、16枚、256枚────有崎によって創られる無数の魔法陣。それに天原の魔力を通していく。阿流間はあまりの光景に口をぽかんと開け、植田や広夜麻は唾を呑む。石塚と鈴能は目を輝かせ、市川だけは無表情で彼らを見守った。



「《魔力上昇》、《操流》、そんで《固定》……」



 魔力の尽きない限りイメージしたものをそのまま現実に創り出す、天原の個人魔法《空想家》。それに、無限に魔法陣を出現させ威力を増幅させる有崎の個人魔法《階段》。


 以前、有崎は自身の魔法を制御できず、クラスの落ちこぼれとなっていた。しかし合同授業で天原がその才能を見つけ出した。




 彼らの魔法の相性は抜群。

 2人が協力したその威力は──、







 特級魔法師にさえ匹敵する。







「「複合魔法《水月裂波》!!!」






 海に向かって放たれた魔法は、音もなくその海水だけを両断し、モーセのように海を割った。波しぶき一つすら上がらない。ただ、静かに、規則正しく、切り分けられたのだ。




 参道には僅かに水が張り、波紋が彼らを導くように広がった。高くそびえる水の壁。“狭間“に渡る条件を満たすことができる。


 あとは、鳥居を潜るだけ。



「わわ、私がやったとは思えません……いや海割ったのは天原神月さんですけど……」

「オレがちょっと修行してやったのに、まだフルネーム呼びなんだな」


「いやツッコむのそこ?? けど超すげえな、お前ら。よし、せっかく作った水の壁が崩れないうちに、早く行こうぜ」


 石塚は天原の背中をやや強めに叩き、先を歩く。一同は市川と石塚の後に続くように鳥居へ歩いた。


 神社の鳥居には、薄い光の膜が張られていた。それを越えれば未知の世界。先頭の市川が手を触れると膜が波紋のように揺らいだ。その時。



 市川は咄嗟に腕を振った。しかしその腕は空を切り、代わりに、ぐしゃ、と何かが潰れた生々しい音がやけに酷く聞こえる。




「へ?」




 有崎がぎこちない動きで首を後ろに回す。


「広夜麻、さん……!?」


 広夜麻の腹部が、銀髪の男が持つ三又槍に貫かれていた。彼がゆっくりと槍を抜くと、広夜麻がその場に崩れ落ちた。




「……えァ? は? なニ、こレ……」


「───遊太ぁあああっ!!!」




 植田がいち早く駆け抜け、再度振り抜かれた槍を躱して広夜麻を抱え、男から距離を取る。大量の血を流す広夜麻を優しく地面に寝かせて鋭い殺気を孕んだ目で睨んだ。

 目の前で起こった事に理解が追いつかず一同は硬直した。阿流間が、涙を浮かべる。




「おー、怖い。学生さんかァ。私は悪魔フォラウス……またお会いしましたねぇ……!!」





 フォラウスは名乗りと同時に指を鳴らす。そこには黒のフードを被った4人が現れた。




「魔高オリンピアの時、以来だな……悪魔」

「まさか、もう人間界を支配しに!!??」


「ひ、ひいっ!!??」



「いえいえまさか。それは私のする事ではない。アイオニオス様がなさることだ」


「碧……だと??」




 千草が顔を歪める。対してフォラウスはさぞ愉快そうに侮蔑を込めた笑顔を浮かべた。



「私たちの目的は“狭間“へ繋がるこの場所を破壊。この場所は人間界と“狭間を繋ぐ最も安定した境界”──裏を返せば、あなた方が碧様に干渉できる“最後の手段”。それを、消しに来たのだ」



「……“狭間”と人間界を繋ぐこの結節点ごと断つつもりか。アオさん……いや、アイオニオスはそれほどまでに、我々を拒絶しているということでしょうか」


 市川がフォラウスの発言を冷静に分析する。


「んふふふ……あなた方人間は全滅した騎士団の援軍も出せずに、この世界に閉じ込められたまま、哀れに滅亡するのダッ────」



 間髪入れずに植田がフォラウスの顔面に拳を入れた。彼の表情は怒りに染まっていた。



「すまない、みんな。時間がない。鳥居が壊される前に先に通ってアオを取り戻しに行ってくれ……僕は、行けないみたいだ」



 フォラウスを睨みつけ、杖を突きつける。いつも冷静な植田からは想像できないほど感情的になっているのがわかった。




「僕の親友を傷つけて、タダで済むと思うな」



「へぇ、んふふふふ!! なかなか、言うなァ」



 植田の鋭い目に再度笑ったフォラウスを見て、鈴能が植田の隣に並んだ。



「……植田玲くん、ここで私も戦うよ。回復魔法は得意だからさ」

「……ありがとうございます、鈴能先輩」



*****



 フォラウスの前に2人が立ちはだかる。同じように黒フードの4人も一同の前に立ちはだかった。

 布の影から鎖のようなものが見え隠れしている。


 そのうちの一人は少年のような見た目をしていて、頭には角のようなものが確認できた。



 その姿を見た千草の表情が一変する。彼は酷い憎悪で満たされ、拳を振るわせた。



 魔力から見て、黒フードの3人は人間。

 決別したはずの、懐かしい魔力。

 B組の生徒たちは目を見開き、それぞれに口を抑え、肩を震わせた。


 攫われたはずの、江山、黒滝そして、吉川。


 阿流間が愕然とした表情をして動揺した。

 誰にでも分け隔てなく接する彼女は、3人のことをよく知っていた。その上で、最も親しかった。


「蜜世ちゃん、真維ちゃん、なんで!? 誘拐されたんだよね!? 無理やり、戦わされてるんだよね!? 吉川哀羅ちゃんも……」


 彼らは無言で杖を構える。その様子に阿流間も同じように杖を構えた。



「やるしか、ないんだよね」



*****



 阿流間が江山たち3人と杖を構え合ったその時、千草は唇を噛み締めた。彼が憎むべき相手がその場にいたからだ。彼は静かに天原を呼ぶ。



「……オイ、天原」

「どうした?? 千草」



「ここは、俺に任せてほしい」



 千草は天原の目をまっすぐに見た。



「だから……お前、先に鳥居を潜れ」




「────────は?」




 天原が硬直する、が、市川は何かを察したように目を伏せた。



「お前、クソ野郎、理由を説明しろ。碧を取り戻すってのも、ここに来るのも、千草、お前が言い出したんだったよな? そりゃあどういう了見だ、あ"ぁ!??」


 


「……市川サン。アイツで合ってるんだよな?」

「ええ……では、この場は任せましたよ」


「はぁ? 市川さんまで……どうしたっていうんだよ」


 天原が困惑する。それもそうだ。いま、会話を理解しているのは千草と市川のみである。


「神月さん、野暮な詮索は不要です」

「感謝します。市川サン」


 千草が頭を下げると、市川の見下ろす視線が厳しくなる。「このガキ……」と微かに聞こえた気もするが、それよりも絶対零度に突き刺さる瞳が千草を射抜いた。


「はー……ですが界さん。それで、本当にいいんですか? 復讐なんて、南本隊員は望んでいないでしょう。無駄に時間を使い、勝手に野垂れ死にたいなら俺は止めませんが」



「────てめえッ!!」



 天原は2人の会話から推測。大筋理解した。そして呆れるように笑った。



「なるほどなぁ。ははっ、そんなことで悩んでいるのかよ。相変わらず考えが足りねえな、お前は」


「今、なんつった、天原……取り消せ」



 千草が天原に近寄り静かな視線を向けた。阿流間たちが気圧されるほどの威圧を放つ。

 それを軽くいなした天原は、彼の首根っこを掴み、市川の方に投げた。


「は、はぁ!? 何すん」


「お前より、オレの方が強い。よって、鬼人と戦うのはオレと石塚、そんで、そこの有崎だ」

「わわわ、わったしもですか!?!? むりむりむり絶対むりですぅ!!」


 怯える有崎を無視し引きずりながら、黒フードを被る少年────鬼人・焔に向かっていく。


「ふざけんな!! 俺は!」


「千草界。お前が一番やるべきことは何だよ。復讐?? 違えだろカス。基本的にお前はクソ甘えが」


「は?」


「……不真面目で他人の事なんかどうでもいいオレとは違う。この中で一番あいつの心をわかってやろうとしてんのはお前だろ。あと───、お前の恩人?の仇はこのオレが取っておいてやる。

一応、仲間……じゃねえか」


「天、原……」


「界。碧を頼んだぜ」


 魔力をまとい、歩き去る背中を見送り、千草もまた彼に背を向ける。

 膜に触れ、市川とともに、鳥居をくぐった。



「ありがとう、神月。おかげで覚悟、決まったよ」




 人間界、嚴島神社。


 阿流間 vs 江山、黒滝、吉川

 天原、石塚、有崎 vs 鬼人・焔

 植田、鈴能 vs 悪魔・フォラウス

 



「────さァ、始めよう」



 いま、開戦。




*****




 そこは業火に包まれ、瓦礫で埋め尽くされていた。そこら中に肉片が飛び散り、血だまりができていた。


 蒸気が立ち上り、全てが溶けていく。



「なんだよ……これ。どんな災害が起きたら、陸上のど真ん中から、地平線がみえるってんだよ」



 背後を振り返ると巨大で圧迫した雰囲気を醸し出す魔王城を境に、人間界と遜色のない街並みが並んでいた。

 本来ならばこちら側までその建物が続いていたのだろうが、何者かによって強引に破壊されていた。

 かろうじて綺麗に残っている死体の上半身をちらりと見る。



「これは……日本騎士団の紋章ですね。そして、この魔力は」

「それでも、話をしない理由には、なりませんよ」


「……界さんは本当に甘いですね。神月さんの言葉にも一理あります。しかし……」



「あなたがアオさんの仲間で、本当に良かった」


 

 思わず顔を上げる千草。

 市川は目を逸らすが、彼の口角がほんの少し動いたような気がした。千草は市川に似合わないその表情に顔を青ざめさせる。


「えっ……市川サン、すよね……?」


「なぜ引いたような目を。殴りますよ」

「怖っ」


 そんなやりとりをしていると、魔獣、魔族などの魔物に周囲を固められていた。

 もちろん市川は気づいていたが正面から迎え撃つため黙っていたのだ。

 千草が「うわ、魔物キモっ」と呟いているのを横目に、話しかける。



「そういえば、界さんと共闘するのは初めてですが、俺、いまだに界さんの個人魔法も知らないのですよね。戦闘系ですか??」



「いや、あんまり」


「チッ……役立たずが。まぁ死なれては困るのですが」

「市川サンってたまに本性出てますよね」



「ともかく、雑魚共はすぐに片付けましょう。早くアオさんの所へ向かいますよ。できますか??」



「ははっ、上等っ!!!!」


 

 襲いくる数千の魔物を相手取り、冷や汗を掻きながらも千草は笑顔でそう答えた。



「さあ、始めようか……宴の時間だ」

→「さァ、始めよう」


Q.「鬼滅の映画観た?」

A.「最高だった。がちで泣いた」



次回は土日のどちらかに更新予定!!


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